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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第5話 特殊ギミックは攻略法を見つける所から

「むきー!」


 サルみたいな声を上げながら、トトリが寝袋から起き上がった。


「ハザとかいうあのサイコ野郎! わたしのソマリちゃんをもてあそびやがってー!」

「トトリ、どう、どう。ほら、フィーを見て落ち着いて」

「ん!?」

「フィーたん! ハァ、ハァ……」


 キレッキレでキレ散らかしているトトリ。ひとまずフィーを見せながらなだめつつ、俺はトトリが得た情報を整理する。


「んーーー!!!」


 俺によって突然トトリの前に押し出されたフィーが抗議の声と共に、小さな手で俺を殴って来る。だけど、残念ながらダメージは一切発生しない。……ごめん、フィー。後でまた一緒にボスと戦おう。


「で、トトリ。10分近く、なんの話をしてたの?」


 NPCであるハザと、なにやら会話が弾んでいたように見えたトトリ。有益な情報が無かったのか聞いてみる。


「あ、危うくアステア教に入信しそうになった、よ? ソマリちゃんが居なかったら、危なかった……」


 なるほど。10分間も何を話していたのかと思えば、よくある宗教勧誘を受けていた、と。


「で、何か分かった?」

「な、何か? えっと、えと……」


 しばらく頭をひねっていたトトリ。やがて、にへらっと笑うと。


「ご、ごめんね、斥候さん。宗教にも男性NPCにも興味なかったから、聞き流しちゃった」

「いや、何のために死んだし……」


 忘れてた。そう言えばこの人のコミュ力は、美少女だけに発揮されるんだった。


 トトリがストーリー上で猛者だったのは、そこに可愛いヒロインが居たから。ヒロインたちとの会話を楽しみ尽くそうとした結果、トトリは俺が聞いたことのないエンディングを見て来たんだった。けど、ハザは声からして男性NPC。トトリが無双するには、見た目も、性別も違い過ぎた。


「貴重な寝袋が、また1つ無駄に……」


 溜息をつきながら、俺はインベントリ内のアイテム数を確認する。


 トトリからアイテムを預かっている以上、いま俺のインベントリの中にあるアイテムが、俺たちの全財産になる。


 寝袋の最大所持数は3。トトリは残り1つで、俺は2つ。回復薬が9個。防具は、俺が持ってきた耐魔の鎧が2つ、皮の鎧が2つ。トトリが装備していた鉄の鎧(青色塗装ver.)が一式。


「武器は全部トトリので、戦槌せんつい、長剣、ナイフ、戦場の槍……。」

「盾が……鉄の盾と、さっき斥候さんから貰った暴食の盾、だね」


 その他、トトリが持っていた小物があるけど、戦闘には使えないから無視する。


 悔やまれるのは、俺がアイテムをあまり持ってこなかったことだなぁ……。


 アイテム全損というデスペナルティがある以上、必要のないアイテムを持ち歩くのはアンリアルにおいてリスクしかない。だからアイテムは全て町の倉庫(月額100円/100個)に預けてある。


 よって、俺は普段通り、回復薬10個と、皮の鎧、耐魔の鎧を2セットずつしか持っていない。攻略をする上では、あまりにも心もとない準備と言えた。


「……とりあえず、今度は皮の鎧を装備して行こうと思う。最初から戦う方面で」

「わ、分かった! けど、どうやって倒す、の?」


 地面に転がるアイテムを拾うトトリが、俺を見上げて聞いてくる。


 ハザが狂人だという設定からしても、対話をしてどうこうするタイプのボスではなさそう。かといって、真正面からぶつかる相手でもない。となると……。


「いま俺が考えてるのは、2つの可能性。まずはその1つ……部屋の中にギミックがある可能性を探そうと思う」

「ぎみっく?」

「仕掛け、かな。例えば部屋のどこかにボタンみたいなのがあって、それを押せばハザにダメージをあたえられるとか、そんな感じ」


 ギミックで倒すボスの場合、攻略方法は多岐たきにわたる。天井に意味ありげに絵があるし、何かヒントになるかと思って観察してたけど、それらしいものが無いことは確認できた。


「あるとしたら、床か、壁。ボス自身の行動が鍵になってることも多いから、トトリは出来るだけハザを見ててほしい」

「りょ、了解! ……もう1つの攻略方法は?」

「それについては、あのボスがアステア教って言うのがヒントになりそうだけど……。とりあえず、トトリは部屋全体とボスの動きを見てて」


 首を傾げながらも頷くと言う器用さを見せたトトリに背を向けて、俺はボスが待つパーティ会場へと向かう。


(さっき、近づくまでハザは動かなかった。なら……)


 近づかなければ探索できるんじゃないか。淡い期待と共に、俺が手近な椅子に触れた、瞬間だった。周囲の食器たちが震えたかと思うと、一斉に俺に向かって飛びかかかってくる。


(さすがに、そんなにうまくはいかないか!)


 ある程度予想が出来ていたから、ギリギリのところでかわすことができた。俺を串刺しにし損ねたフォークやナイフが、白く滑らかな床に突き刺さる。お皿については、床に当たる直前で器用に方向転換して見せた。その後、お皿は一度俺から距離を取って、再び俺に向けて飛んでくる。形はフリスビー、動きはブーメラン、みたいな感じか。


(カトラリーたちも、このまま刺さって動かなくなる……こともないよなぁ)


 3秒ほど床に刺さったままだった食器たちだったけど、誰に触られるでもなくひとりでに床から抜けて、再び浮遊し始める。同じころ、他の机の上に置かれていた食器たちも次々と浮かび上がって、俺の方へ向けて飛んできた。


 急いでその場を離れ、全力で走りながら食器の動きを見切るんだけど……。


(見え辛っ!?)


 白い照明に、白い壁と床。こちらにまっすぐ飛んでくるお皿は線にしか見えないし、カトラリーに至っては点でしかない。


 壁に沿って走ることで飛んでくる方向をある程度絞ってみてるけど、全部避けるのは、まず無理。


「フィー! 鉄の盾!」

「ん!」


 俺の声で真白な盾に〈変身〉したフィーを装備して、俺は頭部に飛んでくる食器たちから身を護る。もちろん、数百にも及ぶ攻撃の全てを避けたり、守り切ったりすることは出来ない。


(痛……っ!)


 脇腹を守る皮の鎧にフォークが、足にナイフが1本突き刺さる。表示されたダメージは、脇腹が15、足が25。計40ダメージ。


(食器1つにつき、攻撃力は25。刺さったフォークとナイフも、3秒後には抜ける……っとと!)


 急いで走り出すと、狙いを外した食器たちが、次々と壁や床に突き刺さっていく。足を止めるとハチの巣になるから、絶対に立ち止まれない。


 さながら小魚の群れのようになって俺を追って来る食器たちを背後に見ながら、俺は椅子をひっくり返したり、テーブルクロスの下に滑り込んだりしてギミックが無いかを探していく。けど、それらしいものはどこにも見当たらない。


「こうなったら、プランB! フィー、『斬鉄ざんてつナイフ』!」

「ん!」


 全力で走る俺の手元に、刃渡り25㎝でつばのないナイフが現れた。


 斬鉄のナイフを含め『斬鉄の○○』系の武器は名前の通り、金属系の武器や防具、モンスターに防御力を無視したダメージを与えられる。一方、それ以外の物には一切ダメージを与えられないという、ピーキーな性能をしている。装備可能レベルは25。主に対人戦における武器破壊を目的として使われることの多い武器だった。


 で、この武器を使って何をするのかと言えば、当然。


「っ!」


 俺は3つ並んで飛んできたカトラリー一式を、斬鉄のナイフで迎え撃つ。


 すると、軽い金属同士がぶつかるような音がして、スプーン・フォーク・ナイフがそれぞれ1つずつ、真っ二つになった。同時に、


『Aaaaaaah!』


 ドーム状のパーティ会場に、絶叫が響き渡るのだった。


(この感触、当たりだ!? だったら……)


 再び襲い掛かってきた食器の群れ。それらをある程度弾いて、避けて。俺は大理石にも似た地面を滑って、足を止める。そして、ゲームオーバー覚悟で、食器の群れに突っ込んだ。


 狙うのは、狙いを外して床に突き刺さっている食器たち。飛んでくる食器を斬るよりも、数秒とは言え刺さって動けない食器を斬る方が簡単だ。


 次々に表示されるダメージを横目に、俺は身体に刺さった食器と、床や地面に刺さっている食器たちを斬っていく。ついでに、練習も兼ねて浮遊している食器も斬っていく。


(1つでも多く、少しでも長く生き伸びて――)


 果たして、どれくらい時間を稼いだだろう。数にして30ほどを切り刻んだところで、俺の眼前に「GAME OVER」の文字が浮かび上がる。


 徐々に暗くなっていく視界には、表情の見えない顔で俺を見下ろすフィーが居る。


 もっと運動神経が良ければ。反射神経が良ければ。フィーを使いこなせるんだろうか。


(ごめん、フィー……)


 完全に視界がブラックアウトしたのち、数瞬後には、見覚えのある通路の天井と、にゃむさんを抱えながら俺を見下ろすトトリの姿が映るのだった。

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