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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第3話 八百万の神々

 休憩と、ちょっとした作戦会議をして、時刻はもうすぐ午前0時になろうかという頃。


「じゃあ、トトリ。観察、よろしく」


 俺はボスが待つだろう部屋に向けて歩き出す。


 これからやることは、ソマリを倒す時にトトリが行なった作戦と同じ。つまり、死を前提に、裏ボスの行動パターンを把握。可能な限りの情報を得てから、トトリと裏ボスに挑むって感じだ。


 寝袋は設置済み。アイテムは全てトトリに託してあるから、デスペナルティも怖くない。存分に、ボスの情報を引き出すことができる。


「が、頑張って、斥候さん!」


 俺の主観と、トトリの客観。2つの視点から、裏ボス攻略の糸口を探す作業が始まった。




 裏ボスが居る部屋は、ドーム状の空間になっていた。ソマリが居た部屋の倍近い奥行きがあるように見えるから、半径は20mくらい?


 天井から吊るされている豪奢ごうしゃなシャンデリア。その光で照らし出されるのは、ドームの天井に描かれている美しい天井画だ。


(宗教画……。一応、地上部分の神殿にも、壁画とかあったっけ)


 そもそも、安息の地下は『フェイリエント神殿』の地下部分に当たる。で、その神殿を建てたとされているのが『アステア教』の人々。


 王都セントラルを中心に広く知られるアステア教。特定の存在や神を信奉するのではなくて、万物信仰を理念としている。


(あらゆる物には命が宿る。それゆえに、全ての物をいつくしみ、愛しましょう……だっけ)


 そんなアステア教をめぐるストーリー第2章のあれこれの時に、初めて、このフェイリエント神殿に来ることになる。


(そうそう。あの時に初めてこのダンジョンを見つけて。意気揚々と踏み込んでみたら敵のレベルが馬鹿高くて一瞬で溶けた(死んだ)んだっけ……)


 第2章当時の俺のレベルが10前後。対してこのダンジョンは、雑魚敵のレベルですら15~。攻略できるはずもなかった。


 中学時代の苦い記憶を思い出しながら、俺は改めて部屋全体を見遣る。


 シャンデリアの光が照らす室内は、さながらパーティ会場みたいになっている。白いテーブルクロスがかけられた長机と椅子が、部屋の形に添って円を描くように置かれている。ご丁寧に机の上には椅子の数と同じだけの皿や、スプーン・フォーク・ナイフなどのカトラリーが一式そろえられていた。


 このパーティ会場が何を表すのか。それを慎重に見定めながら、俺はドームの中央に居る人影に歩み寄る。


 遠目に見ても、ソレが何なのかはよく分かった。


 全身に巻かれた包帯。隙間からのぞくのは、乾燥した赤黒い肌。膝をつき、指を絡めて手を合わせ、祈るように天井画をぼうっと眺めるように裏ボスは……。


(ミイラ系のモンスターかな)


 ミイラとか、マミーとか。そんな呼び方をされるモンスターカテゴリーだと思われた。と、裏ボスまで10歩……10mくらいになった時だった。


『ようこそ! にえよ!』


 しゃがれ声で、ミイラが叫んだ。声からして、男性かな。


 叫ぶと同時に俺の方を振り返ったミイラ。包帯の隙間からのぞく赤い瞳と目が合うとBossの表記のもと『永遠を願うハザ』という裏ボスの名前が明かされた。


(話した……。ということは、最低限の知能がある……)


 アンリアルでは、最新章で知能を持った敵が登場している。つまり、この裏ボスがAIの知能を持ってして、戦闘中の駆け引きをしてくる可能性も考慮に入れなければならなかった。


 それから、裏ボス……ハザの発言も聞き逃せない。


にえ、とは?」

『そのままの意味です、賢明な人の子よ。もう気付いているのでしょう?』


 自然な会話。知能レベルの設定は、かなり高そう。少なくとも、ソマリみたいに決まった行動を繰り返すタイプではない。


 対策の立て辛い相手に警戒心を強くする俺に、ハザはセリフを続ける。


『見ての通り、ここは食事の場。けれども、食事は無い。となると……』

「なるほど。(プレイヤー)が食事になる。そういうことですね?」

『その通り!』


 腕を広げて、俺の言葉を肯定するハザ。


 まぁ、これもゲームや物語としては王道の展開かな。だとすると……。


「ひょっとして、永遠の命を求めて自らアンデッドになった。けど、その不完全な身体を維持するためには生き血が必要……とか?」

『エクセレント! その通りです、人の子よ!』


 使い古されたテンプレート。これまでのゲームでもよく見かけた設定だ。


 けど、こうしてフルダイブ操作で“体感”するとなると、途端に新鮮に感じるから不思議だ。


 目の前に居る存在が放つ、乾いた土のような匂い。合成音声か、あるいは人によって声が当てられているのか。真実は分からないけど、声に含まれる狂気が伝わって来て、否応なく現実の俺の鳥肌を立たせる。背中を伝う冷汗は、ゲームによって再現された物か、あるいは本物なのかも分からない。


 それに、何よりも俺を震わせるもの。それは、ボスの名前の横に表示されているレベルだ。


(75。レベル40の俺の、倍か~……)


 多分、装備も一切ない今の俺は、文字通り小突かれただけで即死すると思う。いや、装備があっても、普通に攻撃されたら即死だろうな。


 討伐に向けた道筋を探しながら、俺はひとまず会話を続ける。


「けど、生贄いけにえを求めるなら、手前の部屋でソマリを操って俺を攻撃する必要は無かったんじゃ?」

『アハハ! なことを! アレがにえを用意してくれるのであれば、楽ではありませんか!』


 つまり、ソマリは生贄を集めるためだけに利用されていた、と。


 プレイヤー目線だと、死んだプレイヤーはポリゴンになって消えた後、リスポーン地点で生き返る。けど、それはゲームだから。ゲームじゃ無ければ、ソマリによって殺されたプレイヤーは、ハザが命をつなぐための生贄になっているという設定なんだろう。


『痛みも空腹も感じられない身体で、常に祈りを捧げられる……。これ以上の至福はありません!』


 行き過ぎた信仰心。それが、ハザという男性から、理性を始めとした大切なものを失わせたんだろうな。


「あなたはアステア教徒なんですよね?」

『その通り!』

「万物をいつくしみ、愛する……。生贄って、その考え方に反するのでは?」


 単純な疑問をぶつけてみると、不意に。


『アハッ! アハハハハッ!』


 ハザが狂ったように笑い始めた。……なにこれ怖い。


『さては貴方あなた、アステア教徒ではありませんね!?』

「え、もちろんです。俺、無宗教なので」

『では仕方ありません。……いですか? アステア……万物を表すその言葉の中に、人は含まれていないのです!』

「……はい?」


 ちょっと何言ってるのか分からない。疑問を声に出すそんな俺に律儀に答えてくれるのが、アンリアルの優秀なNPC……ひいてはAIさんだ。


『古代語アステアが示すのは“物”。つまり、命無き物なのです!』

「……? でも、あらゆるものに命がある。だから万物を大切にするって言うのがアステア教の教えでしたよね?」

『んん! その通り! ですが、その真実は! 「命無き物をこそ愛せよ」という意味なのです!』

「はぁ……」


 つまり、信仰の対象は“物”であって“生物”ではないと、この人は考えている……のかな。


 けど、本編のストーリーの語られ方からしても、アステア教のNPC達を見ても。ハザみたいな、いかれた考え方をしてはいない。むしろ、多くの日本人になじみ深い、八百万やおよろずの神々、みたいな考え方をしていたはず。


(なるほど。生贄を容認する時点で分かり切ったことだったけど、やっぱり、頭がアレな人か)


『だからこそ! 私は命無き物になった! きっと敬虔けいけんなアステア教徒だったソマリ嬢も、命無き身体となって満足している事でしょう!』


 この口ぶり。ハザがソマリを殺した、あるいは死後の彼女を利用してるって考えて良さそう。


(う~ん。さすがにソマリが可哀想だ……)


 とりあえず、俺とハザが分かり合えないこと。それから、ハザを痛めつけても心が痛まないだろうことは分かった。


『さぁ、貴方あなたも! 私の信仰のかてとなってください! なぁに、心配は必要ありません! 死後もちゃんと、私が命無き物にしてあげましょう! この地下を守る、彼らのように!』


 このダンジョン全体にいるアンデッド系モンスター達を、自分が生み出した。今のハザの発言は、そう捉えることができるんじゃないだろうか。


 このダンジョンになぜモンスターが居るのか。ゲームだから、と、甘えず、その理由付けをしてくれるアンリアル運営の粋な計らいに、改めて感謝しつつ。


「嫌ですごめんなさい。……フィー! 『白鉄の剣』!」

「(ん!)」


 ネックレスに変身していたフィーを武器に変えてハザに斬りかかる。……でも。


『残念です』


 ハザの声が聞こえたかと思えば、次の瞬間には「GAME OVER」の文字が視界一杯に表示されたのだった。

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