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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「いや、まじでこの人、ヤバすぎるでしょ……」

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第16話 まさか人より先にAIに共感する日が来るとは

「にゃむさん! 〈万福ばんぷく招来しょうらい〉!」

『ナァゴォ……♪』


 トトリの指示を受けたにゃむさんが、両手を地面に着き、背筋を伸ばした姿勢で歌い始めた。


 ボスのHPが10%を下回って、ここまで5秒。今はちょうどボスの最後の切り札のモーションが、完成したところだった。逆を言えば、もう既に5秒を無駄にしていることになる。


 あとはもう、15秒しかない。フルダイブ操作に切り替えたせいでどんくささを極める、あのトトリが。どうやってボスのHPを削るのか。


『ナゴフ ナァゴ♪ ナゴフ ナァゴォ♪』


 身体を左右に揺らして歌うにゃむさんの野太い声が、静かなボス部屋に響く。いったいどんなスキルなのか。好奇心を持って俺が見つめる先で、今度はトトリが手元を操作する。


「銀剣から、戦槌せんついを……これだ!」


 棒の先に円筒が付いた巨大なハンマー系の武器『戦槌せんつい』をトトリが装備する。そう言えば、預かったアイテムの中に戦槌もあったっけ。てっきり、コントローラー操作で武器の練習でもしてたんだと思ったけど、この時のためにとっておいたらしかった。


 スケルトン系のボスであるソマリには、ハンマーを始めとする鈍器系の武器が有効武器になる。俺も、ソマリを攻略する時はフィーに戦槌へと〈変身〉してもらっていた。


(確かに、ダメージ効率は良い。けど、それでも奥の手にはならないような……?)


 疑念を持ちながら様子を伺っていると、トトリの身体が金色に輝き始めた。強化効果バフを貰っていることを示す、ゲーム上のエフェクトだ。バフをかけているのは、もちろん、にゃむさんだろうな。


(〈万福招来〉……。スキルの名前からして、運に関係するスキルなんだろうけど……)


 高レアリティのサポートAIが一様に持つ、チート級のユニークスキル。事前に、運が良くなる〈招福しょうふく〉のスキルについては聞いてたけど、にゃむさんにはまだ、戦闘で使えるスキルがあったらしい。


(名前からして効果も“運”に寄ってそうだけど、ユニークスキルが2つ……)


 俺は、ユニークスキルを1つしか持たないフィーを見遣る。今も俺の股の間に収まってぼうっとトトリの戦いを見ているフィー。この妖精さんも〈変身〉の他に、普通のサポートAIが持つ〈回復Ⅰ〉〈攻撃力強化〉〈防御力強化〉を持っている。けど、それはどのサポートAIにも共通することだ。


(どれも〈変身〉状態では使えないし、〈回復Ⅰ〉くらいしか使ってこなかったけど)


〈回復Ⅰ〉という名称からして、サポートAIが成長する気配のようなものはあった。ひょっとすると、何かしらの条件で使えるスキルが増えたり、持っているスキルが強化されたりするのかな。


(レベルが条件か、それとも好感度? 特定のシナリオ・クエストをクリア、とかもありそう……)


 相棒が成長するかもしれない。それがなんだか嬉しくてフィーの銀色の髪を撫でると、フィーはくすぐったそうに身をよじった。


「よ、よし、10秒! これなら……!」


 そんなトトリの声で、俺は思考をボス攻略の方に切り替える。


 トトリの発言からして、気付けば10秒も経ってしまっていたらしい。残された時間は5秒+α。アディショナルタイムは、トトリが即死攻撃で死ぬまでとなる。


「せ、せーのっ!」


 予想よりハンマーが重かったんだろうな。少しよろめきながら、それでもトトリはの長さだけで1.5mもある大きなハンマーをソマリに振り下ろす。動く敵ならまだしも、ソマリは最後の切り札のモーション中で動かない。さすがのトトリもそんな相手に攻撃を空振りすることはなかったみたいで、骨と剣がぶつかる甲高い音が響いた。


 「Critical!」の表記のもと、表示されたダメージは……900。


「……うん? 900?」


 また見間違えたのかな。


 再び戦槌せんついの攻撃モーションに入ったトトリと、表示されるダメージに目を凝らす。


「ふんぬりゃぁ!」


 なんとも気の抜ける声で振り下ろされた巨大なハンマーが、ソマリを捉える。重たい金属が地面に落ちたような音がして、表示されたダメージは……。


「やっぱり、900……!」


 桁を1つ間違えたかと思ったけど、そうじゃない。どういう理屈なのかは分からないけど、ちゃんとダメージが出ている。


「お、重い……。けど……!」


 身の丈よりも大きい戦槌を、再び構えるトトリ。けど、時間をかけ過ぎた。小部屋の中を、骸骨がいこつを模した黒い霧が縦横無尽に駆け回り始める。当然、トトリを襲うけど、もうトトリに攻撃の手を止める選択肢はない。


「と、とりゃぁっ!」


 プレイヤーを嘲笑(あざわら)うようにケタケタ笑うソマリの頭を、再び戦槌が襲う。またしても900ダメージが表記される。


「あと、いっぱ~つ……!」


 トトリがゆっくりとハンマーを構え直す姿を見届けたところで、大量の霧の骸骨がトトリに向けて一斉に襲い掛かった。


 四方八方から押し寄せる骸骨の見えない圧に押されたように、トトリがよろめく。例え即死の確率がどれだけ低かろうと、あれだけ食らえば死は確実。……なんだけど。


(ソマリ。いま目の前に立ってるその人、豪運おばけなんだ……)


『ナゴォ』


 プレイヤーが死ねば消えるはずのにゃむさんが今なお健在で、どこか誇らしげに鳴いている。それこそが、絶死ぜっしの霧に包まれたはずのトトリの“今”を知る指標になりそうか。


 やがて死を呼ぶ霧が晴れる。そこには、巨大なハンマーを手にする水色髪のプレイヤーが居て。


「ふんぬぬぬ……」


 当然のように即死攻撃を耐えきったトトリが、戦槌を目一杯背中に溜め始める。


 己のアイデンティティであり、運営の本気でもあるはずの、ボスの必殺技。それが、たった1人の豪運お化けによって、あっけなく攻略されようとしている。


 なぜかソマリはあごを鳴らして笑うことを止めていて、口は開いたまま。ボスを動かしているのもAIだから、感情なんてものはない。だから、その表情があっけにとられているように見えるのは、気のせいなんだろうけど。


(なんだこれ、とか。ふざけんな、とか……。トトリに対するその気持ち、多分、めっちゃ共感できそう)


 まさか人では無くてボスに共感することになるなんて。


「えっ、いっ、や~っ!」


 金色のオーラを纏うトトリが、呆然と立ち尽くすボスに巨大なハンマーを振り下ろす。


 鳴り響いた、重い金属音。900という見たこともないダメージが表記されたのち、骨が崩れ落ちる乾いた音が、ボス部屋に鳴り響いたのだった。




「……や、やった?」


 重い戦槌を何度も振り下ろしたせいか、肩で息をするトトリが俺の方を振り返って聞いて来た。


 喜びをこらえるトトリの顔が、俺にどんな言葉を期待しているのかは想像に難くない。……けど、残念ながら、俺は頷いてあげることができない。だって、俺が知るソマリの最期は、ポリゴンになって消えるから。骨が崩れるような音はしない。


 それに、目標のボスを倒したのならユニークシナリオをクリアした旨を知らせるメッセージボードが表示されるはず。なのに、まだシステムからのメッセージは無い。


「トトリ。トトリの目標は、ソマリをソロで攻略すること……だよね?」

「え? う、うん……」


 歩み寄った俺を、トトリが不思議そうに見ている。


 まだボス攻略が終わっていない。なのに、パーティでもフレンドでもない俺がボス部屋に入ることが出来てしまっている違和感には、気付いてなさそうかな。


「で、でも、わたし。今、倒した……よ!? ほら!」


 ついに我慢できず、自分の口でボスの攻略を口にしたトトリが、骨の山になったソマリを指さして嬉しそうに笑う。


「そうだね。でも、うん……。ごめん」

「……? な、なんで、謝る……の?」

「いくつか理由はあるけど、最初の違和感を無視しちゃったから、かな」


 斥候として、迂闊うかつだったんだろうな。


「い、違和感?」

「そう。これが、ユニークシナリオだって言う表記が出たでしょ? アレを、無視しちゃったこと」


 予想外のことが起きたのなら、素直に撤退するべきだった。けど、それっぽい理由を付けて、軽く考えてしまった。その結果が、今だ。


「トトリ。今から2つ、残念なお知らせをしないといけない」

「ご、ゴクリ……。何、かな?」

「1つ。『やったか?』とか聞いたら、大抵、相手は生きてる。だから、そういうことは言わない方が良いかも」

「あっ、フラグ……」


 フラグ。事象の枕詞みたいなもので、何かを言ったりしたりすると、必ずと言って良いほど、とある結果につながる。そんな感じ。


「もう1つ。場合にもよるんだけど……」


 俺は、トトリの背後を見つめる。


「シナリオには大抵、裏ボスが居るんだ」

「うら、ぼす……?」


 俺の視線に気づいて振り返ったトトリの視線の先には、意味ありげに口を開く、真っ暗な通路があった。

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