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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「いや、まじでこの人、ヤバすぎるでしょ……」

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第14話 人の集中力の限界は15分くらいらしい

 トトリがソマリのHPを減らせていた理由は、トトリが頑張ったからだった。具体的には、敵の攻撃に合わせて運よく転んだり、運よく当たった攻撃が全て「Critical!」になったり。そうした偶然が重なった結果、ボスのHPを25%も削ったらしい。


 「トトリ」という人物を何も知らなかった俺なら一笑にしただろうし、別の可能性を探っただろう。けど、悲しいことに、多分それは真実なんだと思う。


 運が良ければ、ある程度のことはどうにかなる。運が良ければ、フルダイブ操作が苦手で、初見のボスだったとしても、ある程度はやり過ごすことが出来てしまう……。その事実はまるで、己の努力が無駄なのだと嘲笑ちょうしょうされている気分になる。


 そんな、運だけでどうにかなってしまう日々の中、トトリが努力家な性格になったのは奇跡に近いんじゃないだろうか。


「やぁっ!」


 気合の込められたトトリの声。鎧がこすれる金属音。振り下ろした剣が、骨とぶつかる甲高い音。それらの音を聞きながら、俺は“運”というものがゲーマーを堕落させる、最大の敵であることを改めて実感していた。


『KtKt KtKt!』


 隠しボス『“安息を願う者”ソマリ』が顎を鳴らし、手にした杖でトトリに反撃を仕掛ける。けど、もうその時にはトトリは杖の間合いから遠ざかっている。


 距離が離れた相手(トトリ)に対して、魔導書を光らせたソマリが〈火球〉を6つ放った。


「盾を構えて最後の〈火球〉を受けた後……回避モーション!」


 6個目の〈火球〉を片手装備の小さな盾で受けたトトリが、横に転がった。直後、トトリがもと居た場所をまばゆ閃光せんこうが駆け抜ける。バチィッと激しい音を立て地面を焦がしたのは、ソマリが使用した〈雷撃〉だった。


「や、やったよ、にゃむさん! 斥候さん! 〈雷撃〉、避けれた!」


 上手く回避できたことを、両こぶしを掲げて飛び跳ねる“歓喜”のモーションをしながら喜ぶトトリ。


 戦闘が始まって、かれこれ20分強。これまで全弾被弾してしまっていた〈雷撃〉を、この時、トトリは初めて回避したのだった。


「トトリ! 敵! 〈炎弾〉のモーション!」

「ぅえっ!? ……あっ、う、うん!」


 部屋の入り口から俺が注意を促すと、すぐにトトリが本を掲げるソマリに対して斬りかかる。


 今トトリが使っているのは『銀剣ぎんけん』という武器だ。素の攻撃力は60とちょっと低めだけど、アンデッド系のモンスターに対してのみ、常に2倍の攻撃力を持つ武器になる。


 片手に盾を持つ都合、片手の武器しか使えない。そんなトトリが一番効率よくソマリにダメージを与えられるのが、銀剣だった。


「ていっ!」


 フルダイブ操作の名残か、攻撃のたびに声を発するトトリ。振るった剣がソマリの魔導書をしっかりと捉えて、ソマリの必殺技とも言える〈炎弾〉のモーションを解除する。この時に発生する4秒の隙を使って、


「とぉっ!」


 トトリが振り下ろす銀剣が、ソマリの頭部を的確にとらえた。


 銀剣の攻撃力120から、ソマリの防御力95を引いた25が、素のダメージ。だけど、ソマリの頭部は、およそ全ての武器において「Critical!」が発生することは確認できている。


 結果、表示されたダメージは25×1.5(端数切り上げ)の38。ソマリの推定体力が3万6,000前後であることを考えると、この戦闘で1000回、トトリはこの攻撃を繰り返さなければならなかった。


 〈火球〉が6個になっていることからも分かる通り、もう既にトトリはソマリのHPを半分、削っている。練習……つまりはトトリの努力の成果がはっきりと出ていて、回避にも攻撃にも物申すところは何もない。


 残すはもう半分。このままなら余裕かな、とか思ってたんだけど。


「う~……ゆ、指が痛い~」


 ソマリから距離を取ったトトリが、そんな言葉を漏らし始めた。


(う~ん、ボスに挑む前に、休憩時間を取れば良かったのかな……)


 かれこれ1時間。ほぼ休憩なしにここまで来ている。先日、初めてコントローラーを握ったばかりのトトリが疲労していても、なんら不思議じゃなかった。


(っていうか、ちょくちょくトトリがフルダイブ操作に切り替えてたのも、指を休ませるためだったのかも……?)


 コントローラーの大きさと使用感は確かめたけど、実際に使ってみないと分からないこともある。ひょっとしたら、コントローラーがトトリに合っていない可能性も考えられた。


 それに、不安要素と言えば、もう1つ。


「盾を構えて……って、熱っ!?」


 〈雷撃〉を避けられるようになったのは良いものの、今まで普通に避けられていた〈火球〉を、トトリがちょくちょく被弾するようになってきた。


 指の痛みもさることながら、多分、集中力が切れ始めてるんだと思う。実際、さっきも〈炎弾〉のモーションを見落としそうになっていた。


(1、2時間くらい、俺なら余裕で集中できるんだけど……)


 ゲームへの慣れの問題か、それとも本人の集中力の持続時間の問題か。少しずつ、ぼろが出始めていた。


『ナゴォ……♪』


 にゃむさんが〈回復Ⅰ〉のスキルを使用して、トトリのHPを回復する。けど、これから30分近く〈回復Ⅰ〉は使えない。


「ぜ、全然、ボスのHPが減らない~!」


 愚痴というか余計な言葉も増えて来たし、注意力は明らかに落ちている。正直に言って、かなり不味い状況だった。


「トトリー、集中力落ちてるー」

「わ、分かってる、けど! 普通、30分も集中力続かないよ~!」


 受け答えのためか、攻撃は諦めて全力で回避だけを行なっているトトリ。この人の言うことが本当なら、高校の授業(50分)はどうしてるんだろう? なんとなく、タブレットの隅で落書きとかしてそうだけど。


 なんてことを考えていた時だった。


「んー……」


 と、壁にもたれかかってトトリの様子を見守っている俺の股の間にいたフィーが、少し不機嫌そうな息を漏らした。青い瞳が見つめる先は、今もなお奮闘するトトリの姿だ。集中力に欠けるし、なんだかんだ文句らしいことは言ってるけど、着実にボスへのダメージを重ねている。


「どうかした、フィー?」

「……んん」


 何でもないと首を振るけど、その後も、面白くなさそうにジトーッとトトリを眺めている。


「トトリが意外と奮闘してることに驚いてる……とか?」

「ん!?」


 図星を付かれ、目を見開いて俺を見る姿は、人間そっくりだ。


 なかなか見られないフィーの驚いた顔を見返しつつ、改めて、いま何を考えているのかを尋ねてみる。


 すると、フィーが虚空を見つめてしばらく停止した。そのまま、数十秒。少し長い間を置いてから、


「……ん」


 無数のネット記事が表示された。そこに表記されている文字を並べていくと……。


「なるほど。フィーの予想だと、トトリはHPを半分も削れない計算だったんだ?」

「ん」

「なになに……。『もっと早く』『死ぬ』『諦める』『と思っていた』か……」


 そんなフィーの予想を裏切る形で、なおもトトリはダメージを重ねている。あと10分もすれば、ボスのHPが4分の1になるんじゃないかな。


 いくら前情報があったからと言って、初めてのボス攻略で、慣れないコントローラー操作でここまで来ているトトリは、素直にすごいと思う。


「おっけ。じゃあフィーは、自分の計算が外れて、悔しい……で合ってる?」


 共感では無くて、論理で。フィーが再現している感情について聞いてみると、


「んー……」


 そうー、みたいな感じで、フィーが俺のお腹に抱き着いてくる。……フィーが動くたび、背中にある青いはねが当たって、ちょっと邪魔なんだけど、まぁこれはご愛敬(あいきょう)かな。


『けど』


 と。その文言に丸が付いたネット記事を見せて来たフィーは、続いて。


『問題ない』


 という、脈絡のない文言を見せてくる。


「問題ない……? どういうこと?」

「ん♪」


 気にしないで、とか、見ていて、とか。そんなことを言いたげに笑ったフィーは俺に背を向け、再びトトリの戦いに視線を向ける。


(「んー……」の意味の推測、間違えたかな)


 言葉を話さない相棒が見せた笑顔。今回は、それがどこか不気味に映る。思えば、このダンジョンに入る時も、フィーは似たような笑顔を浮かべていた気がする。その意味を考えようとして、


(いや、なんでゲームでまで相手の真意とかを考えないといけないんだ)


 俺はフィーについての思考を放棄する。こういう、ちょっと疲れる対人関係を気にしなくていいからゲームをしているわけで、わざわざAIの考えを読もうとする意味はない。


「今は、トトリの攻略の方が優先……」


 1人呟いて視線を上げると、ちょうどトトリの全身が〈炎弾〉に飲み込まれたところだった。……ボス攻略、終わったかも知れない。

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