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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「いや、まじでこの人、ヤバすぎるでしょ……」

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第6話 きっと誰も期待していない展開だ……

 フィーのご機嫌取りも兼ねた風光明媚ふうこめいびな町『サード』での散歩を済ませた俺は、転移のクリスタルを使ってファーストの町へと戻って来た。視界の端に映る時刻は9時50分。前回遅刻したため、なるべく余裕をもってと思ったんだけど。


「あ」


 ファーストの町における転移のクリスタルの設置場所でもある噴水広場にはもう既に、見慣れた水色髪のプレイヤーが居た。


「あ、お、おはよう、たかな……斥候さん」

「うん、おはよ」


 今日の鳥取は、防御力10、魔法耐性10を持つ『皮の鎧』と攻撃力20の『長剣』を装備している。そのほか、頭や耳には控えめに装飾品。服装も少しドレスっぽくなっていて、ここ1週間で服装を整えたのがよく分かった。


「表情付きで会話できてるってことは、まだコントローラー操作じゃない感じ?」


 基本、コントローラー操作だと、音声をメッセージボードに文章化する機能を使って会話することになる。言った事が全て明文化されるから“聞き逃し”が無くなる反面、ほんのちょっとだけ会話に時差ラグが発生するのが欠点だ。あと、決められた表情しか出来なくなる。それこそ、機械人間のTECの人たちみたいに。


 だから、こうしてタイムラグなしに、しかも表情付きで会話できてるからフルダイブ型で操作してるのかなと思ったけど、鳥取は首を振った。


「あ、う、ううん。ち、違うよ? 音と表情を読み取る配信用の機材を、貸してもらったの」

「へぇ、そんなのあるんだ?」


 誰に、なんて聞かなくても分かる。間違いなく、ミャーちゃんこと入鳥におさんだろうな。


 つまり、今の鳥取はコントローラーでキャラを操作しつつ、会話や表情を外付けハードウェアでおぎなってるって感じかな。これなら、コントローラー操作のデメリットもほとんどなくなった。


「それじゃあ、時間も限られてるし、行こうか」


 今日は午後からバイトがある。お昼までというのもそうした事情があるから。俺がアンリアルをプレイしているのは、遊ぶのはもちろんだけど、お金を稼ぐため。じゃあどうして、お金にならないトトリとの訓練に付き合っているのかと言えば、トトリが無料で俺の知らない情報をくれるから。


 特にストーリー周りに関しては、トトリと俺が辿たどってきた道が全く異なる。


「あ、ここ。この酒場の看板娘『エリーゼ』ちゃんが、スライムたちが暴れてる理由を教えてくれて……」

「そ、そこの路地裏。ストーリーだと、そこに倒れてる女の子『ミッケ』ちゃんが居て。その子がスライムと話せるんだけど……」

「そうそう! 町を巡回してる騎士さん。今は男の人なんだけど、実は女騎士さんも居て、カイザースライムのこととか教えてくれたの」


 こんな感じで、情報がバンバン出てくる。出てくる情報が美少女NPCにかたよってるのは、まぁ、鳥取だからかな。


「トトリって人と話すの苦手なんじゃないの?」

「に、苦手……だよ? で、でも、可愛い子に声をかけないのは、失礼かなって……あ、引かないで」

「いや、引くでしょ、普通に」


 やり手のナンパ師みたいなことを言うトトリ。ストーキングのことと言い、この人の度胸は、どうなってるんだろう。


(……まぁ、でも)


 ちょっとだけ、分かる。NPCは、人じゃない。最悪嫌われるようなことをしても、何ら問題ない。会話に思考のリソースを割かなくていいから、楽なんだよね。フィーのご機嫌取りも一応してみてるけど、結局はAIだからという安心感が心のどこかにある。


 ふと気になって、胸にげている真っ白な指輪のネックレス――フィーが〈変身〉したもの――に触れると、


「(ん)」


 ちゃんと居てやってるよ、と言うように、やや不機嫌そうな声が返って来るのだった。


 と、そうしてイチノハラを目指して歩くこと少し。


「そ、そそそ、そう言えば! 斥候さん!」


 俺の前方で立ち止まったトトリが、上ずった声を漏らす。……どうしよう、嫌な予感しかしない。けど、無視するわけにもいかない。俺も立ち止まって、トトリの言葉の続きを待つ。


「こ、これから、い、一緒にモンスターを倒す……でしょ? だ、だだ、だから――」

「あ、パーティは組まないよ?」

「――パーティを組んで欲しいな……って、うぇ!?」


 現実と同じで少し垂れ目ながら、気弱さは感じさせない水色の目を大きくして驚いて見せるトトリ。


「ど、どうして……?」

「メリットと、デメリットの話……かな。トトリ、フィーにいたずらしそうだし」

「い、いたずら!? し、しないよ、そんなこと!」


 イェス美少女ノータッチ。どこかの標語みたいなことを言って、フィーに危害は及ぼさないと語るトトリ。


「でも、フィーを見てハァハァはするよね? フィー、トトリのこと、めちゃくちゃ怖がってるもん」

「そんな!?」

「いや、驚くところじゃないって」


 誰だって、自分を見ながら鼻息を荒くする人を見たら警戒するでしょ。なんなら、警察に通報すると思う。


「トトリをまだ信頼してないし、パーティを組むメリットもない。だから、今は組まない」

「(ん、ん!)」


 フィーが言ってるのは「そうだ、そうだ!」かな。トトリには聞こえてないだろうけど。


「あ、うぅ……」


 目に見えて落ち込んで見せるトトリ。ただ、表情のわりに身体が直立なのが面白い。フルダイブ型なら肩を落としてるだろうから、コントローラー操作って言ったのも本当そうかな。


「それに、トトリは1人でボスを倒すんでしょ? じゃあ理論上、俺は、要らないよね」

「た、確かに……!」

「それより、ほら。時間ないし、さっさとイチノハラに行こう」

「あ、ま、待ってよ、斥候さんー!」


 慌てたように駆けてくるトトリ。ここまで歩いていても、今こうして走ってもらっても。ファーストの町を出るまで、トトリが転ぶことは一度も無かった。




 そうして町を出て、10分。


「嘘、だろ……!?」


 俺はトビウサギと戦うトトリを見て、自分の目を疑った。


「ほっ」


 トトリの軽い声と共に振り下ろされる長剣。それが、見事にトビウサギを捉える。


『Kyu!?』


 ダメージを受けたトビウサギが、トトリに反撃の頭突きを行なう。けど、ひょいっと回避動作を入れた鳥取が、軽やかに頭突き避けて、軽く剣を振り下ろす。それだけで、


『Kyu~……』


 可哀想な声を上げながら、トビウサギが消滅する。たった、2撃。しかも、どちらもきちんと「Critical!」。接敵したトトリがトビウサギをポリゴンにするまで、たった10秒ほどの出来事だった。


「ふぅ……。ど、どうかな、斥候さん?」

「違う」

「ち、違う……? わ、わたし、どこか変だった?」


 トトリの問いに俺は大きく頷く。


 ついこの間、トトリが5分以上かけてトビウサギを狩っている姿を目撃させられた身としては、にわかには信じられない。


「トトリがこんなに普通なわけがない」

「ひ、ひどいっ!?」


 トトリが抗議の声を漏らすけど、実際にそうだと思う。誰も、トトリが普通であることを求めていない。いや、実際は喜ぶべきなんだろう。喜ぶべき……なんだけど。


「な、なんだろう……。コレジャナイ感がすごい」

「そ、そう……? あ、スライム……。えいっ」


 トトリが振り下ろした剣が、的確にスライムを捉える。ものの数秒で、スライムもあわれなポリゴンになって消え去った。


「えっと……。確認なんだけど、トトリってコントローラー操作って初めてだよね?」


 俺の言葉に、トトリが頷いて見せる。


「う、うん。昨日、初めて触った……よ?」


 人生で初めてのコントローラー操作。なのに、昨晩のうちに各種コマンドを覚えて、何なら自分の扱うキャラクターの攻撃範囲(リーチ)もしっかりと把握して。きちんと、使いこなしている。


(手先が器用だとは聞いてたけど、それが本当で、しかもここまでなんて……)


 他にも何かしら理由があるんじゃないか。いや、絶対にある。そんなふうに俺が考えているなんて、絶対に知らなかっただろうけど。


「き、聞いて、斥候さん。コントローラー操作だと、この子の全身をずっと見てられるの!」


 トトリが、声を弾ませる。


「この子?」

「そう、わたしの作ったこのキャラ!」


 つまり『トトリ』のことかな。


 確かに、コントローラー操作だと、三人称視点――キャラクターの背後などから俯瞰ふかん的にキャラを操作すること――になる。だから今、現実の鳥取は、ゲーム内のトトリを、まるでカメラを通して見ているように俯瞰ふかんして見てるわけで……。


「あー……ね」


 鳥取が、自身の理想を目一杯に詰め込んだキャラクター『トトリ』。その大好きなキャラクターをずっと見て、操作できる。鳥取にとってはその状況が何よりも嬉しいし、楽しいんだろう。つまり、コントローラーを選ぶときにも考えた、アレだ。


「好きこそものの上手なれ、ってことか」

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