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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「いや、まじでこの人、ヤバすぎるでしょ……」

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第4話 地雷(ワナ)は踏まないに限る

 時刻は午後3時を少し回ったくらい。複合型商業施設『EEON(イーオン)』にあるゲームショップを訪れて、1時間。


「ふぅ……。満足!」


 カゴいっぱいにアンリアル関連のグッズを詰め込んだ鳥取が、それはもう充足した息を吐く。放っておくとこのままレジに行っちゃいそうだから、俺は改めて用件を伝えた。


「いや、うん、ごめん。俺がストーリーの話を深掘りしたせいもあるんだけど、まだ目的地に着いてすらないから」

「え、あっ、そそ、そうだよね! コントローラー……」


 そう。俺たちはここにゲームのコントローラーを買いに来た。なんだかんだで俺も、鳥取が語るストーリーの話とか、キャラの隠し要素とかにのめり込んじゃったけど、そうじゃない。


 ひとまず鳥取を連れて、ゲームのハードウェア関連が売られている店の奥へと進んでいく。と、そこには、棚3列分くらいのコントローラーが展示されていた。


「す、すごい数……だね? この中から選ぶの?」


 ピンでとめた前髪の奥。気弱そうに垂れた目を大きく見開いて、俺に尋ねてくる鳥取。


「まぁ、大体そんな感じ。シナプスってゲーム会社が4つ合同で作ったらしいんだ。だから、少なくともそのゲーム会社が売ってる正規のコントローラーなら問題なく動作するはず」

「ほぇ~……」


 マヌケな声を漏らしながら、鳥取は片手にグッズが一杯のかごを持って、コントローラーを眺めていく。このお店だと店頭にコントローラーの実物が置いてあって、実際に握って確かめられるようになっている。


「握り心地とか、ボタンの硬さとか。L、Rの位置。連射ボタンの有無。コントローラーの大きさも結構大事で――」

「これにする!」

「早くない!?」


 開始1分も経たずに、鳥取がショーケースに入ったコントローラーを1つ示して見せる。どれだろうと俺も見てみれば、白を基調としつつ、黒い猫のシルエットが描かれたコントローラーだった。


 デザイナーズモデルで、がらと大きさからしても女性が使うことを想定してるっぽい。


(選んだ理由は、まぁ、可愛いから、だろうけど……)


「えっと……。いったん、試してからにしない? っていうか、試して欲しい」


 アンリアルは、かなり直感的な操作が求められる。しかも、鳥取が挑むのはボスの単独攻略。求められるプレイヤースキルも、高くなる。


 自分の好きなものを買うのは、鳥取の勝手だ。だけど、コントローラー操作がボス攻略の最後の希望である以上、コントローラー操作は出来るだけ妥協したくない。そんな俺の意図を汲んでくれたのかは分からないけど、


「……う、うん、分かった」


 鳥取は渋々、頷いてくれた。


 店内を探して、鳥取が気に入ったコントローラーと同型のものを用意する。で、スティックやボタンの硬さだったり、持ちやすさだったりを見て、感じてもらう。


「どう?」

「どう、って言われても……。こんな感じなのかなって」


 一応、俺も持たせてもらったけど、想像以上に小さい。俺が手で輪っかを作ったらすっぽり収まってしまう大きさだ。ボタンも小さいし、ボタン同士の感覚も狭いから、俺なら押し間違えちゃいそう。ただ、鳥取が持つと、良いサイズに見える。


「トトリって手、小さいんだ?」

「え、そ、そうかな?」


 念のために他の一般的なコントローラーも持ってもらおう。まずは、鳥取が選んだやつよりも、2周りくらい大きい、主に男性用のやつ。


「これはちょっと大きい……かも? 上にあるボタンに、指、届かない……ふんぬぬ……っ」


 コントローラーの側面についているボタンが押しにくいと言う。……うん、想定内。


 次は女性用の小さいやつ。普通は「ハ」の字になってることが多いコントローラーだけど、これはほぼ真っ直ぐ。ほぼ「H」の形をしている。


「これ! 後ろのくぼみがひっかかって良い感じ! でも、ちょっと窮屈、かも?」


 他にもいくつか試してもらったうえで、最初に鳥取が選んだコントローラーと同型のものを本人には内緒で持ってもらう。


「どう?」

「大きさも持ちやすさも良い感じ。……うん。こ、こんな感じのが良い、かな?」


 これまでの、どのコントローラーよりも好感触の反応。見た目もそうなんだろうけど、多分、直感的に自分に合うものをひと目で選んだんだと思う。ゲームをやってたら、めぐめぐって最初に選んだ武器とか職業ジョブに落ち着くことも多いんだよね。


(もしくはこれも、鳥取の「好き」がなせるわざ、なのかな……?)


 とりあえず、鳥取が最初に選んだコントローラーに問題はなさそうだということは分かった。デザイナーズモデルってことは細かい調整とかは出来ないだろうし、特注しようとすると期間もお金もかかる。


「オッケー。じゃあ、やっぱりこのコントローラーで良いと思う」


 俺は、黒猫が描かれたコントローラーを示して見せる。


「ぅえ!? そ、そうなの? でも、最後のやつがわたし的にはしっくりきたんだけど……な」


 最初はどれでも良さそうだったのに、最終的には、頑固者らしく、ちゃんとした“こだわり”も持ってくれた鳥取。愛着が湧けば、それだけ手に馴染みやすいと思う。『好きこそものの上手なれ』ってやつだよね、多分。


「実はこれ、鳥取が選んだのと同じ型のやつ」

「そ、そうだったんだ……!?」


 気弱そうな目を大きくしたのもつかの間。すぐに締まりのない顔になった鳥取は、


「うぇへへ、運命だね~、コンちゃ~ん」


 早速コントローラーに名前を付けて、ショーケースの中をうっとり眺めている。……今日も鳥取の気持ち悪さは絶好調だ。


「それじゃあ、あとは任せた。俺は鳥取がお会計終わらせるまで、そこらへん見とくから」

「え、あっ、ちょ……待って!」


 不意に、控えめに服を引っ張られた。


「待って、た、小鳥遊くん……!」


 服から手を放して、もじもじと上目遣いに俺の名前を呼ぶ鳥取。


「どうかしたの?」

「え、えっと、ね? あのコントローラー、どうやって買うのかなって……。あのガラスケース、開かないし……」


 実は非売品なんじゃ。そう言って、眉尻を下げる。そう言えばこの人、あんまりお店には来ないんだっけ。ダウンロードとか、ネット通販で生きてきた人なんだろうな。


「お店の人呼んで『これ下さい』って言うだけ」

「店員さんを呼ぶ!? わたしが!?」


 突然、今日一の声を出した鳥取。……え、驚くところじゃ無くない? 俺、変なことは言ってないと思うんだけど。


「そう。鳥取が、お店の人に、『これ下さい』って言う。おーけー?」

「む、むむむ、無理! し、知らない大人の人に話しかけるのなんて、無理!」


 高校生にもなって、子供のように駄々をこねる鳥取。これがウタ姉とかならいくらでも甘やかすんだけど、相手は鳥取。ただの同級生でしかない。


「じゃあ同じ型の別のコントローラーにする? ほら、あそこに置いてる――」

「お願いっ!」


 鳥取が悲鳴とも呼べそうな声を上げて俺の服のすそを掴む。


「お、お願い、小鳥遊くん……っ!」


 そう言って俺を見上げるその目頭には、薄っすらと涙が浮かんでいる。顔色も目に見えて悪くなったし、手足も震えているように見える。……これ、多分、陰キャだから人と話せないとか、そういう次元の話じゃないやつだ。


 恐らく、何かしらの地雷(トラウマ)があるのかもしれない。けど、別に踏み込んで聞く必要もないし、今のところ興味もない。斥候せっこうとして、地雷ワナは踏まないに限る。


 ただ、このままじゃ鳥取はコントローラーを買えないのも事実。ここで「知らない」なんて言って知り合いを見捨てるようなことをしたら、俺を育ててくれたウタ姉や義理の両親……(すぐる)さん、詩音(しおん)さんに申し訳が立たない。


「……分かった。俺が店員さんを呼ぶよ。お会計とかは無人精算機だし、1人で出来るよね?」

「う、うん!」


 目に見えてほっとした様子の鳥取。ピンでとめた前髪の奥。涙がにじんだ瞳に、生気が戻ったような気がした。


 俺が店員さんを呼んでコントローラーを取り出してもらう。その後は、鳥取が1人で普通に買い物を済ませたのだった。


 俺も所用を済ませてから、鳥取と店の外で合流した時、


「ご、ごめんね? コントローラー……」


 言いながら、気まずそうに笑った鳥取。多分、店員を呼ばせたことに対する謝罪なんだろうけど……。


(「ありがとう」じゃなくて「ごめん」なんだ……?)


 これも鳥取のトラウマに関係してるのかも。


「別に良いよ。1週間以内なら返品も出来るらしいから、しっかり使用感とか確かめたら良いと思う」

「う、うん!」


 大きく頷いた鳥取。顔色も戻った……かな?


「それじゃ、俺、家族(ウタ姉)からお使い頼まれてるから、また明日。アンリアルで」

「10時、だよね? りょ、了解!」


 謎の敬礼ポーズをした鳥取と別れて、その日は終わった。

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