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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「いや、まじでこの人、ヤバすぎるでしょ……」

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第3話 マルチエンディングはゲーマーを殺せる

 今年のゴールデンウィークは、中三日の平日を挟んで最大10連休になるらしい。アンリアルの大型アップデートがあるのは、中三日の平日の最終日に当たる、5月2日の18時。憲法記念日の前日らしい。俺みたいなアンリアルプレイヤーは、その後の4連休を使って新エリアを探索することになりそうかな。


 その大型アップデートを前に、俺と鳥取は隠しボスの攻略に挑むことになる。


 ゲーム内で、あり得ないほどのどんくささを見せてくれた鳥取。その原因が現実とゲーム内のキャラの体格の差だと気づいた俺は、鳥取にキャラの操作方法を、フルダイブ操作からコントローラー操作に変更することを提案した。


 多少、困惑はしていたものの、鳥取は俺の提案を受け入れてくれた。そんなわけで、今日、4月27日の土曜日。時刻は午後の2時を少し回った頃。俺と鳥取は、使用するコントローラーを買うために複合型商業施設『EEON(イーオン)』にやって来ていた。


「で、ニオちゃんの生配信が3日の12時からなの!」

「あー、ね」

「でもでも、その前の日の9時から前夜祭配信をするんだって! 出来ればその時にお祝いのケーキ(1万円)をあげたいな!」

「いいじゃん」

「だよね!?」


 俺の少し後ろ。笑顔満面、意気揚々と話しているのが鳥取だ。今日はだぼっとした印象の、厚手の黒いトップスに、深い緑色のスカートを合わせている。スニーカーなのは、ある程度歩くことを想定しているからかな。俺もそうだし。


「あ、もちろんその次の日もちゃんとしたご祝儀しゅうぎを贈るよ? やっぱりファンとしてはどっちもお祝いしたいから! あっ、今のは別に両方お祝いしてない人がファンじゃないって言いたいわけじゃないよ?」

「うんうん」


 待ち合わせたときにめちゃくちゃ緊張してたから、鳥取が大好きなニオちゃんの話を振ってみた。……振ってみたら、止まらなくなった。ウタ姉直伝(じきでん)『相槌のあいうえお』を使ってみてるけど、合ってるのかな。


「そうそう、ご祝儀って言ったら、この前ニオちゃんに10個ケーキ渡してる人が居たんだよ? 英語だからなんて読むか分からないんだけど、多分、外人さんだと思うな。そのスパチャの時、ニオちゃん、英語でちょっとお話振ったりもしてて。教養もあってワールドワイドに愛されるって、ほんと、ミャーちゃんってかっこいい! 神!」

「えー、まじでー?」


 というより鳥取さん。興奮するあまり、ニオちゃんを褒めたいのか、幼馴染(ミャーちゃん)を褒めたいのか分からなくなってませんか? 一応、秘密なんだよね?


「でも最近はわたしも配信の準備とか、ボス攻略とかで忙しくて、あんまりお祝いできてないの。別に金額じゃないって分かってるし、ニオちゃんも気にしてないって分かってるんだけど、わたし、負けたなぁって思っちゃって……。だから今度の配信は、ちゃんとお祝いしてあげたいの!」

「おー、すごいね。っと、着いた」

「え、あっ、うん……」


 俺と鳥取が並んで見上げるのは、とあるゲーム専門店のロゴ。品ぞろえの多いこの場所で、鳥取のお気に召すコントローラーを探していく。


 店は、入り口付近に最新ゲームタイトルやゲーミングPCが並んで、その奥が各種ゲーム機のソフトコーナー。一番奥にコントローラーを始めとするハードウェア関連が売られている。


 休日ということで人が多い店内を鳥取と歩いていく。と、


「あっ……」


 背後で、鳥取が短く声を上げた。振り返ってみればアンリアルのポスターがでかでかと貼り出されている。その周囲には特設コーナーもあって、グッズなどもいろいろ売られていた。


「どうかした?」

「う、ううん。わたし、通販以外でアンリアルのグッズ、初めてみるから……あっ、イリスちゃん!」


 アンリアルのメインストーリーに絡んで来るヒロイン枠のキャラのアクリルキーホルダーを見つけると、うっとりした表情で何枚も写真を撮り始める。続いて、ロリ枠のキャラ、モフモフ枠の動物たちの写真も次々に写真に収めて。さらにそれらのグッズを手に取ると、手近にあった買い物かごの中に次々と放り込んでいく。


 さすがに手持ち無沙汰だし、俺も近くのゲームコーナーを見に行こうかな。鳥取には勝手に1人で買い物を楽しんでもらおう。そう、思ってたんだけど……。


「見て見て、小鳥遊くん! コレ、5章の決闘シーンの後の花嫁衣装のリオンちゃんだよ!? 可愛くない!?」


 そんな風に鳥取が話しかけてくるから、逃げるに逃げられない。


「う、うーん……可愛い、かな」

「だよね!? リオンちゃんの反応が可愛すぎて、わたし、めっちゃ話しかけたんだぁ……。告白してくれるって演出も、最高!」


 きゃいきゃいと、リオンちゃんの魅力について鳥取が語る。アンリアルは町の数だけ物語の章が進んでいて、鳥取が言う5章は最新章。王都セントラルにある大商会の一人娘『リオン』が、他の商家との結婚式の時に誘拐ゆうかいされたことに端を発する物語。


 最終的にリオンを誘拐した盗賊団のリーダーと決闘になって、リオンはもとのさやに収まった……はず。ストーリーは全部流し聞きしてたから、ほとんど覚えてない。ただ、このストーリーで初めて“人の敵”が現れたことでも有名で、AIとの読み合いやブラフなんかに苦しめられたっけ。


(……って、ん? 告白?)


 そんなイベント、あったっけ? さすがにそんなイベントがあったら、俺でも覚えていると思う。それに、もう1つ湧いた疑問もある。それは……。


「鳥取って、盗賊団のリーダー、どうやって倒したの?」


 俺の記憶が正しければ、リーダーのレベルは30。かなり高度な戦闘技術が必要だったはず。どうやってあのボスを倒したのか、わりと本気で聞いてみたら。


「……? え、えっと。5章に戦闘は、無かった、よ? というか、アンリアルのストーリーには戦闘なんて無い……よね?」


 鳥取がそんなことをのたまってきた。


 アンリアルが、複数のエンディングが存在する「マルチエンディング方式」を採用してるのは知ってるけど、ストーリーに戦闘が無い……だと? そんなわけ、無い。各章には必ずラスボスが居て、きっちりと攻略をしないといけなかった。


「え、じゃあ1章のラスボス『キングスライム』は?」


 1章。物語の最初。プレイヤーは、ファーストの町を襲ってきたスライムの群れに対処することになる。その功績をたたえられて、プレイヤーは王都に呼ばれて2章以降に続いていくはずなんだけど……。


「え。キングスライムの大好物の『薬草』を300個用意する、んだよね?」

「あ、うん。でもそれは出来ないから、倒そうって話で……」


 薬草を1つ採取するのに大体10分。300個用意するのに3000分。単純計算で50時間もかかる。マイナンバーの関係上、1人1アカウントしか持てないアンリアル。ストーリーの攻略も、1人1回しか行なえない。さらに、各種機能は最初のストーリーをクリアすることで解放される。あらゆる機能が制限されているストレスフルな状況で、最低でも50時間かかる作業を誰がするというのか。


 いや、俺もやろうとはしたけど、最初の大体10個くらい集めた時点で、誰もが気付くと思う。


『あ。コレ、ゲームでよくある“無理難題を吹っ掛けられるイベント”か』


 って。だからプレイヤーは情報を集めて、レベルを上げて。キングスライムを倒す方向に進んでいくんだけど。


「……鳥取は、集めたの?」

「う、うん。そしたら、キングスライムがカイザースライム? になって。他のスライムを統率できるようになったとかで、引き連れて森に帰って行った、よ?」

「何そのほっこりエンディング!? 聞いたこと無い! というより、カイザースライム!?」

「ひぃっ! ち、近い、近いよ小鳥遊くん……!」


 俺の知らないモンスター『カイザースライム』。存在は知ってたけど、ストーリーが進めば出てくると思っていた。


「どんな見た目? レベルとか見た? 他のストーリーについても聞かせて」

「あ、う、えっと――」


 その後も、買い物をしながら鳥取が明かすストーリーは、俺の知らないものばかり。大まかなストーリー自体に大きな変化はないんだけど、確かに。鳥取が辿って来た物語には、戦闘というものが存在しなかった。


「今度、本格的にストーリーの情報とか集めてみようかな。いや、でも、もう俺はそのストーリーをプレイできないわけで……」


 言ってしまえば、絵に描いた餅。どれだけ魅力的な情報を集めても、もう俺はそのストーリーを体験できない。


「でも、情報を知らないままにするのも悔しいし……」

「あっ、これ。にゃむさんと同じ黒猫AIのマスコット♪」


 気付けばコントローラーそっちのけで、アンリアルの一区画に1時間以上足止めを食らっていたのだった。

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