表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「わたし、ボスに勝てそう?」「うん、無理」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/134

第15話 これって、普通のお願い……だよね?

 なかなか無理ゲーに思えた鳥取ととりによるボス単独攻略に一筋の可能性が生まれた、その後。50m走が7.0秒。立ち幅跳びを235㎝、ハンドボール投げを29mで終えた俺。なぜかペアを組んでくれている南雲から冷めた目線を向けられたけど、どう対応していいか分からないから無視をした。


 全競技、計測を終えれば、あとは記録用紙を提出して自由解散。更衣室で着替えを済ませ、部活(将棋部)に向かうと言っていた南雲と別れる。


(さて、どうやって鳥取を探そうかな)


 昨日まで執拗しつように返事を求めて来てたから、先に帰ったってことは無いと思う。けど、鳥取と、鳥取とペアを組んでいた新入生代表さんがいつ、体力測定を終えるのかが分からない。


 とりあえず俺は、帰る人のほとんどが通ることになる正門が見える場所――下足室にあるベンチに座って、待つことにした。


「こんなことなら、鳥取とフレンドになっとけば良かった……」


 天井と、俺の背後の窓の向こうにある空を見上げて独りちる。


 フレンドになっておけば、アンリアル内でメッセージのやり取りが出来るようになる。つまり、さっさと家に帰ってアンリアルをプレイしつつ、鳥取との待ち合わせも出来たんだけど。前にアンリアルで別れた時にそういう話にならなかったのが、俺も俺だし、鳥取も鳥取だと思う。


 とは言え、フレンドになれば相手とそのサポートAIに触れることができるようになってしまう。ひいては、フィーが鳥取に襲われる危険性もあるわけで。あの人見知りの妖精さんを守るためと考えれば、むしろ良い判断だった。そんな風に、俺が誰にともなく言い訳をしていると。


「ナゴゥ……♪」


 下足室のぬし、デブ猫、ふて猫、あるいはにゃむさん……。1,000の名前を持つだろう太った黒猫が、ベンチに座る俺の足元にやって来た。


「餌ちょうだいって? でも俺、何も持ってないし……」


 それに。そう思って俺が見るのは、生徒会によって下駄箱の側面に張り付けてある張り紙だ。そこには、太った黒猫のイラストと一緒に、


『猫は繊細な生き物です! 不用意に人間の食べ物を与えないで下さい!』


 と、大きな文字で描かれている。その張り紙の下には机があって、運が良ければ学校側(もしくは善意の誰か)が用意したキャットフードが置かれている。だけど、大抵は他の生徒が餌をあげてしまって、無くなっていることが多かった。もちろん今日も、机の上には何も置かれていない。


「ごめんな~、俺、何も持ってないんだ」

『ナァゴ……』


 しばらく撫でされてはくれるけど、愛嬌を振りまいても餌がもらえないと分かると、さっさと次の人を探しに行ってしまう。今回も太い尻尾を立てて鼻と耳をヒクヒクさせたかと思えば、さっさと俺にお尻を向けてしまった。


(現金な奴だなぁ、ほんと。……いや、これも野良猫の生存戦略か)


 とりあえず手近なトイレで手を洗おう。そう思ってベンチから立ち上がった時だ。


『ナゴゥ♪』

「よ~しよし、リアルにゃむさんは今日も可愛いね~!」


 つくづく、にゃむさんは俺と鳥取とを引き合わせてくれる存在らしい。いや、にゃむさんがいる所に鳥取が居るわけで。そのにゃむさんに近づけば、自然、鳥取とも会えるって話かな。


「今日もおやつあげようね~」

「見つけた、鳥取」

「わひゃぁっ!? あいたっ! あっ、ち、ちちち、違います! わたしがあげるのはキャットフードじゃなくてちゅーるで、だから太ったりはしない……って、小鳥遊くん?」


 素っ頓狂な声を上げて尻餅をついた鳥取と、運良く会うことができたのだった。




 ひとまず手を洗ってきた後、鳥取と2人、下足室のベンチに並んで座る。鳥取の膝の上には「リアルにゃむさん」が鎮座していて、鳥取が手にしている最強のおやつ「ちゅーる」を美味しそうに舐めていた。


「……俺が言うのも変だけど、鳥取って友達居たんだね」

「と、友達……?」


 片手でちゅーるを、もう片方の手でにゃむさんを撫でながら、俺に目を向けた鳥取。ヘアピンのおかげで、長い前髪の奥にある気弱そうな目元が、今日はよく見えた。


「そうそう。体力測定の時に一緒に居た人」

「みゃ、ミャーちゃん? そ、そう、だよ。入鳥にお黒猫くろねちゃん。わたしの、幼馴染」


 におくろね。新入生代表さん、そんな名前だったんだ。幼稚園から一緒で、家も隣同士。性格的には真逆にも見えた2人が一緒に居た理由にも、納得がいった。


「……うん? にお?」


 ふと、俺の頭の中で聞き覚えのある単語が引っかかる。にお。どこかで聞いたような。頭をひねっていた俺が答えを出すのと、焦った様子の鳥取が口を開いたのがほぼ同時だった。


「ち、違うよ!? ミャーちゃんはニオちゃんじゃないよ?! 確かに2人とも可愛いし格好良いしお話も上手だけど、全っ然別人なの! よく聞けば声とか話し方もそっくりで、もしかしてって思ったかもしれないけど、ミャーちゃんがニオちゃんの中の人ってわけじゃないから! ほら、現実リアルおんなじ名前使わないでしょ、普通!」

「あ、え、うん……」


 と、表面上は頷いておいたけど、多分そういうことなんだと思う。つまり、鳥取が大好きな「ニオちゃん」と、鳥取が頑張っているところを見せたいと語った大切な人物「ミャーちゃん」はどちらも同じ人物……入鳥にお黒猫くろねだったということ。


「え、じゃあ鳥取って幼馴染に貢いでるってこと?」

「貢いでるんじゃなくて、応援してるの! あと、推しへの応援は無償なんだよ!? それに投げ銭(スパチャ)する時は名前変えてるから大丈夫! ミャーちゃんにはバレてな……あっ」


 語るに落ちる。その典型例を鮮やかに、かつ分かりやすく見せてくれた鳥取。この人の発言で、いつもスパチャを贈ってる相手とミャーちゃんとが同じ人物であることが確定した。


 鳥取自身もそれに気づいたらしい。顔を真っ赤にして、まるで親の仇でも見るような目で俺を見てくる。


「た、小鳥遊くんにだまされた……っ!」

「いや、さすがに騙すって言い方は人聞きが良くないし、鳥取の自爆――」

「お、お願い!」


 不意に、鳥取が俺の制服をぎゅっと掴んだ。そのまま泣きそうな目で、俺を見上げてくる。


「み、みみ、みんなには内緒にして!? ミャーちゃんには2人だけの秘密って言われてるの……」


 震える手で俺を捕まえて、頷くまで離さないという姿勢を見せる。


「な、なんでも、言うこと聞くから……。だ、だからっ」


 すがりつく。そんな言葉がピッタリの態度で、俺を見上げる鳥取。その気弱そうな目元には薄っすらと、涙すら浮かんでいた。


 なんでもって……。そういうの、あんまり軽々しく言わない方が良いんじゃ? と思う反面。逆に言えば、鳥取にそう言わせるくらい、鳥取にとって入鳥にお……さんとの関係が大切だということになる。


 だから俺は、幼馴染に対する鳥取の想いを利用することにした。


「じゃあ、俺からのお願い。聞いてもらおうかな。鳥取って、結構お金持ってるんだよね?」

「……っ」


 何気なく言った俺の言葉に息を飲んだ鳥取の顔から、一気に血の気が引いていく。赤かった顔は青ざめて、病的なまでに白くなった。やがて力なくうつむいてしまった鳥取が、小さく言葉を漏らした。


「し、信じて、たのに……」

「えっと……何を?」

「た、小鳥遊くんが、そんなことする人だなんて、思って無かった」


 そんなこと、って。いったい鳥取は、俺がどんなお願いをすると思ってるんだろう。


「鳥取。俺は、チートツールとか以外、利用できるものは利用する主義なんだけど?」


 めちゃくちゃ短い付き合いだけど、鳥取は俺が思っている以上に頑固者だということが分かっている。ボス攻略をするうえで俺のアドバイスと言うかお願いを聞いてくれない可能性だってあった。そんな中、鳥取の自爆によって生じた隙。折角だから、何でも言うことを聞くと言った鳥取の言葉を利用して、試して欲しいことをお願いするだけなんだけど……。


「そう……だよね。小鳥遊くんも、あの人たちと同じ……だよね」


 何か覚悟を決めたらしい。顔を上げた鳥取は、俺の予想に反して、笑っていた。


「いくら? わたしは何をすれば良い?」


 困ったような、それでいて、全てを諦めたような、そんな笑顔だった。


 なんでこの人がこんな顔をしているのか。本当に、俺には分からない。らしくない、って思えるほどの付き合いでもないんだけど、そう思わずにはいられない。


「えっと、いやもうほんとに。鳥取の中で俺がどうなってるのか知らないけどさ――」


 頭をかいた俺を見つめる鳥取に、


「――鳥取。今度の休みって、空いてる?」


 俺は多分、普通のお願いをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ