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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「わたし、ボスに勝てそう?」「うん、無理」

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第14話 無理ゲーに勝ち筋が見えた時が最高って話

 俺が忘れていたこと……鳥取ととりの件を思い出したのは、午後の体力測定が始まってからしばらく経ってからのことだった。


 体力測定は、主に体育館と運動場で行なわれる。体育館ではシャトルランと長座体前屈、上体起こし、反復横跳び、握力の5種目。運動場で50m走、立ち幅跳び、ハンドボール投げの3種目の測定が行なわれていた。それら計8種目を、2人組を作って各々で回る。


 俺は、あえて最初にシャトルランを消化しようと、体育館へと向かう。誰も最初から疲れるようなことはしないだろうと予想は的中して、20mラインに並ぶ生徒の姿は少なかった。


 教師の指示に従って、特に何を思うでもなく淡々と走ることしばらく。


「ふぅ……。シャトルラン、お終いっと」

「お疲れ様、小鳥遊くん」


 軽く呼吸を整えながら、俺とペアを組んでくれた南雲と合流する。真っ先にシャトルランに行こうとしたらめちゃくちゃ渋った南雲だけど、結局は俺の我がままに付き合ってもらった形だった。


「意外と余裕そうだね」

「そう? これでも結構ギリギリなんだけど」


 ウタ姉に持たせてもらった水筒のお茶を飲みながら、南雲が測ってくれた記録を確認する。


「112回……。良かった、中学よりは走れてる」

「中学の時小鳥遊くんって運動部だったっけ?」

「うん? 違うけど……」


 中学の時は帰宅部で、家に帰ってすぐアンリアルって生活をしていた。ただ、現実の手足の感覚がアンリアルのキャラ操作に影響することが分かってからは、適度に運動するようにはしていた。


「だよね。……なんか、僕、裏切られた気分」


 南雲が自身の記録である62回という数字を眺めてため息を吐く。どうやら俺を、運動が出来ないタイプの人間だと思い込んでいたみたいだ。


(ある程度動けないと、ウタ姉に格好がつかないし……)


 運動を日課にしている理由の大半を占める、ウタ姉に幻滅されたくないという想い。運動部には及ばないだろうけど、これでも動ける方だと自負していた。


「う~ん、なんかごめん」

「いやいや。こっちが勝手に同族だって期待してただけだから。それより、次に行こう」


 その後、反復横跳び58回、上体起こし29回、長座体前屈38.5㎝、握力が右38㎏、左が36㎏と、まずまずの結果だった。南雲は運動が苦手と言っていたように、反復横跳びも上体起こしもオレの半分くらい。逆に、前屈は45㎝、握力も左右共に48㎏と俺を軽く超えて来た。


(比べるものじゃ何だろうけど、ちょっと悔しいな……)


 ゲーマーとしての良くない負けず嫌い精神が顔に出ないように、体育館での測定を終える。続いて向かうのは、運動場だ。


 体力測定は男女混合、学年全員で行なわれる。だから他のクラスの人たちを見かけることも多い。50m走の順番待ちの列の中に、鳥取ととり柑奈かんなの姿を見かけたことで、ようやく俺は忘れ物――鳥取ととりのボス単独攻略に協力するか否か――を思い出すことができたのだった。


「小鳥遊くん、あの人……」


 今や俺の周囲では有名人になってしまった鳥取ととりの姿を見つけて、南雲が俺の運動着の裾を引く。俺たちの視線の先、鳥取は同じクラスだと思われる女子と、談笑していた。


「あ~、うん。鳥取だね。……って言うかあの人、友達いたんだ」

「結局あの後、どうなったの? 最近また、ストーキングされてるっぽいけど」


 南雲が言うあの後、とは、鳥取と初めて1年B組で話した時のことかな。気を使ってくれていたのか、これまで南雲たちがその話題に触れることは無かった。


「まぁ、うん、大丈夫」

「本当? 困ったら言ってね。絶対に力になるから!」


 ありがたいことを言ってくれる南雲にお礼を言っていると、先に並んでいた鳥取たちの番がやって来た。


「ミャーちゃんが先に走って?」

「分かったわ。じゃあ、はいこれ、ストップウォッチ」


 ミャーちゃんと呼ばれた女子が、鳥取に計測用のストップウォッチを渡している。「ミャーちゃん」と言えば、この前、アンリアルで鳥取が口にしていた名前……だったはず。あのミャーちゃんに頑張っているところを見せたいから、鳥取はボスに挑みたいと語っていた。


(あれが、「ミャーちゃん」……)


 黒くつややかな髪を1つに結んで、スタートラインに立つ女子。全体的にすらっとしていて、どことなく千木良と雰囲気が似ている。多分、運動部か、何かしらのスポーツをやってそう。若干釣り目だけど、目が大きいからあんまりきついって感じの印象は受けない。


 言ってしまえば普通の。でも、なんとなく人を引き付ける引力のある女子。それが「ミャーちゃん」だった。


「って、そっか。あの人。なんとなく見覚えあるって思ったら、新入生代表の人か」

「あー、鳥取さんとペアの人? そうだよ、確か名前は――」


 南雲がミャーちゃんの名前を言おうとしたところで、50m走開始の電子ホイッスルが鳴り響く。クラウチングスタートの姿勢から一気に加速したミャーちゃんは、あっという間にゴール。同じ組で走っていた男子と、ほぼそん色ないタイミングだったように見えた。


(やっぱり、めちゃくちゃ運動神経良さそう)


 ゴールの向こうで鳥取とハイタッチをしたミャーちゃん。その後すぐ、今度は鳥取がこちらに駆けてくる。今日は運動する日だからだと思うけど、長い前髪をヘアピンでとめている鳥取。だけど誰とも目を合わせないように俯いて走って来たから、俺の存在に気付くこともない。


 そのままスタートラインに立って、少し。他の面々の準備が整ったところで、再びスタートのホイッスルが鳴り響く。


 アンリアルでの「トトリ」の惨状を知っている俺の予想だと、鳥取は足が遅くて、何なら途中で転ぶのかとも思ってたんだけど……。


(あれ、意外と普通だ)


 確かに足は遅いけど、別に遅すぎると言うこともなく、転ぶこともない。普通に走って、普通にゴールした。……何だろう。ちょっとだけ、感動している自分がいる。ゴールの向こうではミャーちゃんと普通に話してるし、自分のタイムに一喜一憂する姿も普通だ。


「南雲。新発見なんだけど、鳥取って普通だったんだんだね」

「いや、さすがに失礼……でもないか。小鳥遊くんストーキングされてるし。でも、うん、50m走は普通だったね」


 じゃあ逆に気になるのは、ゲームでどうしてあそこまで壊滅的なことになるのか。アンリアルでの鳥取は、5分ほど歩けば1度は転ぶようなどんくささをしている。走ろうものなら、100mも持たずに絶対に転ぶし、足も遅い。


 まるで、ゲームと現実が別人であるように……。


「……ん?」


 それは、ふと湧いた疑問だった。この前、遅刻しながらもアンリアル内で鳥取と待ち合わせをした、あの日。俺はゲーム内の「トトリ」をまじまじと見たときに、強烈な違和感を覚えた。


 細部までこだわって作られた「トトリ」というキャラクター。顔も、全身のバランスも、普通なら違和感なんて覚えないほど完ぺきにキャラクリがされていた。だと言うのに、俺には違和感があった。その理由って、もしかして。そう思って、俺は遠くで談笑する鳥取ととり柑奈かんなの全身……特に胸を観察する。


(やっぱり、明らかに胸は盛られてる……)


 現実の「鳥取」は、スレンダーと言う言葉が似合う体形をしている。他方、ゲームの「トトリ」はと言えば、主張し過ぎない程度ながらしっかりと、胸があった。多分それが、俺が抱いた違和感の正体。だとすると……。


(確証はない。けど、もしかして……)


 思い出すのは、先日のウタ姉との買い物デート。あの時ウタ姉は、NLSの難しさを教えてくれた。具体的には、自分の物じゃない手足を動かすことの難しさを。


(人によっては数か月、数年単位で義肢の扱いに慣れなけれないといけないんだっけ……)


 さらに時を巻き戻せば、俺がアンリアルに初めてログインした時だ。普段なら絶対に被弾しない攻撃を、被弾する機会があった。その理由は、ブランク……だけじゃなかったはず。


 鳥取本人の趣味嗜好も関係ないはずがない。あの人、ニオちゃんやにゃむさんのことを好きなのもそうだけど“可愛いもの”が大好きだ。この前待ち合わせに遅れた代償としてフィーの鑑賞を要求してきたのも、その後の行動でも。可愛いモノを愛でるためだと思えば納得できる。


(じゃあ、そんなトトリがキャラクリするなら……?)


 絶対に、あらゆる自分の理想を詰め込んだキャラクターになる。だからこその「トトリ」の完成度なのだろう。


「理想と現実の違い。それこそが、鳥取が残念な理由なのかも」


 だとすれば、改善策も見えて来ると言うもの。お先真っ暗だった鳥取のボス単独攻略に、光が見えた瞬間だった。あとは、あの頑固者から、どうやって妥協をひきだすのか。それにかかっている。

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