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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「わたし、ボスに勝てそう?」「うん、無理」

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第12話 『憤怒の毛皮』回収依頼

 その日、俺はセカンドの町にやって来ていた。理由は、懇意こんいにしているアイテム屋のぷーさんからアイテム採取の依頼を受けたから。


「セカンド……。思えばここも、久しぶりかも」


 アンリアルの中。斥候せっこうになった俺は、セカンドの町を眺める。建造物の様式なんかはファーストの町と変わらないんだけど、地面は石畳じゃなくて土。それから、町を縦横無尽に駆け巡る水路が特徴的かな。水路に面した家には必ずと言って良いくらいに水車があって、今日も元気に回っている。


 町の規模もファーストの町と比べると4分の1くらいで、どこか田舎のような安心感がある。ゲーム内でプレイヤーが持つことができる物件が最も多い場所。それが、セカンドの町だった。


「さて。それじゃあ素材集めと行きますか」

「(ん!)」


 今日は白い腕輪になっているサポート妖精のフィー。装飾品になれば町を一緒に回れることに味を占めたらしく、最近はこうして装飾品に〈変身〉したフィーを連れ歩くことが多い。こちらとしても可能ならフィーと一緒に居てあげたいし、好きにしてもらっていた。


 ファーストの町は周囲が草原エリアだけど、セカンドの町は川と『ニノモリ』と呼ばれる森に囲まれている。見通しも悪くて、モンスターと不意の遭遇戦そうぐうせんになることだって珍しくない。半面、ダンジョンや中ボスの発見率も高くて、アンリアルで稼ごうとする人には意外と人気がある場所だ。


 こうして街道を歩いていても、時折、森の中からプレイヤーの話し声だったり、戦闘音だったりが聞こえてきていた。


「さてさて。森のクマさんはどこかなっと」


 今回ぷーさんから頼まれている素材は『憤怒の毛皮』。この素材は、セカンドの町の周辺に湧くクマのモンスター『グリズリー』を倒した時に、一定の確率でドロップするアイテムだ。しかも、とある条件を満たせば、ほぼ確実に手に入るアイテムでもあった。


 グリズリーは「中ボス」と呼ばれ、マップ内で出現する数が決まっているタイプのモンスターだ。マップ内にいくつか存在する「湧き場」と呼ばれる地点に出没し、あとは一定範囲内を自由に動き回る。


 レベル、攻撃の癖なんかに結構幅広い個体差があって、1度討伐に成功しても、次に挑んでみれば失敗する、なんてことも少なくないと聞く。挑戦の成否にかかわらず、挑むことができるのは24時間に1回。出会うのも難しいんだけど、もし討伐に失敗すればデスペナルティだけでなく時間的な制限も食らうことになる。それが中ボスと呼ばれるモンスターだった。


「(ん)」


 と、不意にフィーの声が聞こえて、俺の目の前にいくつかのピンが突き立ったマップ画面が開かれた。続いて補足情報が書かれた吹き出しが出現する。どうやら、フィーがグリズリーの目撃情報の多い場所を調べてくれたらしい。


「ここから近い場所だと……ここか。でも多分、他の人も同じこと考えるだろうし」

「(ん?)」


 それならこれは? と言うように、フィーがピンを刺し直す。そこは、かつて俺がグリズリーと遭遇した場所だ。


「……じゃあ、さっきのピンと被ってない場所は?」


 俺がそう言うと、マップ上に2つだけピンが残った。ネット上では有名じゃない場所なら、グリズリーに会える可能性も高いはず。


 俺は残ったピンのうち、現在地から近い方をタップする。と、俺の視界に黄色い矢印が現れた。ピンを指した場所の方向を示す「ガイド」と呼ばれるシステム。プレイヤーがどこに向かえば良いのかを誘導してくれる、便利機能だった。


「さっそく森の中だけど……。まぁ良いか」


 俺は街道を外れてニノモリへと足を踏み入れた。




 それから、1時間。俺は、体長3mを優に超える巨大なクマと対峙していた。毛皮の色はくすんだ茶色。常にお腹を空かせているという設定を持ち、積極的にプレイヤーを攻撃してくる。


『Grrr……』


 低くうなり声をあげるこのクマのモンスターこそ、俺のお目当てのモンスター『グリズリー』だった。


「ピンの位置にほとんどピッタリ。……さすがフィー。ありがとう」

「ん!」


 俺の隣。白いワンピースを着た妖精の姿に戻っているフィーが、腰に手を当てて胸を張っている。そんなフィーの方から飛んできた半透明のメッセージボードには、以前俺が集めたグリズリーの基本的な情報が書かれていた。


 攻撃力は60~90。防御力が20~30。体力は6,000~1万。分かってはいたけど、結構、個体差がある。あと、把握しておきたいのは、グリズリーはプレイヤーがとある行動をすると、行動パターンや攻撃力が変わること。


「具体的には……逃げる!」


 俺がグリズリーから全力で逃げる行動を見せると、すぐに結果は現れた。


『Grrraaa!』


 口からよだれをまき散らしながら、グリズリーがすごいスピードで追ってくる。ステータスと言うものが存在しないアンリアル。スキルを使えば現実離れした動きは出来るけど、基本的には現実を凌駕りょうがする動きをすることはない。人間が走る速度も、たかが知れている。何が言いたいのかと言えば、クマから逃げられるはずも無いってこと。


 俺が逃げるのをやめて転身すると、案の定、グリズリーはすぐそこまで迫っていた。


『Gaaaaaa!』


 巨大なクマが、突進の勢いそのままに大きく口を開け、俺に噛みつこうとしてきた。さっきまで黒かったその瞳が、今は赤く染まっている。これが、グリズリーが“興奮状態”にあることを示している。攻撃力に「+10」の補正を受けて、通常よりも素早い行動を見せるようになる仕様だ。


 プレイヤーに何のメリットも無いように見えるけど、運営側が用意したメリットも少なからず存在する。それは……。


「くぅっ……」


 俺は闘牛よろしくギリギリでグリズリーの突進を避けた。攻撃がかわされたグリズリーだけど、着地後すぐに俺の方に向き直って、その巨大な手の先にある爪で引き裂こうとしてくる。


「ふ、よ、っと……」


 左右から襲い来る攻撃。屈んで避けるとこちら側の隙が大きくなってしまうし、攻撃から目を逸らすことになる。だから無理せず、バックステップで距離を取って避ける。当然これも“逃げる”と言う行為に該当するため、グリズリーがさらに目を赤く光らせる。攻撃力と攻撃速度がさらに上昇した証だ。


 さすがにもう、見切ることなんてできない。だから、迎え撃つ。


「フィー! 『鋼鉄こうてつ大盾おおたて!』」

「ん!」


 瞬時に俺の身体よりも大きい、2mサイズの盾に変身したフィーを使ってグリズリーの攻撃を真正面から受け止める。


 怪力を持って、何度も振り下ろされるグリズリーの鋭い爪。盾に当たるたびに強烈な衝撃と音が響く。重いから両手で持たないといけないし、攻撃力も無い。その代わりに高い防御力をもつ武器ジャンル「大盾」。鋼鉄の大盾の場合は防御力が80もある。


 そんな、ダメージを引き受ける盾役タンクに必須の武器をもってしても、防ぎきれないダメージ。50のダメージが繰り返し表示されること、6回。


 不意に、攻撃が止んだ。


「ん!」


 〈回復Ⅰ〉のスキルを使うために変身を解いたフィー。その向こうには、よだれを垂らし、肩を上下させながら大きな呼吸を繰り返すグリズリーの姿があった。


 これが、グリズリーを興奮状態にする数少ないメリットだ。通常のグリズリーは図体のわりに素早い動きと高い攻撃力でプレイヤーを苦しめる。しかも回避すれば興奮状態になってしまうため、攻撃を受ける盾役が必須となる、癖のあるモンスターだ。


 一方で、2段階目の興奮状態になったグリズリーの激しい攻撃を耐え抜けば、疲れたグリズリーは20秒という大きな隙を見せてくれる。


「じゃあ、ここからは沢山殴ってくれた意趣返し。ボーナスタイムってことで……」

「んー……」


 俺とフィー。2人でにやりと笑って、斬撃、殴打、刺突。あらゆる攻撃をグリズリーに叩きこむ。


 さすがに一度の隙ではグリズリーの高いHPを削り切ることは出来なかったけど、グリズリーにはHP減少による攻撃力の増加などはない。行動パターンの変化としては、HPが半分を切った時に一度だけ必ず興奮状態になること。そして、10%を下回るとグリズリーの方が“逃げる”行動を見せること。


 逆を言えば、HP10%手前で興奮状態にして攻撃を耐えきり、息を切らしている間に残っているHPを削り切れば良いだけ。加えて、興奮状態の間にグリズリーを倒せば、俺の知る限りでは100%、『憤怒の毛皮』を落とす。


 それは今回も例外じゃなくて……。


「よっし! 勝ったどー!」

「んんんー!」


 グリズリーとの戦闘が始まって、15分後。ポリゴンとして消え去ったグリズリーが残した『憤怒の毛皮』を掲げて、俺とフィーはぷーさんからの依頼クエストをクリアしたのだった。

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