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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第一幕……「ボス戦は、敵の体力が半分を切ってからが勝負」
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第16話 多分これは、ゲーマーが一番嫌う攻撃だ

 現行のラストダンジョン『安息の地下』に入ってから、40分。隠しボスとの戦闘が、30分にもなろうという時。


(ようやく……ようやく……っ!)


 内心、歓喜の声を漏らしながら、フィーが変身してくれている巨大なハンマー『戦槌せんつい』をボスに振り下ろす。同時に、ボスのHPゲージが半部以下を示す黄色から、10%以下を示す赤色へと変化した。


「よっっっし!」


 長かった戦いに終わりが見えた時の感動は、多分、この手の無理ゲーに挑んだことがある人にしか分からないだろう。ゲームのハードウェア『シナプス』を装着している現実の俺も、口元を緩ませていることが分かる。30分間、同じ敵を相手にするなんて、それこそお金でも貰わない限りやってられない。


「けど、ようやくこれで……。フィー、『ナイフ』で!」

「ん!」


 すぐさま、重くて扱い辛い戦槌せんついからナイフに姿を変えたフィーを手に、ボスから距離を取る。


『KtKt KtKt! KrKr KrKr!』


 HPが半分を切ってからは常にまとっていた赤いオーラを、なお一層強く、広く放出し始める隠しボス『“安息を願う者”ソマリ』。両手に持った杖と本を天高く掲げ、骨だけになっている口元をしきりに動かしている。ボスがピンチになった時に使用する、いわゆる「最後の切り札」が、今まさに使用されようとしていた。


「これを最後まで見たら、少なくとも、このボスの基本モーションはコンプリート!」


 ボスによってはマルチプレイ……複数人で挑むことでのみ見せる行動もあるけど、残念ながらソロプレイの俺では得られない情報だ。こればかりは、あとで俺から情報を買ってボスに挑んだパーティに聞くしかない。その代わり、情報料をおまけしたり、次回の新情報を優先的に提供したりと言った取引も必要になるんだけど。


(今はとにかく、このご褒美を見ないと!)


 頑張ったプレイヤーへのご褒美が、ボスが見せる最後の切り札だと、俺は思う。この攻撃だけは唯一、プレイヤー側に理不尽を押し付けてくることも多い。言わば、運営の本気が見られる瞬間とも言える。ワクワクするなというのが無理な話……だよね?


 この迷宮のラスボス『スケルトンジェネラル』は、戦闘範囲内全てに回避不能の近接攻撃を仕掛けてくる。だから盾役タンクが全力で全員をかばわないといけない。しかも、その攻撃力が400もあって普通のプレイヤーは即死。


 ……そう。プレイヤーが一生懸命、時間をかけてHPを10%まで減らしたのに、即死という。これまでの努力を一瞬にして無に帰す、他でもない暴挙。「運営落ちたな」「運営、やってるわ」なんてコメントがネットの掲示板にしばらく書き込まれていた。


(しかも、そのボスを倒してもしょっぱいドロップアイテムしか落ちない。このダンジョンがオワコンになる理由も、納得すぎる)


 まぁでも、こういう理不尽があるからこそ、俺みたいな偵察ていさつ・先行役の斥候せっこうが必要になるわけで。この唯一の理不尽を乗り越えることこそが、ゲームのやりがいの1つだと思う。


「5、6、7……まだ溜めてる?」


 随分と長い攻撃モーション。多分、複数人のパーティならこの隙に全力で攻撃を叩きこんで、ボスが攻撃する前に倒すのがセオリーになりそうかな。まぁでも、さすがに今からだと俺1人では火力不足。どう考えても、ボスのHP3,600を削り切ることは出来ない。


 だったら、攻撃されるまでの時間を丁寧に計っておこう。あとは、攻撃範囲、攻撃力ももちろん、どんな攻撃なのかも。


 俺が息をのんで見つめる先。10秒経った頃に、ボスが掲げた本と杖の間に黒いきりが立ち込め始める。大きさは、それこそ人の頭くらいかな……なんて思っていたら。


「人の頭……? いや……骸骨がいこつの頭!」


 黒い霧が集まっていって、禍々《まがまが》しいドクロ頭を形成した。そして、攻撃モーションを見せてからきっちり15秒後。霧で出来たドクロが口を大きく開くと、いくつもの黒い球体を吐き出し始める。


 ドクロと同じで、黒い霧の集合体であるらしい球体が、尾を引きながら部屋の内部を駆け回る。その様は、昔見たホラー映画のワンシーン……未練を残して死んだ怨念おんねんたちが、生者――ゲームで言えばプレイヤー――に向けて一斉に襲い掛かる光景とそっくりだ。


(多分、1発1発は弱くて、数で押してくるタイプの攻撃、あるいは……)


 なんて考えながら、フィーに変身してもらった純白の盾を構えてあえて黒い球体1つを受けてみると、


「あれ……?」


 ダメージが、無い。衝撃もない。その後も、1つ、また1つと球体が縦と俺の身体を通り抜けていくけど、ダメージが無い。まさかこれも攻撃モーションの1つで、本命の攻撃があるのかとボスを見てみるけど、そんな様子もない。


(……ということは、多分、アレ系の攻撃だなぁ)


 恐らく、全国のゲーマーが嫌う攻撃の中で1、2を争うだろう攻撃だ。こうして考えている間にも続々と球体は生み出されていって、気付けば20×20×5mの部屋を埋め尽くさんばかりに浮遊している。しかも、速度は〈火球〉と同じくらいある癖に、動きは変則的。回避も、難しそう。


「う~ん……。まぁ、確率自体はそう高くなさそうだけど……」


 一応、懸命に避けようとして見るけど、1つを避けたら別のところから球体が飛んできて、身体に当たる。らちが明かないとボスを攻撃してみようとすれば、一斉に球体が襲い掛かって来た。


(やっぱり、コレ。発動させたらいけないタイプの攻撃だ)


 苦し紛れに戦槌を使ってボスに1発与えたところで、攻撃によるダメージが半分になっている事にも気づく。念のために〈火球〉を使ってみると、13という数値が出た。恐らく、プレイヤーが与えるダメージそのものが半減される仕様なのだろう。つまり、HP10%以下の実質的な値は7200。それを、15秒の間に叩き込めるだけの火力と技量が必要になるわけだ。


(これが、このボスの初見殺し……)


 俺を見てカタカタと笑うソマリの顔を見たとき、ついにその時がやって来る。これは、なんて言ったらいいんだろう。身体の胸のあたりを、ぎゅっと握られたような、気持ち悪い感覚が俺を襲う。同時に、ボスの最後の切り札に備えて最大まで回復させていた俺のHPが、一瞬で0になった。


(やっぱり、そうか……)


 これこそが、恐らく全国のゲーマーが最も嫌う攻撃の1つ――即死攻撃だ。しかも、回避不能の全方位攻撃。被弾した黒い球の数は分からないけど、多分10個以上は貰った。確率は、10%くらいか。あるいは、一定回数以上攻撃を受けたら発動するタイプの即死技か。……まぁ、いずれにしても。


 これまでのプレイヤーの奮闘を、一瞬でなかったことにする即死攻撃は、うん。本当に、良くない。


「いやもう、ほんっと、クソゲー……」


 呟きながら倒れた俺は、身動きが出来なくなる。真っ赤な字で『GAME OVER』の表記が視界一杯に映されたかと思うと、視界がブラックアウトし始めた。……でも、即死攻撃と言えばアンデッド系の敵の、定番攻撃であることも事実。攻撃の見た目も、きちんとそれっぽい。設定に忠実なこういうところも、良いって思っちゃうんだよな、残念なことに。


 しかも、今後はこの攻撃を受ける前にボスを倒し切ることになる。つまり、このボスの最後の切り札を見られるのは、ごく限られたプレイヤーだけになるだろう。


(やっぱり、ゲームは、良いなぁ)


 視界が完全に真っ暗になる直前。屈んで俺を見下ろすフィーが、やれやれと言うように首を振っている。そこは悲しんで欲しかったな、主人としては。まぁでもこれで、このボスの基本攻撃モーションは網羅もうらした。斥候としての攻略は、無事に果たしたと言って良い。


(さて、どれくらいの価値を持つかな……)


 少なくとも、失った1万2,000G(ゴールド)以上の価値はあるに違いない。ぷーさんやSB(えすびー)さんがどれくらいの値をつけてくれるのか。今から楽しみだ。……まぁ、それは、それとして。




(……。……。……くっそ! ボス、めちゃくちゃ倒したかったなぁ!?)




 斥候係としては完全勝利をしていても、プレイヤーとしては完全に敗北だ。やり切ったって頭で理解は出来ても、感情で納得は出来ない。しかも、最後の切り札を使う時に見せたボスの顔。骨のくせに、絶対に笑ってた。正直言って、めちゃくちゃ腹立つ。ここは、ゲーマーとして。


(負けたままとか絶対に嫌だ)


 何も負けたくてゲームをしてるんじゃない。倒せないと思っていた敵を倒せたときのあのカタルシスを求めて、俺はゲームをしている面も大きい。


 そんなわけで、翌日、俺は、情報を集めきって丸裸になった隠しボスを戦槌で一方的に殴り続けた。……別に、腹いせとかじゃないよ? 単にドロップアイテムの確認のためだ。ただ、無理ゲーだと思ってたボスを始めて倒した時に拳を握るくらいは、しても良いよね。


 その後も、始業式までの1週間。俺は、ただひたすらに隠しボスを倒し続けた。安息を願うソマリにはほんの少しだけ悪い気もしなくもないけど、彼? 彼女? には、俺とウタ姉の家計の足しになってもらうことにしたのだった。

※ソマリ攻略に重きを置いた第一幕はこれにて一区切りです。次話から本格的に、一応のヒロインであるトトリとの絡みが増えてきます。引き続き楽しんで頂けたのなら幸いです。もしここまでの評価やご感想、アドバイス等がありましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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