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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第18話 残念ながら“信者”にはなれないけど――

※ここまでご覧頂いて、ありがとうございました。本編はこれにて【完結】です。コンテストが近いこともあり、続きを書くかは現状未定です。ただ、出版社の方へ向けて、前章同様に「次章への予告編(=続きの構想があること)」は書こうと思います。


なお、明日からは、期間限定EPとして、主人公とトトリ、ニオによるイベントのオフ会の様子を2話ほど、お届けできればと思います。少しでもリアタイで追ってくださった読者さまへの恩返しが出来ればと思います。

 ストーリーイベントが無事に成功で終わったことのアナウンスに続いて、各賞の受賞者の発表が行なわれているアンリアル。


 王都セントラルにあるTMUのクランハウスで俺は、自分が共感を苦手としている根本的な理由をニオさんから教えてもらっていた。


「小鳥遊くんが共感できない理由は、他人の気持ちを考えられない人だからじゃない。……自分の気持ちに鈍感だからよ」


 柔らかい表情ながら自信満々に言ってみせるニオさん。


「自分の気持ちに鈍感……? そんなこと、無いと思うけど……」


 反論にもなっていないただの拒絶を、ニオさんは容赦なく切り捨てる。


「そんなことあるわ。斥候くん。あなた、今の自分はこう思った。こうだった。そんなふうに、ちょっと引いたところから自分を見てるんじゃない?」


 言われてみると思い当たる節があり過ぎて、ぐぅのねも出ない。そんな俺の反応に「やっぱり」と、小さく言葉を漏らしたニオさんが、改めて彼女なりの“答え”を口にする。


「だから、あなたは他人と同じ気持ちになれないの。だって、斥候くん自身が、自分の気持ちを俯瞰して、推測して……“理解”してしまっているんだから」


 俺が共感を苦手とする理由。それは他者への興味が薄いからではなく、俺が俺の気持ちを他人のように考えてしまっているからなのだと、ニオさんは語った。


 そして、納得を多く含んだ彼女のその答えは、驚くほどスッと俺の中に落ちる。どうやら俺は、他人の気持ち以上に、自分の気持ちに寄り添うことが苦手みたいだ。


 じゃあどうすれば、俺は自分の気持ちとの距離感を詰められるのか。そのヒントもきっと、ここ最近……トトリやニオさんと一緒にゲームをしていた中にあるはずだ。


 彼女たちとゲームをする中で、俺は何度か、共感と呼べる感触を得ている。例えば、どうにかしてボスを倒したいと燃えていたトトリの挑戦心に対して、とか。ついさっきニオさんと共有した、努力が無駄に終わらなかったことに対する安堵、とか。


 そうして共感した実感があった時は確かに、俺自身の気持ちとの距離が近かったように思う。


(って、自分の気持ちとの距離感を気にしないといけない人も、そうは居ないんだろうなぁ)


 とにかく、俺が社会集団の中で必要な“共感力”を得るためには……。


「自分の気持ちに素直になることが大切……なのかな?」

「「そう!」」


 俺がこぼした言葉に、何故か2人分の声が重なった。1人はニオさんだけど、もう1人は……。


「SBさん……?」


 これまで俺とニオさんの会話を静観していたSBさんの声だった。てっきり、ついさっき発表された受賞者のリストをペンさんとみているものだと思ってたんだけど……。


「え? あっ……コホン。『私も思っていたんだ』『斥候くんにはもう少し素直に、ゲームに向き合うべきだってな』」


 恥ずかしそうにフードでキュッと顔を隠して、メッセージボードを表示させたSBさん。


 多分、口を挟むつもりは無かったんだろうな。けど、思ってたことを俺が言ってしまったせいで、思わず反応してしまったんだろう。その証拠に、焦ると“くん”“ちゃん”付けになる人の呼び方が出てしまっていた。


 そうして可愛らしく照れているクランリーダーに続いたのは、ニオさんだ。


「斥候くん。あなたはどこまでも深く人の気持ちを考えられる、優しい人よ。だけど他人を思いやるあまり、自分をないがしろにしがちなんだと思う」


 そんなニオさんの言葉に、またしてもなぜか首を激しく縦に振っているSBさん。


「あたしとしては、斥候くんには人の気持ちと同じくらい、自分の気持ちを大切にして欲しいわ。そうすればきっと、あなたはもっと魅力的な人になってくれるはずだもの!」


 彼女の自信を示すように勝気に吊り上がった目元を柔らかなものに変えて、ニオさんは飛び切りの笑顔を見せてくれたのだった。


 と、ここで終わると、それこそニオさんの信者になりかねないほど魅力的な笑顔だったんだけど……。


「あっ、言っておくけど、これは善意なんかじゃないわ。あたしを負かしてくれる人をより高みに押し上げて。あたしが飛び越えるためのハードルを準備してるだけから」


 直後にそう言って獰猛(どうもう)に笑うんだから、なんだかなぁって感じだよね。少なくとも、信者にはなれそうにない。


「えっと、一応確認なんだけど、照れ隠しとかじゃ……?」

「は?」

「あ、さーせん」


 氷のように冷たい目と本気の「は?」が返ってきて、反射的に謝ってしまう。


「ふんだっ。あたしに負けないように、せいぜい頑張ることね!」


 ソファの上。腕を組んでそっぽを向いたニオさん。なんでこの人、負けたのにこんなに上から目線なんだろ? まぁ、負けてメソメソしてるニオさんなんて想像できないし、似合わない。ニオさんなりの激励なんだと、好意的に受け止めておくことにした。


『まぁ、とりあえず、だ』『そろそろ夕食時だし、一度締めようと思う』


 SBさんが控えめに手を叩いて、俺たちの注目を誘う。


『みんな』『アンリアル初の胃炎と』『イベント、お疲れ様』


 少し誤字りつつも、SBさんが机に置かれたコーヒーカップを手に取ってソファから立ち上がる。


『イベントクリアが出来たのは』『間違いなく、みんなの頑張りがあったからだ』


 そう言って、ティーカップを頭上に掲げたSBさん。別にゲームが上手いわけでもないし、ニオさんみたいな引力を持っているわけでもない。だけど、いつの間にか気を許してしまい、人々の中心にいる。……愛される。


 そんな、ニオさんとは違ったカリスマ性を持つTMUのリーダー・SBさんによる、


「イベント……お疲れ様!」

「「「お疲れ(さまでした)!」」」


 肉声での慰労の言葉に、俺たちもカップを掲げて応じるのだった。




 後日談。


 結局、賞を受賞することは無かったTMU。悔しい反面、良かったんじゃないかなと思わなくもない。賞を受賞すれば、否が応でも注目されてしまう。自主的とは言え秘密結社的なポジションを取っているTMUにとっては、避けるべきことだっただろう。


 ただ、問題は収入の面だよね。受賞を逃したことで、当初、イベント参加の目的だった臨時収入――賞金が無くなってしまった。だから、結果的に見ると、俺がTMUのメンバーとして駆けずり回った1週間ちょっとは無駄に……なることは無かった。


 6月10日、月曜日。バイトを終えてアンリアルに入ると、いつものようにフィーが出迎えてくれる。そんな彼女が示してきたのは、アンリアルにおける俺の口座だ。そこには、イベントを通じてTMUがサイト運営を通して得た利益――日本最大級のアンリアル攻略サイトにおける広告収入――の分配分が振り込まれた後の金額が表示されている。


 そう。TMUの正体。それは“攻略班”と呼ばれる、アンリアル攻略サイトの運営者たちだ。毎日数百万アクセスを稼ぐ攻略サイト。その広告収入は結構バカにならないもので……。


「いち、じゅう、ひゃく……。52万G!」


 イベント前が38万ちょっと。そこから情報を買ったりアイテムを消費したり、色々あったというのに14万G増。個人で挑んで賞金を得た場合の利益が、良くて10万Gだったことを思うと……。


「やっぱりTMUに入ったのは正解だったね、フィー!」

「ん! 『当然』『計算通り!』」


 きちんとイベントを通して臨時収入を得られた。俺と、サポート妖精さんの予想は正しかったみたいだ。ここから現金に換える手数料を引いたとしても、お小遣いとしては十分な額になる。しかも現実(あっち)では、人生初のバイト代も入っているはずだ。


「……働くって、素晴らしい」


 1人で言いながら、クランハウスのベッドに横たわる。考えるのは今回のことと、これからのことだ。


 イベントを通して得られたのは、何もお金だけじゃない。集団に所属する1人としての経験値が得られたのは、大きかったと思う。これがもし現実なら、間違いなく気疲れしていた。大好きなゲームで、考え方が似ている人たちと出会えたからこそ、自分でもびっくりするくらい苦にはならなかった。


 出来るならこのまましばらくTMUで集団行動と言うものを学んで、徐々に現実へと還元できていけたら良いな。


 それに、ニオさんと行動を共にする中で『自分を俯瞰してしまう癖』という欠点を知ることが出来た。その癖を直す手立てはまだ見つかってないけど、自分の弱みを知ることが出来たのは大きい。弱点を知れたのなら、あとは対策を考えるだけだ。


(自立して、ウタ姉が自分の幸せを優先できるようになるために、俺ができることってなんだろう……?)


 梅雨が終われば夏が来る。現実では期末考査があるし、アンリアルだと夏イベもあることだろう。それこそ、またしても何か大きなイベントがあってもおかしくな――。


「斥候く~ん! ログインしてるのは分かってるんだから! さっさと出てきて、リベンジさせなさい~!」


 廊下から、交戦的な声がする。


「……いったんログアウトして、頃合いを見てログインし直そ――」

「逃げるの? ねぇ、逃げるの、斥候くん? ぷぷ~っ! ダッサ~!」

「――良かろうその喧嘩、受けて立つ……あっ、やばっ」

「にゃはっ♪ 斥候くん、ミッケ!」


 思わず廊下に飛び出してしまった俺の手を、猫もかくやというしなやかさと速度で近寄ってきたニオさんがむんずと掴む。


「魔法対策の対策、考えてきたの! だから今日こそ、あたしが勝つんだから!」


 そう言って、無邪気な笑顔を見せながら尻尾をユラユラ揺らしている。息をするように努力と研鑽を重ねるこの人に負けないためには、俺も同じくらい……いや、才能って言う下駄が無いぶん、ニオさん以上に努力しないといけないわけで……。


 これから待ち受ける努力と勝負の毎日に、だけど、ワクワクとしてしまう、本当にどうしようもない自分を自覚しながら。


「ほら、行きましょ!」


 俺は強引に手を引く黒猫系配信者と、


「ん!」


 背後をトテトテと歩く妖精AIに導かれるまま、俺は小さな部屋から一歩、踏み出すのだった。

※次回更新する次章への予告をもって、ひとまず【完結】扱いとさせていただきます。今後の構想などについてはコチラの近況ノート(https://kakuyomu.jp/users/misakaqda/news/16818093085833441298)も参考にして頂ければと思います。


最後になりましたが、ここまでご覧頂いて、ありがとうございました。皆さまから頂いた温かな応援や評価を執筆の糧として、今後も頑張ります!

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