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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第17話 それをゲームでは『読み』という

 王都セントラルにあるTMUのメインクランハウス。その2階は、クランメンバーの身が入ることを許されている、宿屋を模した居住区になっていた。


 そんな居住区の、居間。宿屋で言うところのエントランス部分に当たるだろうその場所に置いてある黒革のソファの上。先日アリアとの戦闘を共にした4人(ルーティさんを除く)面々が集う、その場所で。


「く゛や゛し゛い゛!」


 大の字になったニオさんが、手足をばたつかせながら心からの声を漏らした。……なんだろ、嫌というほど見覚えがある光景だなぁ。


 この人の様子を見てもらえば分かるかもだけど、先のPvPは俺……斥候の勝利で幕を閉じたのだった。


「悔しい! 悔しい、悔しい、悔しい……悔しい~~~~~~っ!」


 なおも悔しさを声に出しながら、ソファの上で悶えている黒猫少女。その目には薄っすらと悔し涙すら浮かんでいるようにも見えた。


「ニオさん。普通に行儀悪い」

「だって! だってよ、斥候くん! おかしいわ!?」


 俺に指摘されたことでようやく、ガバッとソファに座り直したニオさん。頬を膨らませ、黒い尻尾をピンと立てて、俺に詰め寄って来る。俺たちの間に机が無かったら、頭突きされていたかもしれないほどの剣幕だった。


「おかしい、とは?」

「ゲームの腕も、身体能力も、駆け引きも。どう考えても、あたしの方が上のはず! だからPvPで、このあたしがあなたに負けるはずなんて、無いはずなの! なのに……っ!」

「負けた、と。しかも、何回も」

「うぐっ」


 最初に負けて、すぐにリベンジを申し出て来たニオさん。BO1を繰り返すこと3回。その全てで、俺が勝利を収めていた。


「……俺がズル(チート)してるって言いたいの?」


 現実にお金を還元できるシステムを扱うからこそ、世界最高峰の防衛プログラムを持つだろうゲーム『アンリアル』。一介の市民でシカに俺にそんなこと出来るわけがないことなんて、ニオさんじゃなくても分かるだろう。


「うぐっ……。そ、そんなわけ、ないじゃない……」


 耳と尻尾をしおれさせて、ソファに座り直したニオさんが、力なく呟く。


「で、でも……。魔法は全部対処されちゃうし、体術に持ち込もうとしたら距離を取って来るし……。まるであたしの行動を読んでるみたいじゃない」

「それをゲームでは『読み』というのでは?」

「うぐぐぅ……っ。これじゃあまるであの人みたい」


 最後の部分は聞こえるかどうかの声量で言ったニオさん。尻尾を小さく揺らしながら、うつむいてしまった。


(話の流れ的に“あの人”って、多分、ニオさんが言うところの「超の上」の人かな)


 なんて考えていると、今まで腕を組んで静観を貫いてきた人物――ペンさんが“挙手”のモーションをしてから口を開いた。


「ふむ……。つまり、こうか。斥候はニオの得意分野である魔法をあろうことか全て武器で斬り落とした、と。普通なら後隙の関係で不可能だ。が、斥候にはフィーがいるんだぞ?」

「そんなの分かってます、ペンさん! ですが、“出来る”と“する”の間にはどうしようもない隔絶があるはずです! 読み合いをしながら、すぐ目の前で打たれたテニスのスマッシュに対処する……。それと同じことを斥候くんはしたんですよ!?」


 荒く息を吐きながら、あり得ないとまくしたてたニオさん。ただ、今の発言には少し語弊がある。俺はここ最近ずっとプレイヤー・ニオの動きを見て来た。しかも、ニオさんは好戦的……言い方を選ばないのなら、出しゃばりだ。


 当然、ニオさんの戦闘を見る機会は多くなる。動きの癖だって知ってるし、魔法を使うときの手順、ニオさんの魔法の使い方だってたくさん見られた。だから、ニオさんの先の言葉を借りるなら、ある程度はどこにスマッシュを打つのかは分かっている状態だったということ。


 そこに、身体能力が高く、努力家だからこそ自信家で、誰よりも素直な『入鳥黒猫』の考え方や性格を加味する。そうすれば、かなりの確度の“読み”が立てられるというもの。


「えっと……。こほん、『結局は』『ニオが斥候よりも弱かった』『そう言う話だよな?』」


 俺とニオさんとの戦いについてそうまとめたのは、SBさんだ。悪意は無いんだろうけど、うん、暴力的なまとめ方だ。おかげで、ニオさんが「にゃぅ……」とか弱々しい悲鳴を上げてソファに倒れ込んでしまうのだった。


「がははっ! そうなのか、斥候よ?」

「まぁ、そう……なんでしょうか?」


 面白がって聞いてくるペンさんに、俺はなんて答えて良いのか分からない。ただ、結果だけを見るなら、俺はニオさんに勝った。


 人としても、ゲーマーとしても、俺がニオさんに勝る部分なんて、皆無に等しいだろう。けど、しっかりとした下調べさえ出来れば、ゲームの中の対人戦においてだけは、俺はニオさんと対等以上に渡り合えるらしい。


 母親が死んで、父親が心を病んで、ゲームだけしかなかった幼少期。小鳥遊家に迎えられてからも、ゲームだけは手放さなかった。そうして積み上げてきたゲームとの時間だけは、天上天下唯我独尊の天才少女ニオさんに通用する部分なのかもしれなかった。


「ふんだっ! 斥候くん、次こそは負けないから!」


 いつの間にかSBさんに膝枕をされていたニオさんが、寝転んだ姿勢のまま、やや涙目で俺に宣戦布告をしてくる。現実では絶対に見せないだろう気の抜けた姿をさらす彼女に、負けるわけにはいかない。


 もし本当に俺の予想通り、ニオさんが超他者依存の天才少女だとするなら。俺は彼女のファンとして、また、クランという新しい気付きをもたらしてくれたニオさんへの恩返しも兼ねて。ゲームにおいてだけは、ニオさんよりも格上の存在……ニオさんが“頑張れる理由”でありたかった。


 と、そうして終始和やかに(?)談笑していると、


『午後6時になりました。これよりストーリーイベント「ロクノシマ奪還作戦」の結果、及び、それによるメインシナリオのルート変更についてお知らせいたします』


 ついに、待ちに待った運営からのアナウンスが、アンリアル全土に響いた。同時にTMUの面々の顔に、緊張が走る。


 まず明かされたのは、ロクノシマ奪還作戦の成否だ。これについては――。




『――【成功】です。プレイヤーの皆様、町の防衛。また、島の守り神“アリア”の救出。お疲れ様でした』




 と、無事にイベントが幕を閉じたことを教えてくれる。


「~~~~~~……っ!」


 イベントクリアの知らせを受けて声にならない歓声を上げたのは、SBさん。俺の正面のソファに座るその人は、静かに、それでも力強く両手のこぶしを握っている。それでもこらえ切れない達成感があったんだろう。ソファに座ったまま、足を板張りの床の上でパタパタと打ち鳴らす。


『やったな!』『斥候、ニオ!』


 お面をしたままでも分かるほど興奮冷めやらない様子で、俺とニオさんを見たSBさん。


「もちろん、嬉しいです。嬉しいんです、けど……ね、小鳥遊くん?」

「確かに。めちゃくちゃ嬉しいけど、それ以上に――」


 恐らく同じ気持ちだろうから、入鳥さんと息を合わせて……。


「「――安心した!」」


 いまの気持ちに、声をそろえる。


 そう。心底安心したっていうのが、今の気持ちだ。情報を読み解き、最善を尽くして戦った。もちろん、この結果は奇跡なんかじゃない。俺たちを含め、最後まであきらめずに戦い続けたプレイヤー達が居たからこそ掴めた結果だ。


 それに、後出しじゃんけんになっちゃうけど、0時ほぼ丁度に終わった時点でなんとなく行けた気はしていた。なんて言うか、手応え? みたいなものがあった。だから、ほんの少しだけ「やっぱり」って思ってしまったのも、嬉しさを安堵が上回った要因としてあるかもしれなかった。……と。


「ふふっ、小鳥遊くん、それよ!」


 俺を指さしながら得意げな顔を見せたのは、名探偵ニオさんだ。ただ、凡人でしかない俺としては何のことやら。


「それ、とは?」

「今、あたしとあなたは同じ気持ちだった。やっぱりあなた、共感できるみたいじゃない!」

「え……? 共感……? 急になんの話?」


 唐突にも思える話題振りに眉根を寄せた俺に、ニオさんがきょとん顔を見せる。


「決闘での“勝者の報酬”の話じゃない。まさか、忘れていたの?」


 勝者の報酬。そう言われて、俺は先の対人戦の報酬――俺が他者との共感を苦手とする理由を教えてもらうこと――について、思い出した。


「そう言えば……」

「勝ったのに忘れているなんて……。ふふっ、とんだおマヌケさんね?」

「……ふふっ、確かに」


 からかうように笑うニオさん言葉には、俺も笑うことしかできない。我ながら、とんだマヌケっぷりだ。


「それで? ニオさんから見て、俺が共感できない理由は何だと思う?」


 改めて尋ねた俺に、ニオさんは勿体ぶること無く答えを教えてくれた。

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