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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第一幕……「ボス戦は、敵の体力が半分を切ってからが勝負」
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第11話 みっともない独占欲だよなぁ……

 入学式の夜。アンリアルにログインすると、そこは宿屋のベッドの上だった。隠しボスに負けて、この場所で復活リスポーンした前回。


(今回こそは……)


 早速ベッドから降りようとした俺の目の前に、白い光が集まっていく。……フィーが登場する前兆だ。空中に現れる彼女を受け止めるべく手を伸ばしてみると、直後には、羽のように軽いフィーの身体が俺の腕の中に収まっていた。

 腰まで届く長い銀髪に、透き通った青い瞳。蝶のような、2対4枚の羽根が、淡い燐光りんこうを漏らしている。いわゆるお姫様抱っこをする俺を。重そうなまぶたで見上げたフィーは、


「んー……」


 ログインボーナスと言わんばかりに胸に顔を押し付けて来た。今日もこのサポートAI妖精は、あざとくて、可愛い。


「2週間ぶり、フィー」

「ん」


 ひとまず彼女をベッドに座らせて、今日の予定を話す。前回はついつい挑戦したい意欲が前に出てしまったけど、AIの意見を聞く方が、何かと効率的なのも事実。ここは、きちんとフィーの意見を聞くことにした。


「前回の隠しボス、覚えてる?」

「ん」

「あのボスを倒したい。一応、俺なりに考えてみたんだけど……」


 防具や必要なアイテム、他にも前回作成したマップを元にした経路の選定なんかをフィーに語り聞かせる。その間、ぼうっと眠そうな青い瞳で俺を見つめていたフィーだったけど、


「……ん」


 俺が話し終えるや否や、すぐに修正案が書かれた板を虚空に出現させた。その修正案を、さらに俺が金銭的な面で修正して、もう一度フィーの確認を通す。


「ん」

「よし。じゃあ買い出しに行こっか」


 宿の寝室を出た俺の背後に、当然のように続くフィー。


「……あの、フィーさん? これから町に出るんですけど?」

「ん?」

「いや、それが何? みたいな顔されても。一応、フィー自身も貴重な情報なわけで。それに、出来れば目立ちたくないって、前も言ったんだけど」

「んん……」


 唇を尖らせるフィー。明らかにご機嫌斜めなんだけど、出来れば「フィー」という情報は隠匿しておきたい。


 そもそも、フィーは、アンリアルのガチャ要素「サポートAI契約」で出現するキャラの1体だ。各プレイヤーは1体までサポートAIと契約し、連れ歩くことができる。トトリの愛猫あいびょうとして見かけた「にゃむさん」も、恐らく、ガチャから排出される黒猫のサポートAIだろう。餌をあげすぎて、明らかに太ってたけど。


 そんなサポートAI契約における最高レアリティ。排出率0.05%の部類に居るキャラクター達は、それぞれが特別な論理プログラム・見た目・特別なスキルを持っている。どんなキャラクターが居て、どんな見た目と性能をしているのか。そうした情報もまた、アンリアルの「考察班」や「攻略組」と呼ばれる人々に高値で売られることになる。


(フィーの情報が売り買いされるって考えると、なんだか気持ち悪いし、腹立つもんな……)


 多分、妹についての情報が勝手に売り買いされている兄の気分だ。端的に言えば、フィーという情報を独占したい。そんな、みっともない俺の独占欲でしかない。でも、少しゲームをやり込んだことのある人なら「自分だけの情報」を持っておきたいというこの気持ち。多少は、分かってくれると思う。


「可愛いフィーの情報は、俺だけのものにしたいなー……なんて」


 ……どうしよう、自分で言ってて気持ち悪い。でも、フィーというAIの思考パターンなら――。


『気持ち悪い』


 ――そんな文面がかかれたメッセージが、フィーから飛んできた。……まぁ、知ってた。俺もそう思う。こうなると、いよいよもってローブでも羽織ってもらって一緒に外出した方が何かと楽な気がしてきた。持ち物の中に手ごろなローブが無いかを確認していた俺の前に『でも』と書かれたメッセージボードが表示される。


 どうしたのかとフィーを見下ろしてみれば、


「ん!」


 と言って、小さな指輪がついた真っ白なネックレスに変身する。手に取ってみると、耳の奥で、


「(ん?)」


 と聞こえて来た。装備品になってくれている時は、こういう形でフィーの意思が聞こえてくる。とは言っても、相変わらず「ん」のバリエーションだけで話して来て、言葉を話すことはほとんどないんだけど。


「これでどう? って感じかな。まぁ、これなら」


 フィーが変身したネックレスを首からかけて、俺たちはリスポーン地点である宿を後にした。


「さて、それじゃあ今度こそお買い物っと」


 ファーストの町に出た俺は、まず、親しくしているよろず屋に寄ることにした。親しいと言っても、店主が求めるアイテムを俺が依頼料を受け取って採取。代わりに店側は相場より、少しだけ安くアイテムを売る。そんなビジネスライクな関係に近い気もする。


(まぁ、でも。俺の数少ないネッ友(ネットの友達)だし、大事にはしないと、なんだろうな)


 ファンタジーの町並みを見回しながら、のんびりと目的の店へ向かう。その道中でも、露店や屋台なんかで、プレイヤーやNPC達がG(ゴールド)のやり取りをしている。


 アンリアルでの買い物は、主に2パターンある。個人間の取引か、ゲームの運営が公式に運営している店を訪れるか、その2択だ。とはいえ、個人同士のやり取りも完全に自由なわけではない。ゲーム内の貨幣が現実にも影響を及ぼすため、ゲーム内の全ての金銭のやり取りは、必ず、運営によって厳しく審査される。


 また、きちんと通貨を管理するために、アンリアルのアカウントを作るには、必ずマイナンバーが求められる。1人につき、1アカウント。アンリアルの運営には日本国政府も関わっているため、年齢なども管理されている。満12歳以下のプレイヤーは、家族はもちろん、運営という最強の監視者によって守られる仕組みが作りあげられていた。


 徹底された監視と管理が生み出す信頼と安心あるからこそ、実現しているアンリアルの通貨制度。その実現に尽力している各種お偉いさんと、日々ハッキングと戦っているだろうホワイトハッカーやプログラマー達には、本当に、頭が上がらない。


「いらっしゃい! って斥候さんじゃん。久しぶり!」


 そして、内心ではこの人にもそうだ。俺がアンリアルを始めた頃からお世話になっているプレイヤー。種族は全身が機械でできた種族TEC(テック)。店内照明で輝く銀色の全身。声と身体の造りは、男性タイプだ。身長は俺より高くて、大体180㎝。緑色に輝くレンズのような目を俺に向ける彼はキャラクターネーム『PO(ぴーおー)03(ぜろさん)』。


「久しぶり、ぷーさん」


 通称、ぷーさんだった。

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