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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第14話 『あいつらこそ、真の英雄だな……』

 SBさんからの支援スキルによる温もりを感じながら、ただひたすらに敵を倒し続ける。聴覚・触覚・視覚……。全ての感覚が遠い。フルダイブ操作をしているはずなのに、それこそ、画面越しにゲームをしているような、そんな感覚だ。


 そうして主観があるのに俯瞰的に見る世界では、遠方で爆ぜるニオさんの色とりどりの魔法や、彼女を守りながら手近な魔動機を倒すペンさんの姿。また、霧の向こうにいるらしいルーティさんが虚空に描く芸術的な射線を見て取ることができる。


 地上と空中。現れては消えて行く無数の敵が残すポリゴンは、色鮮やかな雨のようだった。


 そんな電子の雨を、どれほど浴び続けただろうか。24時間近く戦闘の音が響いていただろう火口が、不意に、静謐(せいひつ)に包まれた。


「はぁ、はぁ……はぁ」


 感覚が遠く、ゲームと現実の境界線がひどく曖昧だ。荒い呼吸を繰り返しながら汗をぬぐったのは斥候か、それとも小鳥遊好なのか。それすらも分からないまま、俺は視線をさまよわせる。


 右を見ても、左を見ても、敵が居ない。すぐそばにある湖で堂々と存在感を放っていた“三ツ首竜”アリアの姿も、見当たらない。


「もしかして、終わった……?」


 急いで時刻を確認してみれば、0時を1分ほど過ぎていた。


(イベントが……。モンスターパレードが、終わった……)


 小さく息を吐くと、ようやく地に足付いた感覚がある。同時に、俺の頭の中にとある疑問が浮かぶ。どっちなんだろうか、と。時間いっぱいにアリアを守り切ってイベントがきちんと終了したのか。それとも、アリアのHPが0になったことで、イベントが強制的に打ち切られたのか。その判断が出来ないくらい、最後に見たアリアのHPは減っていた。


 何か判断材料は無いかを探していると、運営からのアナウンスがあった。曰く……。


『イベント「ロクノシマ奪還作戦」は、終了しました。アンリアルが辿る物語の結果については本日、6月8日、18時から始まる後夜祭にて発表いたします。また、各種賞の受賞者につきましても――』


 要は、後夜祭までお預けということらしい。


(今から俺が出来ることもないし、ひとまず結果発表を待つことにしようかな)


 小さく息を吐いて、全身を弛緩させる。さっきまで戦闘中でハイになってたからだろう。久しぶりに感じる身体は、妙に重い気がした。


『お疲れ様、斥候』


 イベント終了に伴って霧が晴れていくロック火山山頂。砂利を踏む軽い足音を響かせて、SBさんが俺のほうに歩いてきた。


「はい、お疲れ様です、SBさん。支援、めっちゃ助かりました」

『それが私の役目だからな』『見直したか?』


 きっとお面の奥でドヤ顔をしているだろうSBさんに苦笑しつつ、俺は頷きを返しておく。


 絶対にバフが切れないよう、また、きちんと俺が敵を1回の攻撃で倒し切れるように。クールタイムとバフの種類が管理された、細やかな支援。敵の攻撃力と俺の防御力をきちんと把握し、最低限でありながら、最適なタイミングで行なわれる回復。


「正直、負ける気がしませんでした」

「ふふっ! 『それなら良かった!』」


 口元に手をやってくすくす笑うSBさんの声と姿に、またしてもウタ姉を重ねようとした、まさにその時。


 目の前で濡れ羽色の短い髪が揺れたかと思えば、目の前にいたはずのSBさんが俺の視界から消えた。


「すぅ、はぁ……。すぅぅぅ……、はぁぁぁ……」


 なんていう声が聞こえた方――足元を見てみると、SBさんを押し倒す女性プレイヤーさんが居る。間違いなく、変態だ。それも多分、トトリに匹敵するレベルの。


 そうしてSBさんの胸元に顔をうずめて深呼吸している女性プレイヤーも気になるけど、俺の視線はその隣。(かたわ)らの地面に置かれた、金色の弓に引き寄せられる。


(見たこと無い武器……!)


 太陽をモチーフにした意匠が施された、いかにも特別な武器だ。俺が知らないということは、素材から作るタイプの武器ではない。となると、ユニークシナリオを通して直接手に入れる武器……いわゆる、ユニーク武器(UW)なんだろう。


 そして、UWの中には武器自体に特別なスキルがあるものも多いと聞く。先の超広範囲攻撃も、武器特有のスキルに〈狙い撃ち〉や〈貫通〉などのスキルを乗せた攻撃だったんだろう。ただ、最初の攻撃以降、同じ矢の雨が降って来ることは無かった。強力なぶん、30分とか、1時間とか……。かなり長いクールタイムが設定されてるんだろう。


(それこそ、1日1回くらいでも全然おかしくない)


 半径150mを余裕で更地にする攻撃だ。むしろそれくらいのクールタイムが設定されていないと、ゲームバランスが崩壊しそうなレベルだった。……まぁ、その攻撃があるって時点でぶっ壊れだとは思うけど。


 なんて、濡れ羽色の髪の射撃手・ルーティさんの武器について観察していたら、ルーティさんの身体が、SBさんを透過するようになった。


「はぁ、はぁ……。『セキュリティアラートには感謝しかない』」


 よろよろと立ち上がるSBさんの背後。俺は、何事も無かったようにすまし顔で立ち上がるルーティさんことM. Luotiampujaさんに目を向ける。


 髪は耳が隠れるくらいのショートカット。色は濡れ羽色……艶のある黒と言ったところだろうか。同じ黒髪のニオさんと比べても、より一層黒く感じる。身長は高く、俺と同じか少し高いまであるかもしれない。すらっと長く伸びた手足は、日本人離れしているように見えた。


「……なに?」


 そう言って俺を冷ややかに見てくる瞳は、やや青みがかった緑色。怜悧(れいり)な目元も相まって、さっき変態的な行動をしていたとは思えないくらい、クールな雰囲気を演出している。風に揺れる髪からのぞくのは、鋭く尖った長い耳。ルーティさんは、ファンタジーではもはやおなじみと言える種族――エルフだった。


 ついでに、この前調べたら、Luotiampujaは外国語で「射手」って意味らしい。弓使いのルーティさんそのまんまの名前だった。


「初めまして……ですよね? 斥候です。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げた俺を、むっつりと黙ったままじっと見ていたルーティさん。日本語、分かるかな? なんて、少し緊張しながら第一声を待っていると、


「……初めまして。ここだと|Luotiampujaルーティエンプヤと名乗っているわ。よろしくね」


 そう言って短い髪を払う。近寄りがたい見た目と態度のわりに口調は柔らかく、声も大人びている。表情が変わらないから不愛想に見えるだけで、意外と親しみやすいのかもしれない。実際、


「先輩。どうしてメッセージボード? 口調も変ですし……。はっ!? まさか、風邪ですか!?」

『いろいろ事情があるんだ』『今度2人きりの時に話す』

「2人きり……ゴクリ。分かりました、楽しみにしておきます。あ、遅刻してしまってすみませんでした」


 そんな感じでSBさんと話し込んでいる姿を見ても、“普通の人”――


(――いや、普通の人が他人の胸に顔をうずめてクンカクンカするわけない!)


 トトリというド級の変態のせいで、変態に対する敷居が下がってしまってる気がする。危うくルーティさんを普通の人認定するところだった。


 俺が心の中でルーティさんの人となりを修正していると、


「お疲れ、斥候くん!」


 片手を上げたニオさんが尻尾を揺らしながらやって来る。


「お疲れ、ニオさん。デーモン退治、ナイス」

「まぁ、遠距離火力枠だもの。あれくらいはしないとね。それに……」


 ニオさんの金色の目が、SBさんと話し込むルーティさんに向けられる。


「良いところ、全部持ってかれちゃったし」


 悔しさと呆れを織り交ぜながら、笑っている。今回のアリア防衛戦のハイライトがあるとしたら、きっと、ルーティさんのカットが一番、視聴者の印象に残るだろう。


「……でも、俺たちも、分かる人には分かる活躍をしたとは思う」

「ふふっ! まぁ、そうね。後方腕組をしながら『ふっ……。あいつらこそ、真の英雄だな……』なんて言ってくれるおじさんが居たら最高!」


 にしっ、と歯を見せて笑ったニオさんの言葉には、同意せざるを得ない。


「とにもかくにも。後は結果を待つだけね」

「うん、そうだね」


 イベントが終わって霧が晴れ、見えるようになった青空を2人で見上げる。結果が出てない現状、達成感は無い。けど不思議と、満たされた気持ちになっている。それはきっと、最後の最後まで、イベントを楽しむことが出来たからに違いない。


「改めて、お疲れ様、斥候くん!」


 歯を見せて笑うニオさんが掲げた小さな拳に、俺も自分の拳を軽く打ち合わせるのだった。

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