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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第13話 ゲームに“奇跡”は存在しない

 上空に現れた無数の人影。コウモリのような翼を生やしたその人影は、敵の増援だった。


(なんで急に……)


 視界の端にある時刻は23時43分。決まった時間に発動するギミックとしては、中途半端が過ぎる時間だ。となると、時間とは別に状況が動く仕掛けがあったと考えるべきだろう。


 俺は近くに居た魔動機たちを一掃してから、後方――デーモンジェネラルのHPへと目を向ける。と、案の定、ジェネラルのHPが10%以下を示す赤色に変わっていた。


(ってことは、多分、この増援がデーモンジェネラルの“最後の切り札”……)


 ソマリやハザなど、大ボスと呼ばれるモンスターが持つ必殺技。それがここにきて、発動したみたいだった。


 そうして観察しているうちに、上空に居るデーモン(恐らく下っ端)たちが魔法でアリアに攻撃を始める。またしても減り始めるアリアのHP。その要因を作ったプレイヤー達はと言えば、これまで通り、デーモンジェネラルの討伐にご執心だった。


 まぁ、ボスであるデーモンジェネラルを倒さないといけないのは、もちろんそうなんだけど。アリアには全く関心が無い、みたいな態度を見せられると、どうしても「う~ん……」ってなる。こう、頭で理解してるけど、納得できない、みたいな。


 そんなふうに俺がデーモンジェネラルと名も知らないプレイヤー達の戦闘を見ていると、


『斥候!』『上はニオに任せる!』『私たちは下!』


 SBさんから作戦という名の(げき)が飛んできた。


「……っ! すみません!」


 つい考え込んで足を止めてしまっていたことを詫びつつ、俺は再び魔動機退治へと向かう。


 そう。足を止めていたらそれこそ時間の無駄になってしまう。今は少しでも腕と足を動かして、1体でも多くの魔動機を倒さないといけない。


 さっきも言ったように、SBさんの支援のおかげで魔動機の減りは尋常じゃないスピードだ。対空戦力でもあるニオさんがデーモンへの攻撃に移行したぶんを補うために、ペンさんが魔動機の殲滅に加わっている。しかも何がすごいって、ニオさんもペンさんも自分たちだけでその判断をしていることだろう。


 そしてSBさんも、2人がどう動くかをきちんと推測して、俺にさっきの指示を飛ばしてきた。


(これが、信頼関係……)


 俺以外の全員が自分の役割を理解し、即座に対応している。一瞬でも足を止めてしまった自分を悔やみつつ、ミスを補うためになお一層、武器を振るう。


 その時々で最適な武器を選択するのはこれまでと同じ。増えた作業と言えば、移動の最中に弓でデーモンを撃ち落とすことだろうか。〈狙い撃ち〉のスキルが無い時はまぁまぁ外すけど、当たればきちんと1発で敵を倒せる。


 しかも、こうやって身体を動かし続けていると、モンスターパレードを相手にした時のように最適解が見えてくる。次にどう動けば良いのかを勝手に脳と身体が導き、何をしても上手くいく全能感が俺を満たす。


 1人でモンスターパレードに挑んでいた時以上のペースで敵を倒して、倒して、倒して、倒して……。熱くなる頭とは裏腹に意識はどこまでも冷静で、視野は広い。


 だからこそ、ある時にふと、分かってしまった。


(うん。これは、無理だ)


 魔動機については、問題ない。さすがに討伐数が増援数を上回ることは無くなったけど、敵の数は現状を維持できている。


 ただ、上空のデーモンの処理がどうしても間に合わない。いくらニオさんが魔法のスペシャリストだとしても、アンリアルでは魔法が“スキル”である以上、クールタイムが存在してしまう。


 さっきまでは魔法系スキルのクールタイムを短縮するアイテム『魔石』も使ってどうにか持ちこたえてくれてたニオさんだけど、手持ちの魔石が切れてしまったんだろう。今はもう散発的に魔法を使うだけで、クールタイムの間に近くの魔動機を倒すだけになってしまっていた。


 そうして、主に上空からの攻撃によって再びじわじわと減り始めたアリアのHP。1万をMaxとする復興度とリンクしているだけあって、魔動機の殲滅を開始した時点――412の時点で5%ほどだったHPがもうミリしか残っていない。復興度を確認してる余裕は無いけど、恐らく200もないんじゃないだろうか。


 イベントが終わるまで残り15分。これまで15分で1,000減っていたことを考えると健闘した方だけど、いかんせん、アイテムと気力が限界を迎えてしまった。


 それでも俺を含めたTMUの面々が諦めないのは、ただの意地でしかない。どうにかなるっていう確信も、計算もない。ただなんとなく、諦めるのはゲーマーとして(しゃく)に障る。たったそれだけの理由で腕を振り、スキルを使う。


 俺たちがこうやってゲームオーバーを長引かせている間に、せめてデーモンジェネラルでも倒してくれないだろうか。そんな、期待と呼ぶにはあまりにも貧相な気休めが俺の脳裏をかすめ、極限の集中状態(ゾーン)が終わりを迎える。


 広がっていた視野が狭まり、熱かった体の熱が引き始めた、まさにその時。




 視界の端。一条の真っ白な光が、上空……デーモンの群れの中心を駆け抜けたのが見えた。




 直後、猛烈な風が辺り一帯を襲う。その影響で霧が吹き飛び、晴れ渡った空が見えた。


 久しぶりに見えた太陽の眩しさに、思わず俺の視界が上を向く。と、はるか上空。澄み渡る青を背景に、無数の黄色い光が見えた。その黄色い光はゆっくり、ゆっくりとその大きさを増しているように見える。


「……近づいて、来てる?」


 何が起きているのか分からず、ただ茫然と空を見上げることしか出来ない。それは俺だけじゃなくて、デーモンジェネラルと戦っていたプレイヤー達も同じ。なんなら、デーモンジェネラルもデーモン達も、アリアですらも。AIのはずの彼らモンスター達ですら、時を忘れたように、上空を見上げている。


 そうして24時間近く続いていただろう戦闘の音が途絶え、火口に刹那の沈黙が下りた、次の瞬間。




 辺り一面を覆い尽くさんばかりの光の矢が、魔女の瞳に降りそそいだ。




 またしても何かしらのステージギミックかと思ったけど、俺たちプレイヤーにダメージは無い。むしろ俺を含め、光に当たったプレイヤーはHPが回復している。……衝撃はしっかりとあるから、痛いけど。


 逆に敵に触れた矢は、しっかりとダメージを出している。また、矢にはスキルで〈貫通〉が付与されているんだろう。矢はそのまま敵を貫通し、地面に突き刺さる。もちろんその軌道上に敵が居ればダメージを与え、デーモンであれば撃墜。魔動機であれば破壊していく。


 そうして100に及ぶだろう光の矢が止んだ時。空を覆っていたデーモン群れは消え去り、雲一つない空が霧間にのぞいていた。


(ステージギミック……なのかな?)


 直径300mを優に超えるほどの大規模攻撃。とてもプレイヤーの仕業とは思えない。でも、ステージギミックにしては、あまりにもタイミングが良すぎる。


 一体何が起きているのか。固まる俺の隣に並ぶ影がある。SBさんだ。


『斥候』『今度こそ、味方の増援だ』


 一瞬何を言われたのか分からなかったけど、


「……え!? いまのプレイヤーの攻撃なんですか!?」


 SBさんの言葉が意味するところを理解して、思わず声が上ずってしまう。そんな俺が可笑しかったんだろう。手を口元に当ててクスクスと笑ったSBさん。


「ふふっ! 『そうだ』『斥候が来る前は』『あの子がメインアタッカーだったからな』」


 なんて言うこの人の口ぶり的に、恐らく、いま攻撃を行なったのはTMUに5人いる戦闘要員、最後の1人……ルーティこと『M.Luotiampuja』さんだということだろう。霧のせいでその姿はまだ確認できないけど。


(登場のタイミングが神がかってる……!)


 さっきまで暗雲立ち込めていた戦場に、文字通り光をもたらしてくれたルーティさん。……マジで女神かもしれない。


 また、霧が晴れたおかげで登山道方面から駆けつけてくるプレイヤーらしき人影の姿も見えた。今度こそ味方の増援だ。その数は決して多くは無いけど、TMUのサイトを通した救援要請がようやく届いたということだろう。


 アリアの残りHPは2%程度。希望を持つには、あまりにも弱く、儚い数値だ。


(でも……。まだ、ゲームオーバーじゃない!)


 数値で管理されたゲームに、“奇跡”は存在しない。勝利も、敗北も。ゲームにあるものは全て、必然だけだ。必ず原因があって、結果がある。


『まだいけるか、斥候?』


 俺の肩を叩いたSBさんが、お面の奥で青い瞳を輝かせる。それはニオさんが良く見せる、交戦的で、挑戦的で、ゲーマーにとっては何よりも魅力的な目だ。


「……っ! はい、SBさん! 支援お願いします!」


 頼れるクランリーダーに背を押された俺は、最後の力を振り絞る。勝利(クリア)を必然のものとするために――。

※いつもご覧頂いて、また、温かな応援をありがとうございます。実は私のちょっとした手違いで、想定よりも1話分多く、お話を書いてしまっていたようです(具体的には、Wordにおける第三幕4話が2つありました。本作はWordで書き上げた1話を2つに分けて更新している都合上、想定よりも2話分、お話が多くなってしまいました)。


そのため、本章・第三幕は9話(計18話)でお届けする形になってしまうこと、この場を借りてお知らせとお詫びをさせて頂きます。申し訳ありません。


黒猫少女とTMUでの活動をメインに据えた本章。主人公が何を学び、どのように成長するのか。最後まで温かく見守って頂けたのなら幸いです。

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