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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第12話 その瞬間がフラグになる――

 “三ツ首竜”アリアの存在に気付けたということは、最大の経験値を持つデーモンの存在に気付いたということであり、ひいては、最大経験値部門を狙ってここに来た人が全員だということでもある。


 そして、このアリア防衛戦においての“外れくじ”は、間違いなく、アリアを攻撃する魔動機たちの討伐だ。さっきも言ったように、ここに来た人たちはボスを倒すことで得られる最大経験値を目当てにしている。よって、ザコ敵の処理なんかにかまけている場合ではない。


 しかし、そのザコ敵がアリアのHPを削っており、それに伴って復興度も減少していた。


 アリアが討伐された場合、経験値などはどうなるのか、イベントがどうなるのかは分からない。ただ、アリアを守らなければ“イベントのクリア”が出来ないのは間違いない。そして、俺の所属するTMUは、アンリアルの攻略を目標に掲げるクランだ。


 ――かの英雄ジャンヌダルクのように、人々の先頭に立ち、行く先を照らす。


 そんな理念を掲げた当人でもあるクランリーダー・SBさんの判断は、早かった。


『賞は断念する』『私たちは』『目標を「1体でも多く魔動機を倒すこと」に変更する』


 質問ではなく断定口調で言って、SBさんが俺たちを見る。胸元でぎゅっと握られた手には、確固たる意志が見えるような気がした。


「我はそれでも良い。そもそも、クランとしての目的はもう既に達成されているのだしな」


 とは、ペンさんの言だ。腕を組んで、やむを得ないという現状を受け入れる姿勢を見せる。そんなペンさんに続いたのは、ニオさんだ。


「あたしも賛成です。クリアできないと、最悪、噴火でロクノシマっていう遊び場が消滅する可能性もあります。それは、クランにとっても、アンリアルにとっても大きな不利益になりますから。ただ……」


 そう言って、俺の方に金色の瞳を向けてくる。イベントに参加するにあたり、賞金を最も重要視していた俺を慮ってくれた形だ。


 実際、よく俺のことを分かってくれてると思う。だって、100万円だ。TMUのメンツで割っても、1人頭10.6万円。バイト代1か月を軽く超える額になる。これから何かと入用(いりよう)になる夏に向けて、良い軍資金になることは間違いない。出遅れたとはいえ、ここからデーモンジェネラルとの戦いに集中すれば、十分に賞金を狙える。


「俺、は……」


 俺が今回、クランに所属してまでイベントに挑んだ理由は、少しでも多くお金を貰うためだった。その理念に従うのなら、SBさんの方針には否を示すべきだろう。


 けど、俺がクランに所属した理由のもう1つに、集団行動を理解することがある。たとえ他人に興味を持つことが苦手だったとしても、集団の中でやっていける。自立できるのだと、ウタ姉に示せるようになることが目標でもあったはず。


『斥候』


 どうしようか悩む俺に、SBさんから声がかかる。


『出遅れた以上、イベントクリアは難しい』『なら、まだ賞を取れる可能性のあるデーモンジェネラルを倒しに行くのも十分にありだ』


 どうしても言い出しにくい選択肢を、選びやすいように言ってくれる。


『ゲームのクリア』『見ず知らずの、関係のない人たちと』『大切なご家族』『どっちを優先するのか、しっかりと考えてくれ』


 お面の奥にある青い瞳で、俺に問いかけてくる。その目に宿るのは、どこまでも俺のことを想ってくれているという、優しさにも似た温もりだ。そんなSBさんの優しさが、姿勢が、不意にウタ姉と重なる。大切な話をするとき、言葉だけでなくきちんと思いが届くように。まっすぐに相手の目を見るその仕草は、ウタ姉もよく見せる姿だった。


 そうしてウタ姉の姿が脳裏に浮かんだとき。なぜだろう。全体の利益……イベントのクリアを優先せず、個人的な利益を優先して得たお金でウタ姉が喜ぶ姿が、どうしても思い浮かべられなかった。


 ふぅ、と、小さく息を吐いて、俺は覚悟を決める。


「……魔動機、倒しましょうか」


 悩み抜いた末に出した答えに対して、TMUの人たちが「良いの?」なんてことを聞き返してくることは無い。もう既にデーモンジェネラルは動き出しているし、こうして会議している間にもアリアのHPは減っている。無駄な議論をしている暇はなかった。


 その代わりに、


『了解だ』『なら斥候と私。ペンちゃんとニオで魔動機を殲滅して行こう』


 という、SBさんからの指示が飛ぶ。攻撃役(アタッカー)の俺とニオさんを、支援と盾でそれぞれ支える形だ。


「了。斥候、団長を頼むぞ」

「あたしも了解です、リーダー! ……斥候くん、リーダーも。どっちが多く倒すか、勝負です!」


 言うだけ言って、時間が惜しいとばかりに駆けていくペンさんとニオさん。ニオさんは勝負って言うけど、向こうは攻撃できるメンツが2人に対してこっちは俺1人。勝負は見えてる気もする。


 けど、ここで燃えないような人は、TMUには居ないんじゃないだろうか。


「ふふっ! 『私たちも負けてられないな』『行こう、斥候』」


 お面の奥で微笑んだSBさんが万が一にも被弾することが無いよう、俺が先導する形で、魔動機の群れの殲滅に移行した。




 棒人間そっくりな魔動機『ポーン』が、剣のようになっている腕を振り下ろしてくる。けど、その動き、攻撃の軌道はここ1週間で数百回と見てきた動きだ。最小限の動きで回避しつつ、俺は手に持った滝鉄(そうてつ)の剣を振り下ろす。すると、鋼鉄で出来ているはずのポーンの身体を、まるで豆腐のように切り裂くことができた。


 表示されたダメージは263。高い防御力・魔法耐性の代わりにHPがやや低めな魔動機のポーンは、一刀のもとにポリゴンと化した。


(これが、SBさんのバフの本気……!)


 視界の端にある多種多様なマークを見た俺は、思わず頬を緩める。


 攻撃力・防御力アップはもちろん、防御力・魔法耐性無視の貫通属性付与。クリティカル確率アップ。もちろん、〈再生〉のスキルによる継続回復(リジェネ)もあって……。


 すごく平凡な言い方になるけど、無敵になった気分だ。ただ、この無敵状態はいつまでも続くわけじゃない。例えば攻撃力・防御力へのバフは残り30秒ちょっとだ。


(効果が消えないうちに……)


 俺はポーンを倒した勢いそのまま、フィーを『白金(しろがね)の長槍』に変える。そして、周囲を薙ぎ払うようにして一閃。ポーンの周りでアリアを攻撃しようとしていたコロンを2体、ポリゴンに変えた。


 さらにフィーを投てき可能な円錐形の槍『バトルスピア』に変えて、適当に魔動機たちの群れへと投てき。軌道上に居た3体の魔動機をポリゴンに変えると、フィーを黒鉄の双剣へと〈変身〉させることで手元に呼び戻し、


「ふぅ……っ!」


 今まさに俺に斬りかかって来ていたポーンを2体、続けざまに電子の藻屑(もくず)に変える。こうして魔動機が溢れていた一角を掃除したら、次。なるべく敵が密集しているところへと突貫していく。


 バフを最大限に生かすには、可能な限り敵と戦っている必要がある。また、俺自身の攻撃の手数が多い程、アップした攻撃力の恩恵を受けられる。


 その点、攻撃の後隙を消すことができ、DPSが他の追随を許さないほどの優秀なフィーとバフとの相性は抜群。控えめに言って、最強だった。


 このままいけば、この前更新したばかりの1時間当たりの最大討伐数を余裕で上回るペース。しかも、ニオさん達も上手く魔動機たちを倒してくれている。アリアのHPの減りも目に見えて押さえられている……って言うか、俺たちが魔動機たちを倒し始めてからほとんど減っていない。


(もしかして、もしかする……?)


 霧による継続ダメージは増えてきてるし、相も変わらずどこからか魔動機たちはやって来る。けど、そうして増える敵の数より、殲滅する速度の方が早い。


 また、SBさんの支援が上手い。攻撃力・防御力アップの効果が切れたら、今度はクリティカル倍率アップをかけてくれた。おかげで「Critical!」さえ発動させれば、再び魔動機たちを一撃で倒せる。そして、どの敵に対してどんな武器を使えば「Critical!」が発生するのか。俺たちはもう既に知っている。


 魔動機に有効な打撃系の武器を使って、魔動機であふれていた場所をまた1箇所、更地に変える。


 無理ゲーに思っていたイベントクリアが、見えてきた。この状況に燃えないゲーマーも居ない。


(もうひと踏ん張り!)


 気合を入れる俺に、SBさんからメッセージボードが分割されて飛んできた。


『斥候』『上を見ろ』

「上……?」


 言われて上空を見上げてみれば、霧に煙る火口の上空に数えきれないほどの人影がある。一瞬、味方の増援かと思ったけど、その人影の背中にはコウモリのような翼が生えていて――。


『増援だな』『……敵の』


 希望が見えたらどん底へ。イケると思ったその瞬間がフラグになる。それは、ゲーマーの宿命なのかもしれなかった。

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