第10話 今日のゲームではまず聞かないセリフ
戦闘開始から10分。俺の願いが届いたって言うと大げさになるけど、デーモンエリートさんの黒い翼はきちんと部位破壊されてくれた。さすがアンリアル。きちんと“王道”を歩ませてくれる。
『き、貴様……! よくも高貴なる私の羽を……!』
ボロボロになった羽を一瞥したデーモンエリートが、次いで、悔しそうに俺を睨みつけてくる。けど、俺としてはこの言葉を言わざるを得ない。
「ざまぁ♪」
さんざん上空から見降ろされ、見下された。これくらい言わせてもらわないと、帳尻が合わない。
『舐めた真似を……っ! 殺す……っ、殺してやる!』
これまた王道の言葉を吐いて、きちんとプレイヤーの気持ちを乗せてくれるアンリアル。……うん、好き。
「お疲れ様、斥候くん。どう、調子は……って。聞くまでもなさそうね」
後衛なのに俺の隣に並んだニオさんが、俺とデーモンを見て状況を察してくれる。ついでに教えてくれたのは、この戦いのギミックについて。
『死ねぇぇぇ!』
今日のゲームではコンプライアンス的に中々聞くことが出来なかった殺意満点のセリフを吐いて、俺とニオさんに突貫してくるデーモンエリート。その攻撃を2人していなしながら、ニオさんの説明に耳を傾ける。
「要点は3つ。1つ目。あの竜はいわばステージギミック。プレイヤー側からの働きかけは全部無効だと思ってくれていいわ」
とのこと。あの竜って言うのは、今も背後の湖で暴れ回っている“三ツ首竜”アリアのことだ。アリアへの働きかけが無効って言うのは、アリアを回復させたり、攻撃したりは出来ないってことだろう。
また、デーモンに向けてアリアが放つ攻撃は、プレイヤーにもダメージを与えるっていう話なんだけど……。
「うん。それについては身をもって知ってる。水のブレスが防御・耐性貫通で0.5秒ごとに30ダメージ。泡の攻撃が触れたら爆発。こっちも貫通ダメージ250と爆風があって吹き飛ばされるんだよね?」
「ふふ、その通りよ。……まぁ、斥候くんが知ってるの、知ってたんだけど♪」
じゃあ言わないでよっていうツッコミを入れるとニオさんの思うつぼだから、ここは黙っておこう。
と、噂をすれば影が差す。俺のすぐ背後に透明な泡が迫っていた。とっさの判断で屈んで避けると、俺を目がけて剣を振り下ろしていたデーモンエリートに泡が命中。250ダメージと猛烈な爆風を与えてくれる。こうやって有効に使えば、効率よく敵にダメージを入れることもできる。犬も鋏も使いようってことだろう。
『ぐあぁぁぁ……』
悲鳴を上げながら飛んで行くデーモンエリートを遠く見遣りながら、隣に並んだニオさんの話の続きに耳を傾ける。
「2つ目。あたしが見た限りだと、デーモンを一掃するギミックはなさそう。他のパーティの人たちを見ても、それらしい動きは見えないわ」
「なるほど……。つまり、まずは周りのデーモンエリート達を順当に倒していって、あそこのデーモンジェネラルを倒すまでがイベントのストーリーっぽい?」
「ええ。もしくはイベント終了までの持久戦ね」
俺の問いかけに頷くニオさんが、片手間にデーモンエリートに魔法を使用する。炎、雷、氷、風……。多種多様な魔法エフェクトが、遠く地面を転がっていたデーモンエリートの付近で爆ぜる。遠いからダメージ表記が見えないけど、それなりのダメージは与えられたことだろう。
「残りのデーモンは?」
「いま戦っているのを含めて5体。他のパーティにも優秀なプレイヤーが多いみたい……ワクワク」
「お願いだからPvPの申し込みはイベントの後にしてね」
「もちろん、分かってるわ。斥候くん、あたしを戦闘狂か何かと勘違いしてない?」
対戦を申し込まないって言わない時点で勘違いも何も事実だと思うけど、それを言ったら噛みつかれそうだから黙っておこう。
と、俺とニオさんに向けてそれぞれ6本ずつ、計12本の黒い剣が飛んできた。ニオさんが使った魔法の着弾により、デーモンエリートは土煙の中に居る。そこから勢いよく飛んでくる剣は、例え6本だったとしても、避けるのがかなりしんどい。
跳躍。側宙。棒高跳びのベリーロール。あの手この手を使って、ギリギリのタイミングで剣を躱す。対するニオさんはと言えば「身体どうなってんの?」って聞きたくなるしなやかさでもって、踊るように剣を避けていた。
そうして剣を飛ばしたデーモンエリートは、間髪を置かず砂煙を割り、「キェェェ」とか言うヒステリックな奇声を発しながら俺に向けて突撃してくる。その右腰には剣が溜められていて、数秒後には斬り上げ攻撃が行なわれることだろう。
「……フィー。赤鉄の大剣で」
「(ん)」
フィーに〈変身〉を指示し、ナイフから大剣へと武器を持ち変える。そして、俺に向けて振り上げられたデーモンエリートさんの剣を、大きな剣で真正面から迎え撃てば……。
火花が散るとともに、鉄のバットで軟式野球ボールを打ったような小気味よい音が響き渡った。
と、大剣による迎撃を受けたデーモンエリートさんが、大きく後方にのけぞる。「ノックバック」と呼ばれる状態異常で、大剣を使って武器を迎撃したり、スキルを使ったりすることで相手側に1秒強の隙を作ることができる。似たようなものだと、トトリやペンさんが見せたジャストガードがあるかな。
無理やり隙を作るって言えば強く聞こえるけど、大剣は攻撃の後隙が2~3秒もある武器だ。ノックバックをさせても、追加で攻撃を加えることは出来ない。……けど、俺には“後隙を消せる”相棒が居る。
「フィー、クレイモア」
俺の声で手元にあった大剣が姿を変える。剣の幅や細かな装飾に加えて長さが10㎝だけ短くなるけど、達人でも何でもない俺からすれば、使い勝手はほとんど何も変わらない。
(あんまり大剣とかの重い武器は得意じゃないけど……)
俺はその場で一回転。遠心力の力も借りながら、ノックバック状態で動けないデーモンエリートの剣に向けて、クレイモアをぶち当てる。すると、大剣が武器にぶつかったことにシステムが反応。再びデーモンエリートにノックバックが入る。
ここでまた俺はフィーを赤鉄の大剣に〈変身〉させることで、攻撃の後隙を強制的に解除しつつ……。
「ふぅ……っ!」
デーモンエリートの剣に、赤鉄の大剣を命中させる。そうして再びノックバック。フィーの〈変身〉、攻撃、ノックバック……。俺が大剣の攻撃を外さない限り、デーモンエリートが完全に動けなくなる。いわゆるハメ技だ。
これが俺とフィーだけなら、単なる時間稼ぎにしかならない。けどこの場には、俺の他にもう1人、頼れるプレイヤーがいる。
「にゃいすよ、斥候くん! リュー、〈人化〉!」
瞬時に全てを察した黒い影……ニオさんが黒鉄の双剣をインベントリから取り出し、ノックバックの連続で動けないデーモンエリートを切り刻んでいく。また、ニオさんの反対側にはリザードマンよろしく二足歩行となったリューも居て、
『グルァッ』
手に持った大きな剣を、デーモンに振り下ろす。さらにニオさんが〈雷球〉でデーモンエリートの動きを封じ、俺が攻撃。そして「硬直」が解ける寸前に俺が再びデーモンエリートをノックバックさせて、ニオさんが〈雷撃〉でデーモンエリートを再び「硬直」にする。もちろん合間に、爆発を伴わない魔法系スキルの〈氷槍〉なんかも織り交ぜることも忘れない。
こうして、大剣のノックバックと魔法による状態異常「硬直」を使った強力なハメ技が完成する。
次々に浮かぶ白いダメージ表記。1秒間に与えるダメージを表すDPSも、すごいことなってそうだ。
結局、30秒もの間、動くことすらできず、ただひたすらにタコ殴りにされたデーモンエリートさんは、
『クソ、がぁぁぁ……』
きちんとテンプレ通りの言葉を残して、ポリゴンと化した。
「お疲れ様、斥候くん」
「うん、お疲れ、ニオさん……って、そうじゃない!」
ハイタッチを求めて来たニオさんに応えてすぐ、俺は頭を抱える。ニオさんがあんまりにもきれいに連携してくれるから、脳死で敵を倒してしまった。けど、地上に下りたデーモンエリートの行動パターンをあんまり調べることが出来なかった。
「まぁまぁ。のんびり攻略するのも嫌いじゃないけど、今は時間が限られてるもの」
軽く後悔する俺を、そう言ってフォローしてくれるニオさん。
「……? そうは言うけど、イベント終了まであと1時間弱はあるんじゃ?」
尋ねた俺にゆっくりと首を振ったニオさんが、うやむやになっていた“三ツ首竜”アリア防衛戦における3つ目の情報を教えてくれる。
「ううん。このままじゃあたし達。10分と持たずに死んじゃうから」




