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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第8話 より一層深く、ゲームを楽しむための方法

 22時30分。俺たちTMUの面々の姿は、上空にあった。ニオさんの相棒リューの背中に乗ったのは、もちろん、ロック火山山頂の様子を見に行くためだ。


 ただし、クランハウスで話し合った内容は、想像に想像を重ねた、妄想に近い内容だってことを忘れてはいけない。さっき話し合った内容で根拠があるのは、デーモンと三ツ首竜の存在だけだ。


「もし予想が外れたらすみません、SBさん」


 (くら)の上。縦並びの4つの座席。俺の前に座るSBさんに、時間と労力の無駄に終わるかもしれないことを謝っておく。


『気にするな』『さっきの話し合いが真実だったのに、妄想だからと動かなかった方が辛い』


 一番前に座るニオさんの腰をぎゅっと抱きながら、俺の方を振り返ることなくフォローしてくれるSBさん。


『それに』


 と、少しの間があって、


『きっと、この島にいる魔動機たちを作った昔の人が、竜を大切に思っていたこと。それは、祠を建てたことはもちろん、守っていたゴーレムに“守護者”と名付けられていたことから分かる』


 そんな文章が書かれたメッセージボードを後ろ手に示してくる。もう片方の手はニオさんの腰を抱いたままだから、現実で話した内容を文章化する機能を使っているっぽい。


『そうして竜と人とが守って来た島を、100年ほど前にデーモン達が奪った。それでも竜は火山を鎮め、この島を守って来た。その理由はきっと、この島にいる魔動機たち……人間たちが残した物を守るためだったんだと私は思うんだ』


 あくまでも私が作った物語だけどな、と、注釈を加えたSBさん。けど、不思議と、この人が語るストーリーは本物のように思えた。


『なのに今。デーモンたちは火山を鎮めてくれていた竜への感謝を忘れ、害し、噴火させようとしている。竜が大切に守ってきたものを、全てを粉々にしようとしている。そんなの――』


 そこまで言ってほんの少しだけ俺の方を向いたSBさんは、


『――竜があまりにも可哀想だろ?』


 お面の奥で目を細め、微笑んだように見える。


(可哀想、か……)


 きっとSBさんもトトリと同じで共感性が高い人なんだろう。だからこそ物語に感情移入して、登場人物――今回で言えば竜――に共感することができる。


 でも残念ながら、今の俺は、SBさんが言う「竜が可哀想」って言葉に共感してあげることは出来ない。俺の中にはどうしてもアンリアルがゲームっていう考えがあって、一歩引いたところから出来事を見てしまう。今回、危機的状況かもしれない竜の救出に動いているのも、イベントをクリアしたいからっていう超個人的な理由でしかなかった。


 そうして素直に頷けずにいる俺を、知ってか知らずか。


『私たちプレイヤーは、竜に感謝を返さないといけない。島を守ってくれてありがとうって。そう言ってあげるのが“(どお)り”ってやつだと、私は思うな』


 そう締めくくったSBさん。お面もあるし前を向いてることもあって、表情は見えない。けど、舞台設定でしかない竜に想いを馳せて寄り添おうとするSBさんのその考え方は、素敵だと思う。トトリといい、SBさんといい、物語やNPCに同調できれば、より一層深く、ゲームというものを楽しめるような気がした。




「見えてきました!」


 ロック火山の山頂まで300mとなり、詳細な描画がされるようになった。


 前に来た時は、美しい湖とそのほとりに生い茂る背の低い草木が映す絶景が印象的だった。しかし、今は、その絶景が見る影もない。至る所で爆発や剣線がひらめき、離れている俺たちにまで爆音と剣戟(けんげき)が届いている。激しい戦闘が行なわれていることは明らかだった。


 けど、俺の目線は戦闘の様子よりも、“魔女の瞳”と呼ばれる美しい火山湖に向いていた。なぜならそこに、圧倒的な存在感を放つ3つ首の竜が居るからだ。青い鱗は美しく陽光を返し、戦闘の中にあってなお輝く。身体に当たる部分に手足は見えないから、分類としては「ヒュドラ」と呼ばれる多頭の蛇に近い造形をしていた。


「良かったわね、斥候くん。あたし達の予想、合っていたみたい!」


 俺の方を振り返り、好戦的に笑ったニオさん。


「確かに。でも残念ながら、先客がいるみたいだよ?」


 言いながら、俺はヒュドラの周囲へと視線を向ける。水のブレスや泡を吐き出すヒュドラ。その攻撃がどこに向いているのかと言えば、ヒュドラの周囲を飛び回る、羽を持った人影だ。恐らくそれがヒュドラを倒しに来たデーモンたちだろう。


 そして、デーモンたちをあしらうヒュドラと共闘するようにデーモンたちを攻撃している人影がいくつかあるのだ。NPCか、もしくは俺たちと同じような結論に至って山頂を目指したプレイヤー達だと思われた。


「ふふ、そうね。出遅れてしまったのは悔しいけれど、でも。あたし達と同じように“考えている”プレイヤーがいることは歓迎するべきことだわ!」


 自分たちよりも先にストーリーの結論に至ったプレイヤーがいる。その事実を、悔しさと称賛を持って受け入れるニオさん。この人が“強い”理由はきっと、考え方が自分本位ではないからなんだろうな。先の発言も、ニオさん個人として悔しさをにじませつつも、アンリアル全体の利益を考えた言葉のように思えた。


「リュー、急いで! あたし達も早くあのレイド戦に加わるわよ!」

「ちょ、ニオちゃん、待って――」

『GrrrA!』


 ただでさえ捕まっていることに一杯いっぱいだったSBさんの焦ったような声に構わず、リューは主の名を受けて一気に急降下する。羽を畳み、ジェットコースターもかくやという速度で火口を目指すリュー。押し寄せてくる独特の浮遊感に、SBさんの涙と悲鳴が俺の背後へと流れていく。……SBさん、現実の方は大丈夫なんだろうか? 何も知らない人が聞いたら、何かしらの事件を想像するレベルの絶叫だけど。


 なんて思ってたら、SBさんが半透明の休止状態になった。多分、急激な心拍上昇を感知したシナプスのセーフティ機能が働いたんだろう。となると、SBさんには触ることが出来なくなるわけで。SBさんの腰を抱いていた俺の腕が空を切る。しかもタイミング悪く、火口が近づいてきたことでリューが速度を緩めた瞬間だった。


 そうなると“G”と呼ばれる急激な下方向の圧力が俺を襲ってきた訳で――。


「へぶっ」


 俺は鞍に顔面を強打した。現実なら間違いなく鼻が折れてたと思えるくらいには、痛かった。そのままゆっくりと降下し、やがて、戦闘の余波が飛んで来ない場所に着陸したリュー。


「着いたわよ、みんな! ……って、あれ?」


 振り返ったニオさんが、そこでようやく自身の好奇心が生み出した惨状に気が付いたらしい。半透明の休止状態になったSBさんと、鼻頭を赤くして睨みつける俺を見たニオさんは、


「……てへっ♪」


 悪びれる様子もなく、舌を出す。


 これだと、自分本位じゃないって言うニオさんの評価を撤回せざるを得ない。ゲーマーなんて「面白そう」とか「楽しそう」の前では、どいつもこいつも自己中な奴らばっかりだ。


「ニオさん……」

「あはは、ごめんなさい。つい……ね?」


 両手を合わせて片目をつむり、謝罪の言葉を口にするニオさん。


 同じころ、SBさんの休止状態が解除される。鞍に跨ったまま身を起こすや否や、目の前にいるニオさんに対して、無言のまま弱々しいパンチを繰り出すのだった。


『死ぬかと思った』

「うっ……。すみません、リーダー。ちょっとはしゃぎ過ぎました」


 俺の時とは対照的に、耳と尻尾をしおれさせながら全身でごめんなさいをするニオさん。彼女の右手はSBさんの頭の上にあって、ローブの上からSBさんのことを撫でてあげている。


「まぁまぁ団長。斥候も。そうニオを責めてやるな。こうやって最速でここまで来られたのは、ニオとリューのおかげなんだからな」


 コントローラー操作のおかげで唯一、ニオさんの暴走の影響を受けなかったペンさんがニオさんをフォローしたことで、急降下問題は水に流される。


 だって、こんな口論よりも今はするべきことがあるから。それは、今も目の前で繰り広げられているヒュドラとの戦いに、1秒でも早く参戦すること。


『準備は?』


 SBさんの短い確認の言葉に、高揚感のまま俺とニオさん、ペンさんが頷く。


 そんな俺たちの反応を受けて、大きく一度息を吐いたSBさん。手元に身の丈ほどもある長い杖を装備し、ぎゅっと握りしめている。お面の奥で見上げているのは傷だらけでデーモンたちの猛攻を迎撃するヒュドラの姿だ。


『行こう』


 ローブを揺らして一歩を踏み出した頼りなくとも頼もしいリーダーに続いて、俺たちもイベント最終戦への第一歩を踏み出した。

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