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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第5話 攻略に不慮の事故はつきもの

 案の定、イベントに大きな動きがあったのは、ボス級のモンスターが出現すると言われていた正午過ぎだった。


 アンリアルにログインした俺をいつもみたいに迎えてくれたフィー。彼女が、とある画面を見せてくれる。


「復興度、8,623……?」

「ん」


 ロクノシマのクランハウス。2階にあるベッドルームから1階のリビングへと降りる道すがら、隣を歩くフィーが俺の言葉に頷いて見せた。


 一番プレイヤーの数が少なかっただろう深夜帯ですら全くと言って良いほど減っていなかった復興度の値が、分かりやすく減っている。その理由は間違いなく、昼の12時から出現するようになったと聞くシークレット枠のモンスターにあるんだろうけど……。


 問題は、復興度の減りの速さだ。もし午前中、ほとんど減っていなかったとすると、正午を回って30分ほどで1,000近く減ったということになる。このままいけば、単純計算で270分後……大体5時間ほどで復興度が0になる。それは同時に、シナリオイベントの失敗を意味していた。


 焦りはある。けど、俺ひとりが奔走したところで直径1㎞もある町を守り切ることなんてできない。1つずつ、出来ることをしていくことの方が大切だと思う。


(……ひとまず、情報収集に行こう)


 俺は早々、フィーに指輪に〈変身〉してもらって、町の外へ出ることにした。




 道中で、現地で、そしてネット上で。30分ほどかけて情報を集めてみると、少なくとも4種類、新たなボスが確認されていた。そのうちの1体、動物系モンスターについてはかなり正確な情報源を得ることが出来ていて……。


「うん、マンモス」


 値切って2万7,000Gで買い取った動画付きの情報には、体高5mほどの巨大なマンモスの姿があった。5分ほどの戦闘動画を確認すると、牙による薙ぎ払い。巨体を揺らしての質量を持った突進、踏みつけ。他にも、地面を踏みつけて揺れを起こし、プレイヤーを転ばせる「地ならし」。タンクと思われる男性を、牙を使って天高く放り投げる「かち上げ」なんかもしている。


「攻撃力は300~400って高いけど、移動速度が遅め。……タンクが注意を引いてる間に遠距離攻撃するのが正攻法かな。ただ、タンクが無理やり突破される『かち上げ攻撃』には注意っと……」


 想定される攻略法をメモしながら、俺は次のボスモンスターの情報に目をやる。今回、ボスモンスターの情報をくれたのは『ドドクロ』さん。情報屋としての俺のお客さんの1人で、ずんぐりむっくりという表現が似合うドワーフの男性だ。


 そして、教えてくれた内容というのが……。


「『機械のアルマジロ』かぁ……」


 ドドクロさんからのメッセージに書かれた文言を読み上げながら、俺はまだ見ぬボスモンスターに想いを馳せる。


 ドドクロさん曰く、体長3mほどの動物型魔動機を見かけたらしい。レアモンスターかボスモンスターの可能性があるため、情報を集めて欲しいとのこと。そして、もし情報を得られたら、情報提供の代わりとして優先的に教えて欲しいとのことだった。


 続いての情報は頭から角を生やしたデーモン系のモンスターが居たっていう、TMUが運営するサイトへの書き込みなんだけど……。これについてはあまりにも情報が無さ過ぎて、今のところ信憑性が薄い。プレイヤーを見間違えた可能性だって十二分にある。


 よって「デーモンがいるかもしれない」という要点だけを押さえておいて、情報収集は後回しにしておくことにした。


「で、最後の1体は……」


 町を囲む防塁(ぼうるい)の外。深夜に比べると人口密度が倍になったようにも感じる戦場を見回す。人が増えれば当然、飛び交う声と攻撃は多くなる。けど、そうして増えているプレイヤー側の攻撃よりも目立つのが、敵側の攻撃だ。


 午前中ですら、コロンが放つ光線を始めとした無差別遠距離攻撃が飛び交っていた戦場に、見覚えのある赤いレーザーが何条も加わっている。それだけじゃなくて、これまた見覚えのある円筒状の物体がいくつも空を舞っていた。


 そして、その2つの攻撃を行なっているのは、もう、言うまでもないかもだけど……。


「ちっす、魔動ゴーレムさん」


 俺たちがロック火山の頂上で戦った機械のゴーレムの姿がそこにあった。


 ただし、モンスターパレード用に色々と調整されてるんだろう。大きさは1回り小さい2.5mほどに。飛び出すミサイルは4本に調整されている。ただ、遠目に見えるダメージ表記は、俺の知る攻撃力・防御力に相違ない。恐らく数値としてはHPだけが低く設定されていると見て良かった。


「で、情報は確度が大事、と……」


 俺は信条にもしている標語を声に出す。


 いま俺が手にした情報は全て、伝聞されたものだ。俺がこの目で確かめたわけじゃない。そして、俺が渡した情報に間違いがあった場合、困るのはお客さんの方。ほんの少し伝える数値が違うだけで計算が狂い、その人がゲームオーバーになる……アイテムを全て失う可能性もグッと高くなる。それがゲーム攻略というものだ。


 アイテムを失うのはその人だけだけど、俺は信用を失う。信用を失えばお客さんが離れて行き、収入がなくなる。収入がなくなれば小鳥遊家に入れるお金が減り、ひいては頑張り屋なウタ姉が過労、もしくはより良い稼ぎを求めてあんなことやこんなことに手を出してしまうかもしれない。


(それだけは絶対に防がないと……!)


 脳裏に浮かんだ肌色面積の多い景色に首を振って、俺はまず、きちんと視界にとらえられている魔動ゴーレムの1体に向けて駆け出す。確かめたいのは攻撃力と防御力。何よりも倒した時に得られる経験値だ。


「フィー。言うまでもないけど、絶対に妖精の姿にはならないでね」

「(ん)」


 道中、フィーとそんなことを確認しながら、無差別にレーザーを放っていた魔動ゴーレムと接敵する。と、敵の頭上に表示されたのは『魔動ゴーレム:タイプA』の文字。前に戦ったのは『タイプ:D』だったはずだから、モンスター名も少し違うみたいだ。


 タイプDとの戦いで武器それぞれの有効部位は確認してあるけど、名前が違うから弱点も違うのかもしれない。いや、むしろそうであってほしい。だって前回、仕方なかったとはいえ、パーティの方針でゴーレムとの戦いは個人的に中途半端に終わっている。


 両腕を部位破壊したらどうなるのか。足は部位破壊できるのか。ミサイルを誘導してHPを減らし続けたら行動に変化が起きるのでは? 本当に全部の部位に魔法耐性が60あるのか……。考え出したらワクワクが止まらない。


 腕を振り回す攻撃を避けて、直後のレーザー攻撃も横っ飛びで回避。発射数が減ったミサイルはその分、全てのミサイルがプレイヤーを狙うシステムらしい。そこで俺は、あえて全弾発射させて、4発全てをゴーレムに当たるように誘導してみた。すると、前回のゴーレム戦では見られなかった、ゴーレムがよろけるような隙を見せる。


(来たっ! 未知の行動パターン!)


 しっかりと5秒間よろめくゴーレムの腕部に、俺は黒鉄(くろがね)の双剣と滝鉄(そうてつ)の双剣とを交互に使って計10回の斬撃を叩きこむ。ダメージ合計は(100-80)×1.5×6+(95-80)×1.5×4=272。5秒も隙があって、与えることが出来たダメージがそれだけっていう。しかもこれでHPが推定1万5,000くらいはあると思うと、馬鹿みたいに硬い。


(けど、腕の耐久値(≒HP)はタイプDで5,000くらいだった。ってことは、HPが5分の3くらいのタイプAの腕は……)


 脳内で計算をしながら、振り回される腕を避けて、殴りつけをサイドステップで回避する。レーザー攻撃については背後に回ることで不発に終わらせ、ミサイル攻撃はさっきと同じで全弾ゴーレムに命中させる。そうして生まれる5秒の隙に、また272ダメージを叩きこむ。


 距離を取って回避すれば、ゴーレムが立った状態のまま頬にある赤いランプを点滅させる。これはタイプDも見せていた、レーザー攻撃の予兆だ。この場合、ゴーレムは自身の周囲3m地点を薙ぎ払うようにしてレーザーで焼き尽くす。


 距離を取って回避するのが安全策なんだけど、近接系のプレイヤーはあえて間合いの内側に入ることで、レーザー照射で隙を晒すゴーレムに攻撃できるようになっていた。


 そうして、タイプDとの戦いから得られた情報も生かしつつ、戦うこと10分。


『GGG!?』

「よっっっし!」


 ゴーレムの両腕を切断――部位破壊――することに成功した。腕の耐久値は3,000前後っていうのが分かったまでは良かったんだけど……。


『G……GGG……Piii』

「え」


 次の瞬間、俺はTMUのクランハウスで目を覚ますことになったのだった。

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