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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「ゲームに“奇跡”は存在しない。……けど」

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第3話 つい過去の自分の記録に挑戦してしまう

 上空を覆う分厚く黒い雲。演出としてだろうけど、空が夕焼けのように赤く燃えているようにも見える。聞こえてくるのは数えきれないプレイヤー達による連携の声と、剣戟けんげき。広範囲魔法による爆発音。地響き。そして、押し寄せてくるモンスター達の鳴き声だ。


 6月8日、土曜日。午前3時。イベントが開始されてから3時間が経過した今もなお、動物系のモンスター達が次から次へと町に押し寄せてきていた。


「森方面からはツノウサギ、ダークウルフ、オジカ、中ボスとしてグリズリー……。山、火山方面からはトゲマル、ヨロイトカゲ。中ボスがヒトサライ……」


 手元のメッセージボードに出現するモンスター達の傾向と対策をメモに書き込んでいく。


 集団となってモンスターがやってきている以上、色んなプレイヤー達が入り乱れる乱戦状態になっている。もちろん、多くは顔も名前も知らないプレイヤー同士。連携もへったくれもない即席の迎撃部隊だ。もしこれが現実ならフレンドリーファイア……連携のミスから味方の攻撃が当たることも多いだろう。けど、ここはゲームの中。パーティメンバー以外の攻撃は透過するシステムになっている。


 また、プレイヤー・パーティが戦っているモンスターも同様の扱いで、戦闘終了まで、該当プレイヤー・パーティ以外による攻撃は透過する仕組みにもなっている。おかげで、フレンドリーファイアや獲物の横取りがあちこちで発生するという地獄絵図にはなっていなかった。


「近接系の人たちは森方面、遠距離・魔法系の人たちは山方面でモンスターを倒すのが効率的っぽいかな……」


 個人的な所感と共に、モンスター数を競う人たちを見遣る。


 森からやって来るモンスターは動きが素早い代わりに、HPや防御力が低い。逆に山からやって来るモンスターは、高い防御力やHPを持つ代わりに動きが単調で魔法耐性も低い。自分にあった狩場を選択できるかどうかも、この先の討伐数を左右してきそうだった。


 そうして戦場を駆け回るプレイヤー・動物たちの中で異色なのが、暴走した魔動機モンスター達だろう。


 4足歩行の球体『コロン』。4つのプロペラを持つ30㎝大の飛行物体『ドロン』。TECの人たちとは見間違えようのない、棒人間みたいな機械人間『ポーン』。それら、ロクノシマに点在する廃工場でよく見かけた魔動機たちが、モンスター達を追い立てるようにして町に押し寄せてきている。


 魔動機モンスター達は防御力も魔法耐性もそれなりで、きちんと“戦闘”をしないといけない。しかも暴走しているせいか、魔動機たちは積極的にプレイヤー達に接敵してくる。そうなれば、モンスター討伐数を競っている人たちからすればちょっとした時間のロスになることだろう。中ボスの存在含め、ゲームにはある種欠かせない“お邪魔”的な存在になっていた。


 そんなモンスターパレードだけど、いま紹介したのは事前に出現することが明かされていたモンスターばかり。大ボスと思われるシークレット枠のモンスターの情報については、まだその影すら見えていない状況だ。


 風の噂では今日の正午あたりから出現するようになるのでは、みたいなことも言われていた。序盤に全てのモンスターが出てしまうのは確かにもったいない気もするし、イベントの盛り上がりを考えても案外、その予想通りなのかもしれなかった。


(それにしても……)


 俺はイベントの特設ページにでかでかと書かれている復興度ポイント9,921の値に目をやる。そもそも「24時間耐久モンスター討伐」と聞いた時、深夜帯は絶対にダレる……中だるみすると思っていた。だって所詮はゲームだ。睡眠時間を削ってまでゲームに興じる。そんなある種の苦行に挑む変態なんて、そうそう居ないって俺じゃなくても思うと思う。


 いや、まだ、クランとして期間内に討伐したモンスターの数を競うモンスター討伐数部門に挑んでいるプレイヤー達なら、深夜に無理を押して戦う理由もあるだろう。けど、そうして賞タイトルを取るために頑張るガチ勢はごく一部のはず。多くはただ楽しむために、アンリアルをプレイしていると思っていた。


 なのに、ふたを開けてみれば、深夜3時にもかかわらず、意外にも多くのプレイヤーがモンスターを倒して回っている。


(確かに今日は土曜日。モンスターパレードが終わっても明日は日曜日だから、寝過ごしても困る人は少ないんだろうけど……)


 それにしても人が多いような気がする。考えられる理由としては……。


「フィー。一応、モンスターパレードで出現するモンスターって、アイテムドロップ率2倍なんだよね?」


 俺の隣、黒いローブを揺らしながらボーッと戦況を見守っていたフィーに聞いてみると、「ん」という頷きが返って来た。


 アンリアルがその他のゲームと本質的に異なるところ。それは、ゲーム内のお金を現実に還元できるところだろう。アンリアルで手にしたアイテムを撃って得たお金は、文字通り資産になる。その点、アイテムがドロップする確率が2倍になるということは、時間当たりの収入が倍になるということでもある。


(なるほど……。そう考えると、深夜帯に人が多いのも納得かも?)


 ドロップ率の向上の恩恵を受けるためには、とにかくたくさんモンスターを倒さないといけない。けど、いくらモンスターパレードとは言え、出現するモンスターの数には限りがある。モンスターという限られた資源を、他のプレイヤーと取り合う競争状態ということだ。


 であれば、深夜という、ログインしてる人(=競合相手)が少なくなる時間をあえて狙うプレイヤーが居てもおかしくないんじゃないだろうか。


(多分、一番ログインしてる人が少ないだろうこの時間ですらこの人口密度……。ログインする人が多そうなお昼とかは、阿鼻叫喚なことになってそう)


 いまはかろうじて個別に戦闘が出来て遠目にもそれぞれの戦闘を観察できてる状態だけど、これ以上人が増えたらどうなるかなんて、考えたくもない。


 とはいえ、イベント中なのに人が誰も居ないよりかは全然マシだと思う。アンリアル内に吹き荒れる資本主義の風が、モンスターパレードにおいては、追い風になっているみたいだった。


「……うん。どうせなら俺も、少しでも稼ごうかな」


 現状、集められるだけの情報は集めたつもりだ。俺個人の所感を添えた集積データについても、TMUのクランチャットに掲載済み。集団に帰属している者として、やることはやった……はず。じゃあここからは、個人的に動いても良い……よね?


 正直なところ。イベントが始まってここまで、折角のお祭り感を味わうことが出来ていなかった。別に「序盤は様子見、のちに計画的に動く」って言うTMUの方針に否は無いし、合理的だとは思う。けど、人は、論理で考えて感情で動く動物だって、どこかの誰かが言っていた。


「所詮はゲーム、されどゲーム。ウタ姉もSBさんも言ってたけど、楽しまないとね」


 楽しみながらお金を稼げるところがアンリアル最大の利点だと俺は思っている。ただお金を稼ぐだけなら、それこそバイトを増やした方が効率的だろう。けどそうしないのは、俺が心のどこかで、お金稼ぎに楽しさを求めている証なんだと思う


「……ん?」


 どうしたのかと見上げてくる相棒妖精さん。まぁまぁな戦闘狂のこの妖精さんにも、ここ数日は我慢を強いてしまっていたかもしれない。なら、やることが無い今は、フィーにも楽しんでもらう絶好の好機なんじゃないだろうか。


「……フィー。俺が今までの1時間で倒したモンスターの数って、何体?」

「ん。ん~……」


 うつむいたまま、フィーが過去のログをさらうこと数秒。ん、という声と共に、メッセージボードが1枚跳んでくる。そこに書かれていた数値は『128体』。俺がモンスターハウスと呼ばれる、モンスターが次々に登場する罠に連続でかかった時の記録だったはずだ。


「128かぁ……。了解」

「ん。『もしかして』『挑戦するの?』」

「どうせなら、ね。まぁ、クランにいるから個人部門にエントリー出来ないし、ボスの情報が出たら潔く挑戦は終了だけど」


 それでもいいか確認してみれば、フィーが普段は眠そうな半眼を見開いて、目をキラッキラに輝かせる。羽を激しくパタパタさせているのはもちろん、心なしか、鼻息も荒い。どう見ても乗り気だ。


 そんなフィーに、人目のないところで武器に〈変身〉してもらった後。


「うしっ! 行くよ、フィー!」

「(ん!)」


 俺は、集団行動の“し”の字もない、超個人的な興味で、自身の最高討伐数に挑むことにした。

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