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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「現実なしには、ゲームは無い」

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第13話 窪みがあったら、はまりそうな球体を探す

 ロック火山の山頂にある湖のダンジョン『魔女の瞳』に来てから、はや1時間が経過した。現在、時刻は深夜1時過ぎ。日付変わって、今日は金曜日。学校がある俺とニオさんは、そろそろ寝るか・寝ないかの判断を強いられる時間帯だ。


 結局、トゲマルを含め6種類の未確認の動植物やモンスターを見つけることが出来た俺たちTMUの面々。モンスターパレードで出現するモンスター達の情報も、湖周辺では発見できなかった1体を除いて11種類、集めることが出来た。


 また、その最後の1体についても、別で動いていたTMUの人の伝手(つて)で情報の買い取りが出来たとSBさんが言っていた。


(だから、もう切り上げても良い。……切り上げても、良いんだけど)


 小休憩をする俺の背後では、


「ん!」

『フィー?』『どうしたんだ、私にそんな抱き着いて』

「ん~……っ」

『……よしよし』


 と、SBさんが甘えるフィーの頭を撫でてあげていたり、


「へぇ、ペンさんの相棒は汎用型のトラ系サポートAIなんですね? ……それで良いんですか?」

「ニオよ。誰も彼もが大金をはたいてユニークAIを当てるわけじゃない。それに、我の虎徹(こてつ)だって可愛いものだろう?」

「それは……きゃっ、虎徹ってば。あたしの顔、舐めないで~」


 と、ニオさんとペンさんがお互いのサポートAIを紹介し合っていたりする。


 そう。さっきも言ったように、俺たちは今“小休憩”中。つまるところ、誰もゲームをやめるつもりが無い。もちろん、俺も。その理由は、ここがダンジョンだから。


 通常のエリアとダンジョンの違いは、そこにボスが居るか、居ないか。そして、繰り返すけど、ここは魔女の瞳って言うダンジョンだ。つまるところ、どこかにボスが居る。


(そこにボスが居るなら、とりあえず挑まずにはいられないよね)


 登山家が、そこに山があれば登ってしまうように。ゲーマーは、そこにボスが居れば挑まずにはいられない。


 そして、件のボスについても、およそ見当がついている。モンスターを探しながら直径300mほどの湖畔をぐるっと1周した俺たちは、湖畔にある小さなほこらを見つけていた。そこには3本の首を持つ蛇の石像と、意味ありげなくぼみがあった。


 ――窪み。


 少しゲームをかじった人なら、おなじみのギミックなんじゃないだろうか。


「これは、アレですね」

「そうね、アレね」

『あれだな』

「あれだ」


 俺、ニオさん、SBさん、ペンさん。4人で頷き合って、モンスター探索のついでに窪みにはまりそうな“球状の何か”を探すことしばらく。俺たちは、ちょうど祠の窪みに納まりそうな球体が胸に埋め込まれた、機械仕掛けのゴーレムを発見したのだった。


 そして、今。恐らく中ボスと思われるその機械ゴーレムに挑む前に、こうして休憩を挟んでいるのだった。


 俺は改めて、後方10mほどの位置で大地に横たわるゴーレムを見遣る。全身のっぺりとした金属製で、全体的なシルエットは逆三角形に近いだろうか。ただ、経年劣化している設定なのだろう。いたるところが錆びていて、場所によっては苔むしてすらいる。


 頭に口や耳は見当たらず、レンズと思われる単眼が1つだけある。この島で出会った他の魔動機モンスターの動きから推測するに、レーザー光線なんかを撃ってきそうだ。地面に届きそうな長い腕は胸の前で組まれ、まるで静かに眠る故人のようにも思えた。


 本来、自然が生み出す美しい景観において、人工物である機械ゴーレムは異分子でしかないんだろう。けど、長い時間をかけて自然の力に浸食され、今こうして違和感なく溶け込んでいるゴーレムの姿には、退廃的な美しさがあった。


『どうかしたのか?』


 そう言って俺の横に並んだのは、SBさんだ。腰には未だにフィーが抱き着いており、SBさんに引きずられるみたいになっている。


「フィーがすみません。普段は人見知りするんですけど、SBさんは昔からの顔なじみなので……」

『いや』『邪魔じゃないし問題ない』『むしろこんな可愛い妖精ちゃんに懐いてもらえて嬉しいよ』


 狐のお面の奥で微笑んでくれたように見えるSBさん。こうして間近でみてみると、SBさんが獣人系のキャラクターを使っていることが分かる。それも多分、ウタ姉と同じで、狐の獣人さんだ。


『どう攻略するかでも考えていたのか?』

「まぁ、そんなところです。中ボス戦なので、今回こそはSBさんのスキルの力を借りるかもしれません」


 気にしてないらしいけど一応、やんわりとフィーをSBさんから引き剥がしながら、会話をつなぐ。


 実のところ、ここまでSBさんがスキルを使う場面を1回しか見ていない。その1回も、敵の攻撃を一身に受けてくれているペンさんに使った〈回復Ⅱ〉のスキルだけだ。それ以外にどんなスキルがあって、クールタイムはどれくらいなのか。その辺りを、全く知らないまま今に至っていた。


「ニオさんから聞いた話、SBさんって回復薬(ヒーラー)なんですよね?」


 俺の問いかけに、SBさんが頷く。


 一言に支援役(サポーター)と言っても、その役割でさらに3つの型に分類される。仲間の攻撃力・防御力を上げたり、攻撃に付随効果を付与する強化・付与型(バッファー)。敵の攻撃力・防御力を下げたり、敵を状態異常にしたりする弱体・状態異常型(デバッファー)。そして、その名の通り味方を回復する回復型(ヒーラー)


 ニオさんの話では、SBさんはスキル構成を回復に寄せたヒーラータイプだと聞いていた。


『そうだな』『だが、団員からの意見も聞いて』『ちゃんと強化支援スキルも持ってるぞ』『例えば』


 SBさんが控えめに俺を指さすと、俺の身体が金色の光に包まれる。同時に、視界の端に剣と盾のマークと、上向きの矢印、そして60秒というカウントダウンが表示された。


「お~……。バフですね」

『そう』『〈攻撃強化Ⅱ〉〈防御強化Ⅱ〉』『クールタイムは180秒だ』『他にも色々あるが』『お楽しみということでどうだ?』


 パーティ同士、何が出来てないができないのかを確認する事前の話し合いも大切だけど、SBさんはこうした遊び心も大切にしたいみたいだ。いつだったか、ニオさんはクランリーダー……つまりはSBさんが、ゲームをとことん楽しむタイプの人間だ、みたいなことを言っていたことを思い出す。


 “楽しむ”。ゲームをするうえで最も大切なことを、SBさんが日頃から大切にしていることがよく分かる。


「ふふ、良いですね。了解です」

『笑』『楽しみにしておけ』


 お面の奥。自信満々に言って胸を張るSBさん。楽しそうにアンリアルを遊ぶこの人を見ていたら、俺も釣られて気分が上を向くから不思議だ。ニオさんもそうだけど、全力で楽しんでいる人、笑っている人は周囲の人を笑顔にできるんだと思う。


 その点、いつも楽しむ気持ちを忘れず周囲の人を元気づけるSBさんは、確かに集団をまとめる存在として適任なのかもしれなかった。


 と、そうして談笑する俺たちのもとへ、ニオさんとペンさんが歩いてくる。


「リーダー。斥候くん。時間よ」

「そろそろ休憩時間終了だ……って」


 休憩時間の終了を知らせに来てくれた2人のうち、ペンさんが俺を見て固まる。一瞬何かやらかしたかと思ったけど、ペンさんの茶色い瞳は、すぐに俺の隣――SBさんの方に向けられた。


「団長。なんで戦闘開始直前に、斥候にバフをかけている?」


 呆れ混じりに尋ねられたSBさんは、しかし、小首をかしげている。そんなSBさんの疑問に答えたのは、ニオさんだ。


「リーダー。支援スキルのクールタイム、3分あるんですよね? いま使ったら3分間、使えないんじゃないですか?」


 そうして流れる、沈黙の時間。「あっ」というSBさんの可愛らしい地の声が聞こえたのは、たっぷりと10秒くらいたった時だった。


 つまり、いま中ボス戦を始めても、最低でも3分間、SBさんは〈攻撃強化Ⅱ〉と〈防御強化Ⅱ〉という、基本にして大切なスキルが使えないということだ。支援が出来ない支援役など、ただの置物でしかない。むしろHPが低くて守ってあげないといけない以上、お荷物ですらある。


 俺も初めてのバフに舞い上がってて気づくのが遅れたけど、サポーターとしては、明らかな凡ミスと言えた。


『こ、これは……』

「斥候と話せて嬉しかったのは分かる。頑張って考えて、たくさん取ったスキルを見せびらかしたかった気持ちも、十分に分かる」

「斥候くんに自分がリーダーだって。頼れるんだよって教えたかったんですよね? 分かります」

「「けど、こういう凡ミスは普通に困る(困ります)」」


 ということで、そこから〈攻撃強化Ⅱ〉と〈防御強化Ⅱ〉の2つの支援スキルのクールタイムが終わるまでの3分間。正座させられたSBさんは、ニオさんとペンさんにみっちりとお説教をされていたのだった。

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