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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「現実なしには、ゲームは無い」

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第11話 罠と言っても色々あるよね

 “ダンジョン”と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、先日、トトリと挑んだ安息の地下を始めとする地下の遺跡や洞窟なんじゃないだろうか。薄暗く、ジメッとしていて、モンスター達であふれかえっている。まだアンリアルでは実装されてないけど、中に入るたびに地形が変わるような不思議空間……いわゆる迷宮も、ダンジョンと呼ぶにふさわしいと思う。


 ただ、アンリアルにおけるダンジョンの解釈は、もう少し広い。


『ダンジョンとは、極小範囲における名前のついたエリアのことを指します。ダンジョンでは通常のエリアとは異なり、必ず「Boss」と呼ばれる強い力を持ったモンスターが存在します』


 フィーがアンリアルにおけるダンジョンの定義を教えてくれる。つまるところ、ボスが存在する極小範囲のエリア全てが、アンリアルではダンジョンという扱いらしい。通常のエリアとダンジョンとの違いは、足を踏み入れた時に視界の端に現れるシステムメッセージで知ることができるようになっていた。




 標高約2,000mある『ロック火山』。その山頂に、TMUのメンバー4人を乗せた赤竜のリューが降り立つ。続いて、軽やかな身のこなしでリューの背中から下りたのは、ニオさんだ。


「お疲れ様、リュー」

『グルゥゥゥ……♪』


 ニオさんに頬を撫でられ、労われたリューが気持ち良さそうに鳴く。美しい背景に猫耳美少女と巨大な竜が戯れる様は、1枚の絵画のよう。トトリだったらスクリーンショット必至だろう。


 その後、ニオさんの指示のもとSBさん、俺、ペンさんことPendragonさんがリューから降りる。10分ぶりに踏みしめる大地は、赤みを帯びた灰色をしている。


 ダンジョン『魔女の瞳』。日本の福島県にあるカルデラ湖をモデルとした、直径約300mほどの湖だ。湖畔はやや急峻きゅうしゅんな下り坂になっているけど、崖と呼ぶほどではない。4~6mほどの木々と背の低い植物が映す緑色が湖の青によく合っていて、風光明媚と呼ぶにふさわしい光景を作り出していた。


「ほう……。ここがニオの言っていた場所だな?」

「はい、ペンさん。斥候くんと空を飛んでた時、山頂に見つけたのよね?」


 ニオさんに目を向けられた俺は、コクリと頷く。


 俺がTMUに加入したその日。リューの背に乗って2人でロクノシマ全体を見渡した際、俺たちはこの湖の存在を知った。ただ、その時は深夜2時を軽く回っていて探索は断念。陸路で来るにはあまりにも遠く、山道も険しい。ということで、今度、ニオさんの都合が合う日に、また空を飛んで来てみようかと話していたのだった。


(それがまさか、4人での本格的な探索になるなんて思ってなかったけど……)


 振り返ると、フードを被ったローブ姿のSBさん。フードを脱いで軽装になったニオさん。頭からつま先まで、全身を兜と鎧で覆ったペンさんが居る。背が高い順に、ペンさんが190㎝くらい。俺が175㎝弱で、ニオさんが160㎝後半。SBさんが160㎝くらいだった。


『ニオちゃんの言う通り、ダンジョンだったな』

「そうみたいですね、リーダー! 新しいダンジョン……。ってことは、新しいモンスターが居ても不思議じゃない! はぁ、今からでもワクワクするわ!」


 興奮を隠さず、ニオさんが尻尾を激しく揺らしている。


『ひとまず、湖をぐるっと1周してみようか』『斥候、戦闘を頼めるか?』『先頭』

「了解です」


 一部、誤字をしながら言ったSBさんの言葉に従って、俺たちは早速、魔女の瞳の攻略に移る。遺跡じゃないからと、侮ること無かれ。アンリアルでは自然界にも無数の罠が仕掛けてある。


 代表的なところで言えば、この間、トトリが食らっていた『ハチの巣』。迂闊に近寄ると、時間経過では回復しない毒状態になる。他にも、少し触れると毒の胞子を飛ばしてくるキノコや花。バラみたいに、茎や葉に鋭い棘を持つ植物に触れれば、無数の連続ダメージを受けてしまう。


 それらの罠からパーティメンバーを守ることもまた、斥候としての大事な役割だった。


 と、〈罠探知〉のスキルを駆使しながら罠を解除、回避しつつ進むこと数分。


「止まってください」


 俺の声で、全員が身を低くして茂みの影に隠れる。


「敵ね?」


 囁くように聞いて来たニオさんの言葉に頷いて、俺は〈モンスター探知〉に反応があった方に目を向けた。


 周囲30mほどの敵性存在を知ることができる俺の〈モンスター探知〉。ここで言う『敵性存在』っていうのは、プレイヤー側から攻撃を仕掛けなくても攻撃をしてくるモンスターのことを指す。それ以外の分類だと、攻撃をしたら向こうも攻撃をしてくる『中立存在』と、攻撃をしたら逃げる・身を守る行動をするだけの『無抵抗存在』が居た。


 そして、今回、〈モンスター探知〉の網に引っかかったモンスターの様子を遠くから慎重に見てみると……。


(『トゲマル』……。初めて見るモンスター!)


 ヤマアラシのように背中に鋭い棘を持つ、小型犬サイズのモンスターが背の低い植物の間を闊歩かっぽしていた。


「トゲマル……。モンスターパレードにあった名前ね?」


 草木の影で屈む俺の隣に並んだニオさんも、トゲマルの姿を確認したらしい。


「数は……2匹?」

「ううん。ちょっと先の茂みにもう1匹居るから、全部で3匹」

「さすが“斥候”くん。索敵はお手の物ね。……考えられる攻撃は、突進、噛みつき。あと遠距離攻撃手段として、針を飛ばして来てもおかしくないわよね」


 ゲーマーとしての読みを使って、予めトゲマルの行動を予想していく俺とニオさん。その会話を、同じく身を低くして聞いていたSBさんが、


『戦闘時の編成』『ペンさん、斥候、ニオちゃん、私でいいか?』


 素早くパーティ編成をしてくれる。前衛がペンさん。中衛……遊撃的なポジションに俺。魔法を使う2人が後衛。理想的な編成だと思う。


(それに、SBさんが戦うところ、初めて見られる……!)


 アンリアルを始めた初期からの顔なじみ。それでいて情報交換以外の接触が少なく、謎が多かったSBさんの雄姿を初めて見られる。その事実に、俺は不覚にもワクワクしていた。


「それも良いですけど、SBさん。ちょっとお耳、良いですか?」

『?』


 尻尾を揺らして歩み寄るニオさんに、首を傾げたSBさんが素直に顔を寄せて、何かを話し込み始めた。


 そうすると、残されたのは俺とペンさんの男子勢だ。


「……ペンさんは、あの2人と仲がいいんですか?」


 SBさん達の様子をダシにして、俺はペンさんへの接触を図る。対人関係は自分から話しかけるのが大事。ウタ姉に口酸っぱく言われてきたことだ。(くだん)のペンさんはと言えば、一歩引いた位置で、まるで子を見守る親のように俺たちを見ていた。ひょっとすると、けっこう年上なのかも。


 俺の問いかけに、特に気にした様子もなくペンさんが答えてくれる。


「団長とはよく攻略に行くな。ただ、ニオとはたまにクランハウスで鉢合わせるだけの、言ってしまえば顔見知りだな」

「なるほど……」


 TMUはビジネスライクな付き合いが多いって聞いてたけど、案の定、同じクランだからと言って、全員仲が良いってわけじゃないっぽい。そこは正直、ありがたい。出来上がった人間関係に入っていくのって、かなり気を遣うし、しんどいもんね。


「じゃあいつもはSBさんと2人でアンリアルしてる感じですか?」

「いや。攻略するときは支援職の団長と有志のプレイヤーで行動することが多い。我々だけだと、どうしても火力不足になるからな」


 SBさんは、アンリアルでも人口が少ない支援役(サポーター)。冒険者ギルドに行けば、引く手あまたらしい。


「最近はマシになったけど、最初の頃は初心者丸出しだった。冒険者ギルドで右往左往していた団長に声をかけて、そのままズルズルと今に至るな」


 懐かしむような優しい顔で、ニオさんと話すSBさんのことを見るペンさん。その姿はどことなく、お父さんっぽくもある。「出会った」って言い方からして現実で家族ってことは無いだろうけど、なんとなく、ペンさんとSBさんの関係が知れる会話になった。


 と、同時に気になるのは、SBさんのゲームの腕だ。少し前のニオさんの会話や、今のペンさんの発言から見ても、決してゲームが上手いというわけではなさそう。むしろ、アンリアルを始めた当初はゲーム初心者だったようにすら思える。


(なのに、TMUというクランを率いるリーダーになってる……)


 今のところSBさんには、ニオさんのような人を引き付ける引力を感じない。今回の戦闘、あるいは魔女の瞳を攻略する中で、何かを感じ取れると良いんだけど。


「斥候くん! それにペンさん! ちょっと提案があるの!」


 そんなニオさんの声が飛んできたのは、トゲマルを見つけてちょうど1分くらいが経った頃のことだった。

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