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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「現実なしには、ゲームは無い」

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第5話 “理解”から最も遠い2つの行為

 あの後、4時頃までニオさん&リューとロクノシマを探索。ログアウトして3時間ほど仮眠をした。そして、7時半に起床。現在、ウタ姉のために朝食を作っているところだ。


 今日6月2日は日曜日。バイトも学校もないから、思う存分アンリアルを楽しむことができる。だからこそ、今日、俺は前々から考えていたとある作戦を決行する予定だった。


「ふわぁ……。おはよ、コーくん」


 大きなあくびをこぼしながら、ウタ姉がリビングに姿を見せる。寝起きだから当然、ほぼすっぴん。ゆるくフワッとした印象の茶色い髪にも、ところどころ寝ぐせが見られる。昨日は夜更かしでもしたんだろうか。いつもの日曜よりも少し眠たさを残すお目覚めみたいだった。


「おはよう、ウタ姉。昨日も動画?」

「うん? う~ん、そんなところかなぁ……。くわぁ……」


 フラフラとした足取りで食卓に着くと、机に突っ伏す。ここまで寝ぼけているウタ姉も珍しい。家族だからこそ見せてくれる無防備な姿にはちょっとだけ優越感があるけど、それ以上に……。


(やっぱり、疲れてるんだろうな)


 思い出すのは先日、小鳥遊家を訪れた叔母さんであるところのぬいさんの話だ。俺たち……というか俺の様子を見に来てくれた縫さんは、ウタ姉が過労気味、みたいなことを言っていた。


 だからこそ、今日の作戦だ。


 俺は今日、人生で初めて、ウタ姉をゲームに誘うつもりでいる。もちろん、プレイするのはアンリアルだ。現在、アンリアルはイベント中。いわばお祭り状態に近い。そんなアンリアルを散策するだけでも、良い息抜きになるんじゃないかと思う。


 それに、アンリアルなら、ウタ姉は義足であることを気にせずに動き回ることができる。


 ウタ姉自身はあんまり気にしてないみたいだけど、それでも、運動制限のある日々はストレスがあるに違いない。アンリアルという仮想空間で、現実のことを忘れて、目一杯に駆けまわって欲しい。そんな思いで、俺はウタ姉をアンリアルに誘うつもりでいた。


「はい、ウタ姉。朝ごはん」


 今日の朝食(トーストとサラダ、半熟卵、ヨーグルト)を、突っ伏すウタ姉の横に置く。


「う~……。いつも休日なのにごめんね、コーくん」

「そこは『ありがとう』だよ、ウタ姉。俺も、したくてしてることだし」


 身を起こしたウタ姉と2人、手を合わせて朝食を食べ始める。あとは、いつ、一緒にアンリアルをしようと切り出すか。タイミングをうかがっていると、ようやく目が覚めて来たらしいウタ姉と目が合った。……切り出すなら、今!


「ウタね――」

「あ~! コーくんっ!」


 ウタ姉の大きな声に機先を制されてしまった。


 出鼻をくじかれたことと、あまり聞かないウタ姉の大声に面食らってしまう俺。固まっている間に、ウタ姉が自分の席を立ち、俺の方へと歩いてくる。


「え、えっと、どうしたの、ウタ姉?」

「コーくん! ちょっとだけ、じーっとしてて……」


 言ったウタ姉が俺の両頬を手で挟んできたかと思えば、そのまま、顔をズイッと寄せてくる。ふわっと香るシャンプーと洗剤の香り。香水の匂いがしないウタ姉も久しぶりだ。なんて、自分でもちょっと気持ち悪いことを考えていたら。


「やっぱり……。クマがある」


 俺の目元を見ていたウタ姉が、眉尻を下げる。そんな心配そうな表情を見て、「しまった」と思った時にはもう遅い。


 隣の席に腰掛けたウタ姉が俺の方を向き、手を膝の上に置いて背筋を伸ばす。家族会議の構えだ。


「コーくん、あんまり寝てないでしょ?」

「そんなこと無いよ?」

「嘘。お姉ちゃんを甘く見ないで。……こっちを見なさい」


 追及されると良くないと思って食事逃げようとした俺を、ウタ姉が強い口調で制した。こうなったらもう逃げられない。だから、俺も横向きに座ってウタ姉と正面から向かい合うことにする。


「最近の睡眠時間は?」

「えっと……6時間――」

「嘘。……その半分くらいなんじゃないの?」


 さすがウタ姉。その通りです。イベントにテストと色々立て込んでいたから、ここ最近の平均睡眠時間は4時間くらいだったと思う。何なら、徹夜だって当たり前だった。ただ、事実を伝えるとなお一層、ウタ姉を心配させてしまう。ここは黙秘権を行使しよう。


 そうして黙り込んだ俺に、ウタ姉が小さくため息をこぼす。


「……理由はゲーム? それとも何か悩み事? 学校で何かあった?」


 矢継ぎ早に行なわれる質問。どう答えるのがウタ姉にとっての正解なのか。いつもの癖でじっくりと考えていたその()が良くなかったらしい。


「そっか。……ごめんね。最近、私も忙しくってあんまりお話聞いてあげられなかったもんね」


 俺に深刻な悩みがあると勘違いしたウタ姉が、なお一層、表情を暗くする。なぜか泣きそうにも見えるその顔は、まるで、この世の終わりとでも言うようだ。でも、すぐにウタ姉は表情を“笑顔”に取り繕う。その理由は間違いなく、俺に心配をかけないように、だろうな。


「実はね。私、知ってるの。最近、コーくんがずっと……四六時中アンリアルしてるの。それこそ、テスト期間中もずっとログインしてたでしょ?」

「え……?」


 就寝後、親にゲームをしてるのを見つかった。そんな感じの気まずさがある。


「さすがに息抜きの域を超えてるよね? なのにコーくんがアンリアル……ゲームをしてる理由。それって、もう、ストレス解消しかないのかなぁって」

「いや、そんなことは――」

「それともお小遣いが足りなかった? あ、もしかしてお家のこと?」


 お家のこと。それはその通りだから、一瞬だけ反応してしまった。そして良くも悪くも俺のことを良く知るウタ姉は、俺の些細な機微を見逃してくれない。


「お家のこと、なんだ……?」


 その質問に、頷くべきか、首を振るべきか。迷ってしまったのも、良くなかった。痛みを堪えるように、それでも俺が安心できるようにと、無理に笑顔を浮かべるウタ姉。


「心配しなくても良いんだよ。私がもっと頑張るから。もっと頑張って、頼れるお姉ちゃんになるから」


 自分もボロボロなのに、俺のために動いてくれようとしている。


 俺は、ウタ姉が頑張らなくて良いように、頑張ってたはずだ。なのに、結局はこうやって心配させてしまっている。俺が頑張るほど、ウタ姉が頑張る理由が増えていく。そんな皮肉めいた状況を作ってしまうのは、やっぱりまだ俺が“子供”だから……? ウタ姉にとっての庇護対象……弟だから、なのかな?


「だからお姉ちゃんに話してみて? 何があったの?」


 俺の手を優しく取って、真っ直ぐに目を合わせてくるウタ姉。目端で光る涙の雫は、ウタ姉の自責の念の表れか。


 どう答えるのが、正解なんだろう。どう答えてあげれば、ウタ姉は安心してくれるんだろう。どんな“小鳥遊好”なら、この人を安心させてあげられるんだろう。分からないのは、俺が他者に興味を持てない……人間として欠陥品だから、なんだろうか。あるいは完ぺき超人であるところの入鳥さんだったら、分かるのかな?


 一番近くに居て、一番幸せになって欲しい人のことが、何一つ分からない。けど、ウタ姉は俺にとって他人じゃない。家族だ。どれだけ時間がかかっても、労力を割いたとしても、分かろうとする努力をやめたくはない。


 だから俺は、“憧れ”と共に理解から最も遠い行動の1つである“嘘”をやめることにした。そのついでに、俺は当初の目的を果たすことにする。


「ねぇ、ウタ姉。一緒にアンリアル、してみない?」

「……話を逸らすのは、お姉ちゃん、良くないと思うな?」


 俺が悩みを打ち明けないことに、少し腹を立てた様子のウタ姉は、続けて。


「それに私、ゲームは見る専なの。自分でするのって、なんか違うなぁって」


 あくまでも自分は人がゲームをしているのを見てる方が楽しいと語る。


 実際、1つ10万円もするシナプスを買っておきながら、ウタ姉がゲームをしてるところを一度も見たことが無い。肌に合わないと言うのも、本心なんだろう。けど、ウタ姉が俺を心配するように、俺だってウタ姉を心配している。今日は、何が何でもアンリアルをプレイしてもらう。そのために俺は、


「じゃあ、えっと……あっち(アンリアル)に来てくれたら、俺の悩みを相談するよ」


 交換条件を提示した。そして、ウタ姉なら必ずこの条件を飲む。だって、俺が心配だから。やってることがウタ姉の思いやりを利用する外道な方法だってことは分かってる。けど、ウタ姉にリフレッシュしてもらえるならもう、なんだって良い。


 そして、案の定。


「…………。……私、コーくんをこんなズルい子に育てた覚え、無いんだけどなぁ?」


 それはもう渋々と言った顔で、ウタ姉は俺の交換条件を飲むのだった。

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