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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・後編……「現実なしには、ゲームは無い」

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第2話 クラン『The Maid of Unreal』

 その後、特段、大きな問題もなく俺は無事にクランに入れてもらう運びとなった。ただ、ちょっと気になることがあるとすれば、SBさんが少しだけ、俺の加入を渋っていたように見えたこと。仮面のせいで表情は見えなかったけど、なんていうんだろ。俺の加入を強く勧めるニオさんとの会話の中で、雰囲気とかにためらいがあったような気がした。


 とは言え、結局は俺の加入を認めてくれたSBさん。こうして俺は、晴れて、クラン『The Maid of Unreal』通称『TMU』の一員になったのだった。


 そして、現在。6月2日の午前1時過ぎ。シクスポートのクランハウスを出た俺とニオさんは船に乗って、復興が進むロクノシマに向かっている。もちろん、イベントを攻略するためだ。


「TMU加入おめでとう! ようこそ、斥候くん!」


 巨大な木造船の甲板の上。ローブの裾を揺らすニオさんが、改めてクラン加入を祝ってくれる。こうやって、さも我が物顔で「ようこそ」とか言うくせに、ニオさんはクランのリーダーじゃないっていうね。ややこしいことこの上ない。


「うん、ありがとう。ニオさんも、SBさんに俺を勧めてくれてありがとう」

「ふふっ、良いのよ! あなたの加入がクラン全体に良い影響になる。そうなると、あたしが得をする。全部、あたしのためだもの」


 俺が気を遣わないように、かな。フードの奥で「にししっ」と笑うニオさんには、やっぱり感謝しかない。これで俺も臨時収入を得るって言う目的を達成できる可能性が高くなったはずだ。


 シクスポートからロクノシマまで10分ほどの船旅。その間は手持ち無沙汰だし、TMUについて教えてあげると言ったニオさんに連れられて、船内の個室に入る。ついでに、使用料は片道500G。結構高い。今回はお祝いも兼ねておごると言ってくれたニオさんの言葉に甘えさせてもらうことにした。


 室内は6(じょう)くらい。狭い部屋に、どうにかベッドが2つ置いてあるだけだ。小窓からは陽光が差し込み、遠く水平線が揺れている。


「さて。何から話そうかしら。とは言っても、所属して1年ちょっとのあたしが話せる内容は少ないの」


 向かいのベッドに腰掛けたニオさんが、TMUについての詳細を教えてくれる。まずは、クランにおけるもっとも大切な項目である“クランの目的”について。


「TMUの目的は、その名前の通りよ。と言えば、斥候くんは分かる?」

「ごめん、全く」

「即答ね……。まぁ、素直なことは良いことよ」


 室内ということでフードを脱いだニオさんが、黒い三角形の耳をピコピコ揺らしながらTMUの名前の由来を教えてくれる。


「そもそも『The Maid of ○○』は、『○○の乙女』って意味があるの。有名なところで言えば、The Maid of Orléansよね!」


 ザ、メイド・オブ・オルレアン。オルレアンの乙女。そう聞けば、ある程度ゲームをかじっている人間は正解にたどり着けると思う。女性でありながらフランス軍に従軍した女性。様々な媒体で聖女として描かれる、かの英雄を。


「ジャンヌダルク!」


 つい声を弾ませてしまった俺の答えに、「正解!」と笑ってみせたニオさん。TMUは、ジャンヌダルクをイメージして作られたクランだということらしい。


「敗戦濃厚な戦況に赴き、士気を高め、勝利を導いて見せた英雄。お先真っ暗な場所に光をもたらし、人々に進むべき道を示す存在になること。……それが、TMUの目的よ!」


 いつものドヤ顔で言ったニオさんが、会話を締めくくる。めちゃくちゃ遠回しな言い方をしてるけど、簡単に言えば『アンリアルの情報を集めてプレイヤー達に周知し、行く先を照らすこと』が、TMUの目的だった。


「次に、所属人数ね。とは言っても、クランに入ったから斥候くんも見られるわよね?」

「あ、うん。えっと……」


 俺はメニューボタンからクランを選択する。と、TMUの名前と共に所属しているプレイヤーの名前が表示された。所属人数は俺を含めて全部で8人。


 ただ、ニオさんも全員と顔見知りというわけではないらしい。クランとしてはビジネスライクな付き合いがほとんどらしくて、情報交換もメッセージで済んでしまう。それに、プレイヤーには漏れなく現実があるわけで、時間の融通についても人それぞれ。こうして聞くと、TMUの在り方は、ウタ姉から聞く大学のサークルに近い印象を受けた。


「……それでもニオさんは、クランの人たちを尊敬してるんだよね?」


 勝手な印象だけど、ニオさんは自分が認めていない相手と居ることを好むようには思えない。現実なら付き合いとして一緒に居ることもあるだろうけど、わざわざゲームでそこまでする必要もないように思う。そういう意味では、ニオさんがクランの人たちを認めているだろうことは、容易に推測できた。


 そして、そんな俺の予想は、


「もちろん! みんな、あたしと同等かそれ以上だと思っているわ!」


 晴れやかな顔で言ってみせるニオさんによって肯定される。


「特にリーダー! あの人は別格! トトリ風に言うなら、あたしの推しね」


 目を輝かせて、クランのリーダーであるSBさんについて語る。


「……SBさんが? あの人、そんなにゲーム上手いんだ?」


 さすがクランリーダー、と、俺が勝手に納得する一方で、なぜかニオさんは思案顔だ。


「どうかしら。あの人は支援特化だし、別にプレイングが特別に上手という印象も無いわ。動きなら、斥候くんの方が上だと思う」

「あれ、そうなんだ? じゃあなんで?」


 どうしてニオさんはSBさんの下に就くことを良しとするのか。理由を尋ねた俺に、ニオさんは客室の天井を見ながら「う~ん」と悩まし気な声を漏らす。この様子を見るに、何かこれと言った理由があるわけじゃないっぽい。


 そのまましばらく黒い尻尾を揺らしながら考え込んでいたニオさんだったけど、


「姿勢、かしら」


 ぽつりと、こぼした。


「姿勢、というと……?」

「そもそもあたしがTMUに入ったのって、ニノモリでリーダーに会ったのがきっかけなの」


 そこから、SBさんとの出会いについて簡単に説明してくれるニオさん。


 そもそもSBさんは支援役(サポーター)。1人では基本的に何も出来なくて、ストーリーですらも攻略し辛い。ありていに言えば、楽しくない。だから、盾役タンクに並んで不人気な役割だ。恐らく、アンリアルプレイヤーでも1、2割ほどしかいないと思う。


 ニオさんがSBさんに声をかけたのも、物珍しさかららしい。当時はニオさんも自分でクランを立ち上げようと思てたらしくって、あわよくばSBさんをメンバーとして迎えようとしてたらしい。けど、SBさんはニオさん以上に、ゲームに本気だった。本気で、ゲームを楽しんでいたらしい。


「初めてだったの。アンリアルで、あたし以上に楽しんでるなって思えた人。この人となら、あたしも楽しくゲームが出来そう。そう、初めて思えた」


 遠い目をして当時を振り返るニオさん。きっと、いい思い出なんだろう。ニオさんの口元は、優しく弧を描いていた。


「なるほど……。けど、それじゃあニオさんがクランを経営する方が良いんじゃない? そっちの方が似合ってるし……って、どうしたの、急に笑って」


 俺が話している途中で、急にクスクスと笑い始めたニオさん。


「ふふ! ううん、そうね。ついさっき、あたしも同じことを思ったの。あたしがクランを経営する方が、何かと性に合ってるって。けど、現に今、こうしてリーダーの下についてる。それが、なんだか可笑しくって!」


 こらえきれなくなって、アハハと声を上げて笑い始める。結局のところ、ニオさん自身もどうしてSBさんにリーダーをさせているのか分からないみたいだ。


「ただ、斥候くんもリーダーと話せば分かるわ。この人になら、全部任せて良いって。そう思わせる空気感が、あの人にはあるから!」


 笑い過ぎで目端に浮かんだ涙を指で払いながら、ニオさんはそんなことを言う。けど……。


「話すって……。SBさん、基本メッセージボードでしか話さないじゃん」

「え、そんなはずは……。けど、確かに。ご家族への配慮で、たまにメッセージボードを使って話すことはあったけど、今日はずっとメッセージボードで話してたわね。それに変なお面も……。なんでかしら?」

「いや、俺に聞かれても」


 逆に俺としては、SBさんがニオさんとは肉声で、しかも素顔を晒して話してることに驚いたくらいだ。


「ニオさんとは同性だから、とか? 俺と会うときは絶対にお面も被ってるし」

「それは……あり得そうね。けど、本当にそれだけ……?」


 結局SBさんの奇行の意味が分からないまま、俺たちの乗った船はロクノシマ到着を告げる汽笛を鳴らした。

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