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第7話 4年ぶりの再会

「えっと、話って何かな?」


 とりあえず、荷物を寮に置いた私は外で待っていたルードと合流して、人通りが少ない裏庭へと移動していた。


 前を歩くルードについていった結果、周りに誰もいない裏庭まで来てしまった。


 なぜにこんなに人がいない所まで来たのだろうか?


 別に、人が多い中庭の方にもベンチはあったし、そっちでいい気がするんだけど、ルードはそんな中庭に見向きもしなかった。


 何か二人きりで話さなければならないことがあるということだろうか?


 いや、でもルードと話したのって4年前の少しの時間だけだったし、そんな重要な会話をした記憶もない。


 当然、何かやらかしたようなことも思い当たらない。


 それでも、少しだけ不安げにルードの方に視線を向けていると、その視線に気づいたルードは軽く辺りを確認した後、私の方に頭を下げてきた。


 突然のこと過ぎて何が起きのか分からないでいると、ルードはこちらに顔を上げずに頭を下げた状態のまま言葉を続けた。


「子供の頃に助けてもらったお礼をしたかったんだ。本当にありがとう」


 突然過ぎる事態に少しだけついていけなくて、私は頭を下げているルードの姿を見て、目をぱちくりとさせていた。


 あれ? もしかして、ただ普通にお礼を言いたかっただけ?


 でも、それだけならわざわざこんな人通りが少ない場所に来る意味がないのでは?


 そんなことを考えながらも、一向に頭を上げようとしないルードを前にして、私は少しだけ焦った様子で口を開いていた。


「ぜ、全然気にしないで大丈夫だよ。それに、私が自発的にしたことだし!」


 私はなんだかこちら悪いことをしてしまったかのような気になって、頭を上げてもらうことにした。


 私がそう言うと、ルードはようやく頭を上げてくれて、少しだけ口元を緩めて言葉を続けた。


「それでも感謝している。それと、別で聞きたいことがあるんだが、いいか?」


「うん、もちろん。何でも聞いてくれていいから!」


 ルードってこんな感じだったかな? とか思いながら、私はルードの方から興味を持ってもらえたことが嬉しくて、すっかり警戒心という物を微塵も抱かなくなっていた。


 そんなふうに私に微かに笑みを向けたと思った次の瞬間、ルードの瞳の色が微かに変わったような気がした。


「色々と聞きたいことがあるんだ。まずは……名前から聞いてもいいか?」


「名前? アリスだけど」


「アリス……エバ―ハルト・アリスか?」


「あれ? 私のこと知ってるの?」


「首席の名前を知らないわけがないだろ。そうか、俺が首席に慣れなかったのは、アリスがいたからか」


 ルードに本名を名乗った覚えがなかったので小首を傾げると、ルードは私の顔をじっと覗き込んできた。


 少しだけ何かを疑うように眉を潜めると、ルードはそのまま言葉を続けた。


「それで本題だ、アリス。君は一体何者なんだ?」


「何者ってどういう意味?」


 今の状況的に、ルードの言葉の意味が本気で分からないはずがない。


 多分だけど、今のルードが4年前の誘拐事件のことを忘れているようには思えない。そうなると、単身で誘拐犯のアジトのようなところに乗り込んで、一人で誘拐犯のおじさんを懲らしめるほどの力のある少女。そんな君は何者だといいたいのだろう。


 本当のことを言うと、その前にもう二人ほど誘拐犯を懲らしめていたんだけど、そのことをこちらから言う必要はないよね。


 私はおとぼけ顔で何とか誤魔化そうとして視線を逸らそうとしたが、すぐに私の逸らした視線の先にルードが入り込んできた。


 どうやら、逃がしてくれる気はないみたいだ。


 4年前のことだからもう忘れたという言い訳をしようとしたけど、すでに誘拐犯のお礼を言われてしまっているので、その言い訳で逃れることはできない。


 ……あれ? もしかして、初めにその逃げ道を塞がれて今は袋小路だったりする?


 いつの間にか追い込まれていたことに気づいた時にはすでに遅く、ルードは微かにしたり顔をしているようだった。


「前に誘拐犯にさらわれた時、アリスは初対面のはずの俺の名前を知っていただろ? なんで俺の名前を知っていた?」


「ふ、フローレス家は有名だから、知ってただけだよ?」


「ほう、あの時にすでにファミリーネームの方も知ってたのか」


「……あっ」


 誤魔化そうと必死に頭をフル回転させた結果墓穴を掘った私を見て、ルードはこちらに分かるくらいに口元を緩めた。


 完全に泳がされていたことに気づきながら、そんな懐かしやり取りを思い出してしまい、私は微かに体温を上げて何も言えなくなってしまっていた。


 今になって少しだけ冷静に考えてみれば、会ってもいないルードの名前を叫んで戸を叩いたりと、少しやり過ぎた部分があったかもしれない。


 いや、確実にやり過ぎていた。


 あの時はルードを助けようとして必死だったから、そこまで考えが回らなかったし、目の前で無残に殺されてしまった所を見たせいで、余計に感情が昂ってしまっていたんだと思う。


「オリスのことも知ってただろ? それも昔から知ってるみたいな言い方だった」


 すでにこちらに逃れる術がないことを察したのか、ルードは余裕のある笑みを浮かべながら言葉を続けていた。


 オリスさんに対して何か言った記憶はないけど、久しぶりに見たオリスさんの姿を見て、私が何か言葉を漏らしていてもおかしくはない。


 もう色々と言い訳ができないくらい、追い詰められてしまっている。何かここから逃れられる術はないかと考えてみるが、どう考えても今から逃れられる可能性は低い。


「それに、あの歳で回復魔法を使ってたよな? この学校に入る前の生徒でもない子供が」


「……」


「なぁ、教えてくれないか? アリスが何者なのか」


 ルードはそう言うと、先程まで浮かべていた笑みを引いて、真剣な顔で私のことを見つめてきた。


 ただルードが意地悪をしているだけなのかと思ったけど、ルードの反応を見るとそれだけではないということはすぐに分かった。


 そして何より、4年振りに会ったというのにすぐに私のことを見つけ出したという事実が、ルードの真剣さを物語っていた。


 子供の4年というのは結構な月日であって、それに伴って驚くくらいに容姿だって背丈だって変わる。


 それだというのに、たくさんいる新入生の中から私のことを見つけ出したのだ。


 4年も前に少し会っただけの女の子のことを、そんな鮮明に覚えていることができるだろうか?


 もしも、それができるとすれば、それは4年前の出来事を忘れないように何度も思い返していたということになるだろう。


 それだけルードにとって、私との出会いは衝撃的だったのかもしれない。思い出さずにはいられないほどの衝撃を少年だったルードの心に植え付けていたのだろう。


 私を見つめるルードの表情から、私に対する疑問や懸念だけはない別の何かを感じ取ってしまいそうになって、私は慌てて顔を逸らした。


 ……それは、さすがに思い込みだ。


 私は一瞬感じてしまった邪念を捨て去って、この状況から逃げることができないことを思い出し、小さくため息を漏らした。


 ここまでバレてしまった手前、これ以上誤魔化すのは無理かもしれない。それでも、一体私の正体をなんて説明すればいいのだろうか?


 私が未来から来たって言って、素直に信じてくれるとは思えない。


「多分、言っても信じないと思うけど」


「それでも教えて欲しい」


 不安げに漏らした言葉に対して、間髪入れずに返ってきた言葉を目に、私は少しだけ覚悟を決めることにした。


 未来から来たなんて言ったら、普通に考えたらヤバいやつだと思われるだろう。そう思われてしまうと、今後ルードと仲を深めることは難しくなるかもしれない。


 それこそ、前にいた世界みたいな距離感で話をすることも難しくなるだろう。


 それは嫌だなと思いながら、ちらりとルードの瞳を見つめて、私は唇を少しだけ噛んでから肩に入っていた力を抜いた。


正直、これからこの学園でアーティファクトを守るとなったとき、一人でどこまでできるか分からない。


 今の状態の私が闇の魔法使いたちを前にして、一対一で戦って勝利するとも限らないし、結局全てのアーティファクトが連中の手に落ちる可能性だってある。


それを一緒に阻止してくれる仲間なしには、多分未来は私がいた世界と同じ結末を辿ることになる。


 そう考えたとき、もしもルードが味方でいてくれただ凄くありがたいなと思った。


 未来で一緒に旅をしていたルードなら、安心して背中も任せられるような気がした。


 信じてもらえなかったときに、少し嫌な展開になる気もしたけど、ルードの藍色の瞳に見つめられて、そんな気持ちが少しだけ払拭された気がした。


「信じてもらえないだろうから、誰にも言わないで欲しいんだけどーー」


 そんな前置きをしてから、私は自分の境遇を少しだけ話すことにしたのだった。


 多分だけど、この瞬間が私のいた未来とこの世界の大きな分岐点になったような気がした。




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