お散歩雨日和
興味を持って下さったありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。
大昔に忘れた、学生の頃の甘酸っぱさを表現したつもりです。
買い物に出た帰り道、突然の雨に出くわしたコウタと夏美は、最寄りの煙草屋の軒下で憂鬱そうに空を見上げていた。
「最近雨多いな、気分が滅入るっつーの。何とかならねーのかよ」
「まぁまぁ、良いじゃない。梅雨らしくて」
両手に買い物袋をぶら下げたまま、一人愚痴るコウタに笑顔を向けると、夏美は照れた様に空を見上げた。
(私には幸運だったな、一緒に買い物に出掛けるだけでも嬉しいのに、雨のおかげで長く一緒にいられる)
今回の買い出しは、コウタに想いを寄せる夏美に気付いた友人が気を利かせてくれたものだった。
安い店があるのだと理由を付けて、わざわざ遠くの店まで買い物に行かせてくれた友人に感謝しながら隣のコウタに目を向ける。
不機嫌そうに空を睨むコウタとの距離は、少し動けば手が触れてしまいそうな程に近い。
ちらりと無骨な手を見下ろした夏美は、胸が跳ね上がる様な程に緊張して首を振った。
「…何だよ、さっきから挙動不審だぞ。トイレか?」
「そそ…そんな訳ないでしょ!!」
甘酸っぱい青春を思い出させるシチュエーションに胸が高鳴っていた夏美は、コウタの下品な言葉に声を荒げる。
「…ったく、普通女の子にそんな事言う?」
「女の子?何処にいんの?」
「んな…?失礼な…」
「冗談だっつの、いちいち怒んじゃねーよ」
からかう様に笑いながら頭を叩いてくるコウタに、恨めしそうな視線を向けると、コウタは小さく声を上げた。
「見ろよ夏美」
「…え?なに…」
「何軒か先に見える店、あれ何だ?」
そう言いながら、とある方向を指さすコウタにつられて視線を移動させると、こじんまりとしたカフェが見える。
カラフルな看板には、季節のフルーツ大盛りスイーツ!と書いてあり、何が言いたいのか分かった夏美は苦笑しながらコウタを振り返った。
「季節のスイーツ…食べたいの?」
「違ぇよ!こんな所で雨宿りしてて、お前が風邪ひかない様に…」
「そんな事言ってもダメだよ…、無駄遣いするお金ないもん…」
そもそも、必要最低限のお金しか預かって来ていない。
申し訳なさそうに残金を伝えると、コウタは不敵に笑って自分の財布を取り出した。
「お前はケチだからな、俺が奢ってやるって」
「…それ中身入ってるの?」
「馬鹿にすんなよ。これでもバイトしてんだ。ほら行くぞ」
そう言って差し出された手を驚いて見つめると、コウタは痺れを切らした様に夏美の手を握る。
「早くしろよ、マジで濡れるぞ」
「え…、あ…」
握られた手から早鐘の様な鼓動が伝わってしまいそうで、夏美は真っ赤になった顔を俯けた。
(ヤバいって…手なんか握られたら期待しちゃうよ)
コウタからすれば深い意味などないのかも知れないが、好意を寄せる相手に手を握られれば期待してしまうのが乙女心。
何とか平常心を保ちながらコウタの手を握り返すと、夏美は念の為にと持ってきた折り畳み傘をバックの中に隠した。
(ごめんねコウタ…)
そう心の中でコウタに詫びると、夏美はコウタに引かれるままに走り出す。
走りながら空を見上げると、曇っていたはずの空が明るくなり始めている。
雲間から見える太陽に気付いた夏美は、もう少しだけ隠れていて欲しいと心の中で祈るのだった。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
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