第99話 オーランド島沖 海賊討伐
海賊の根拠地オーランド島が見えてきた。
船首で波を見ていた船長のガウチが大声で叫んだ。
「船が出て来たぞ!」
オーランド島から船が沢山出て来たのが見えた。
ガレー船と小舟だ。
バルバルの乗組員から『ウオオ!』と声が上がる。
戦を前に高ぶっているのだ。
アルゲアス王国とノルン王国のガレー船が先行し、海賊たちとの距離を詰める。
詰める……。
詰め……る?
あれ? 何か変だぞ?
俺は違和感を覚えた。
乗組員たちもおかしいと感じているみたいで、ざわついている。
俺の横に座っていたジェシカが立ち上がり、ジッと海賊船の方を見る。
「ガイア? 海賊と離れてくよ!」
「えっ!?」
ジェシカの言葉に俺は驚く。
海賊と離れる? どういうことだろう?
俺は船首に立つ船長のガウチに呼びかけた。
「ガウチ! 海賊たちはどうだ?」
「ガイア! 海賊たちは逃げているぞ!」
「「「「「ええ!?」」」」」
ガウチの報告を聞いて、俺たちは驚き戸惑った。
戦って形勢不利と見て逃げるのならわかるが……。
戦もせずに逃げる?
考えられないことだ。
バルバルの連中も俺と同じように感じているようで、考えられない事態に驚いている。
「逃げる? どういうことだ?」
「戦わねえのか?」
「罠じゃないのか?」
罠か……。
罠の可能性もある。
(スマッホ!)
俺はスキル【スマッホ!】を起動して、画面をチェックした。
正面にオーランド島。
オーランド島の手前――南側に俺たちが布陣して進んでいる。
俺たちから見て左がノルン王国艦隊、右がアルゲアス王国艦隊だ。
バルバルは両艦隊の後方に位置している。
そして、オーランド島から出て来た船は俺たちから見て左奥方向、北西に向かって逃走している。
伏兵はいない。
本当に逃げているんだ!
西へ進むとノルン王国にぶちあたる。
ノルン王国といっても一枚岩じゃない。
おそらく逃げ込める土地があるのだろう。
「北西に逃げているな……。マジで逃げてる……」
俺のつぶやきをジェシカが拾った。
「あっさりしてるわね~。戦わないで逃げるんだ~」
「うーん、勝ち目がない戦はしないってことだろうな」
「あー、そうかもね」
俺とジェシカの会話を聞いて、バルバルたちが騒ぎ出した。
「戦わねえのかよ!」
「戦士! ぷぷぷ……」
「そう笑うなよ。なーに、賢いちゃあ賢いだろう」
「違えねえ!」
「で、ガイア? どうすんだ?」
船内の全ての視線が俺に集まった。
俺は即答する。
「もちろん追う!」
「よっしゃー!」
「そうこなくちゃ!」
「ひゃっほー!」
俺の言葉に船内が盛り上がる。
そりゃ、ここまで出張ってきたんだ。
空手で帰るつもりはないし、ここで海賊を叩き潰しておかなければ海上交易路の安全が確保出来なくなる。
「ガウチ!」
「おうさ! 横帆を開け! 海賊の頭を抑えるぞ!」
船長ガウチの指示で、バルバル船員たちがサッと動き動索を引く。
横帆が展開し、帆が海風を受ける。
バイキング船はグンと加速した。
後方の二隻のバイキング船も、きっちりついてくる。
俺たちはノルン王国の艦隊を追い越して、前へ前へと進む。
あっという間だった。
俺たちバルバルの快速バイキング船は、海賊の船団に追いついた。
俺たちは海賊船団と距離を置いて並走する。
矢が届かない距離だが、海賊たちの顔が見える。
ノルン王国の連中と同じヒゲもじゃで粗野な雰囲気の男が多い。
何やら叫んでいるが、波の音と海風にかき消されたハッキリとはわからない。
未知の船――俺たちのバイキング船を見て驚いているようだ。
船首でガウチが叫ぶ。
「捕えたぞ! 回り込んで頭を抑える! 横帆を畳む支度をしろ! 縦帆用意!」
俺はガウチの指示で、これからの操船を理解する。
俺たちは直進して海賊船団を追い越し、右に舵を切って海賊船団を通せんぼするのだ。
俺は戦闘準備を指示する。
「弓戦だ! 弓が使える者は、右舷側に寄れ! 盾も用意だ!」
船内が慌ただしくなるが、俺たちバルバルはすっかり海戦に慣れた。
迷うことなく、無駄なく動く。
海賊の船団を追い越して、右へ転舵。
すぐにガウチが指示を出し横帆が畳まれ、小ぶりな縦帆が展開される。
海賊船団の頭を抑えた!
「矢を射ろ!」
俺の命令で弓を持つ者が、海賊船団に向かって矢を射る。
矢の数は少ないが、エルフの射手を始めとする弓達者ぞろいだ。
矢は次々と的に命中する。
海賊船の上で、海賊がバタバタと倒れた。
海賊船団は通せんぼした俺たちに突っ込まずに転舵。
北西から北東に進路を取った。
ラムアタック――衝角を使った突撃攻撃があるかと警戒していたが、海賊船団は逃げを選択した。
どうやら逃げると決めたら徹底的に逃げるらしい。
風は南から北へ吹いている。
北東方向も風を受けることが出来る。
海賊のガレー船はオールを出さずに、帆に受けた風だけで進んでいる。
すぐに船長ガウチが指示を出し、俺たちのバイキング船も北東に向きを変えたが、タイミングが遅れやや距離が出来た。
「横帆展開! 縦帆を畳め! 追いつくぞ!」
ガウチの指示で横帆が開かれた。
こちらも斜め後ろから追い風を受けて増速する。
風が同じなら、ずんぐりしたガレー船よりも、流線型のバイキング船の方が早い。
あっという間に距離を詰めると、ガレー船の周りにいた小舟が急激に進路を変えた。
俺たちが乗るバイキング船の進路をふさぎ、矢を射かけてきた。
距離が近い!
「盾で防げ!」
俺の指示で一斉に盾を出して矢を防ぐ。
盾の間から前を見ると、二艘の小舟が進路をふさぎ、横から一層の小舟が寄せてきている。
俺たちのバイキング船を包囲しようとしているのだ。
ガウチが叫ぶ。
「ぶつかるぞ! つかまれ!」
すぐに船と船がぶつかる鈍い音。
ガリガリと舷側が削れる音が聞こえた。
海賊の小舟とぶつかったのだ。
俺は剣を手に腰を上げて命令を出す。
「近接戦だ! 剣を取れ! 蹴散らすぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
小舟には五人の海賊が乗っていた。
俺はバイキング船の右舷側につけてきた小舟に剣を振るいながら飛び込む。
袈裟に振り下ろした剣が、髭面男の首にめり込む。
「一つ!」
俺は剣を引く。
髭面男の首が剣で裂かれ血が吹き出る。
夏の日差しに照らされた鮮やかな赤が、青い空と美しいコントラストを描く。
戦闘中に見た色鮮やかな光景が、やたら非現実的に感じた。
引き込んだ剣を突き出し、右足を踏み出す。
手斧を持って突っ込んできた男のがら空きの喉に剣が突き立った。
「二つ!」
残りは三人。
小舟の船首側に固まっている。
俺が瞬時に二人倒したことで、三人は俺を警戒している。
「おい! 降参しろ! 投降するのが嫌なら、装備を脱いで対岸まで泳げ!」
自分でも驚くほどドスの効いた声が出た。
「なんだ!? このチビ!?」
「瞬時に二人を倒しやがった!」
「使い手だ! 油断するな!」
三人の海賊は、それぞれ得物を手にして俺を見ている。
狙い通りだ。
バイキング船から大柄なロッソが、海賊の一人を槍で突いた。
「ほれ! 三つ! 悪いな。オメエさんに恨みはねえが、俺たちゃ戦が生業なんでな。死んでくれ」
「ヒュー」
喉を切り裂かれた海賊が言葉にならない音を発して船底に倒れる。
バルバルの男たちが猿のようにバイキング船の舷側を蹴って小舟に乗り込む。
残り二人は抵抗したが、足を切られ、腕を切られ、血をまき散らしながら船底に沈んだ。
「残りの船は?」
「大丈夫だ!」
俺の問いにロッソが答えた。
バルバルの船は三隻とも小舟に寄せられて近接戦闘を強いられた。
船足が完全に止まってしまった。
戦自体は俺たちの勝ちだが、海賊のガレー船に離されてしまった。
船長のガウチが俺に叫ぶ。
「ガイア! 戻ってくれ! まだ、追える!」
「了解だ! 船に戻るぞ!」
俺の指示にバルバルの男から不満が出る。
「オイオイ! この船とこいつらの装備は!? はぎ取らねえのかよ!?」
「ノルン王国の船が来てる! 回収は連中に任せろ!」
俺たちの後方、まだ距離はあるがノルン王国の艦隊が来ている。
「ちっ! しょうがねえ!」
「まあ、後で分配だろう? 戻るべ!」
バルバルの男たちがガレー船に戻った。
「よし! 追うぞ!」
海賊の本隊であるガレー船は、まだ健在だ。
俺たちは海賊本隊を追跡した。
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夜八時頃を予定しています。
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