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第97話 真の勝者はロッソ!

 俺たちは、ノルン王国王都トロンハイムの浜辺にいる。

 浜辺でノルン王国から歓待を受けているのだ。


 浜辺では火がたかれ、ノルン王国の女衆が肉や魚を焼き、戦いに参加した男たちに振る舞っている。

 男たちは酒を飲み、勇壮な歌を歌い、ギャーギャーと騒がしい。

 歓迎の宴というよりは、キャンプファイアー兼、戦の打ち上げである。

 アルゲアス王国から来た親善使節団の面々は、ノルン王国の野趣溢れる歓迎に面食らっているが、俺は嫌いじゃない。


 最近、バルバルは豊かになり文化的になってきたが、元々は蛮族と呼ばれるようなワイルドな連中なのだ。

 このくらいで驚いたりしない。

 むしろ、肩が凝らなくて助かるくらいだ。


 俺はノルン王国国王エイリークの隣で、料理にパクつく。

 魚は塩を振っただけだが新鮮なので旨い!

 寒い地方の魚は脂がのっているので旨いと、前世日本で聞いたことがあるが、その通りだ。


 まだ夕方なので、浜辺から美しいノルン王国の景色を楽しめる。


 波打ち際では、ソフィア姫とジェシカがキャイキャイと楽しそうに遊んでいる。

 二人とも裸足になって、寄せる波から逃げ、引く波を追いかける。


 王族の行動としては相応しくないんだろう。

 侍女がオロオロしているが、俺はソフィア姫が楽しんでいるから良いじゃないかと思う。


「なあ、オマエはアルゲアス王国と仲が良いのか?」


 ノルン王国語でエイリーク王が話しかけてきた。

 既に酒が入っているので、顔が真っ赤である。


 俺はノルン王国語で返事をする。


「ああ、アレックス王太子やソフィア姫と懇意にしている」


「そうなのか? 何で一緒に来たんだ?」


「あー、それはな……」


 俺はソフィア姫が虚弱で長らく体調を崩していたこと、生活を変えて元気になったこと、俺とジェシカがソフィア姫の手助けをしたことを伝えた。


「それで、俺たちがノルン王国やリング王国へ交易の交渉をしに行くと言ったら、ソフィア姫が『自分も行きたい!』と言い出して――オイ!? どうした!?」


 俺が話している途中で、エイリーク王がボロボロと涙を流し始めた。


「うううう……。そうか~、アルゲアスのお姫様は元気になったのか~。良かったな~! 本当に良かった!」


 何だ!? 泣き上戸か!?

 大男のオッサンが泣き出しても、まったくかわいくないのだが……。

 正直、ひくなあ……。


 俺は困惑したが、エイリーク王がソフィア姫に好感を持ったなら悪いことではないと思い直した。


「あ~、そういうわけで、俺たちバルバルは、あんたたちノルン王国と交易を活発にしたい」


「おう! 良いぜ! 何でも持ってけよ!」


 いや……強奪しに来たわけじゃないんだが……。

 エイリーク王は、交易の意味をわかってるのか?


 まあ、とりあえずノルン王国国王の許可はもらった。

 ノルン王国の商人に声をかけて、バルバルの港町オーブに来てもらおう。


 エイリーク王が泣き止んだところで、俺は『今後にわだかまりを残さないように』と考え、先ほどの戦のことを口にした。


「行き違いとはいえ、死者が出た。手加減できずに悪かったな」


「気にするな! 戦で勇ましく戦って死ぬのは戦士の誉れだ!」


 当然ながら、先ほどの海戦で両軍に死傷者が出た。

 俺たちバルバルとアルゲアス王国は、あくまで自衛のための応戦……、本気で叩き潰そうとしていなかったので、大規模な海戦のわりに死傷者は少ないそうだ。


 それでもノルン王国では十数人の死者を出した。

 アルゲアス王国も一人死亡。怪我人は十人。

 バルバルは死亡者こそいないが、矢傷や刀傷を受けた者は二十人を超える。


 三者とも、タダでは済まなかった。

 無駄に消耗してしまったのだ。

 行き違いとはいえ、甚だ遺憾な事態である。


 だが、エイリーク王はアッケラカンとしている。

 アルゲアス王国から贈られたワインの入った杯をグビリとやると空を見上げた。


「今頃、バルハラで女神様とよろしくやっているさ」


「そうなのか?」


「ああ。戦で死んだ戦士は、神の住むバルハラに行く。今頃、女神様のオッパイにかぶりついてるぜ! ガハハハハ!」


 エイリーク王の下品な冗談に笑いが起こる。

 アルゲアス王国のポポン将軍も、通訳に翻訳してもらってから大笑いしていた。


「またやろうぜ!」


「いや、やらねえよ!」


 エイリーク王は、スポーツに誘うようにまた戦おうという。

 まったく文化の違いとはいえ、人が死んでるのにノリが軽いな~。

 とにかく恨みを残さなかったのでヨシとしよう。


 ポポン将軍が通訳を介して話に参加してきた。


「しかし、先触れの船は、どこへ行ったんじゃ? 沈んでしまったのじゃろうか?」


「うーん……。ここに来る途中で船の残骸は見ませんでしたね……」


 俺はポポン将軍に答える。


 ノルン王国の王都トロンハイムと交易都市リヴォニアの間は、よく使われる海路なのだ。

 季節によって風向きや潮流が変わるが、トロンハイム――リヴォニア間を何度も行き来している船乗りならば、海路のことをよく知っている。


 北の海は荒れるが、夏は比較的穏やかだ。

 嵐もなかったので、海難事故は考え辛いが……。


 俺とポポン将軍が腕を組み、『うーん……』とうなっているとエイリーク王が何かを思いついたように軽い口調で話し出した。


「あっ! そういえば! うちの連中が海賊を始めたな!」


「「えっ!?」」


 サラッととんでもないことを口にしたな。


 俺はエイリーク王に聞き返す。


「海賊? どういうことだ?」


「ん? 言葉通りだぞ? 俺の統治に不満のある連中が、出て行ったんだ。それで海賊を始めたらしいぞ」


「つまり……、ノルン王国の不満分子が海賊をして商船を襲っているのか?」


「そうだ。先触れの船も、そいつらにやられたんじゃねえかな?」


 俺とポポン将軍は顔を見合わせてうなずいた。


「「オマエかー!」」


「いや~悪い! 悪い!」


 あくまで悪びれないエイリーク王だった。


 俺、ポポン将軍、エイリーク王の三者協議で、海上交易路を荒らす海賊を退治することになった。



 *



 夜になり、俺とジェシカはトロンハイムの港に来た。

 港にバルバルの船とアルゲアス王国の船団が停泊している。


 ノルン王国の王宮は受け入れ準備が出来ていないので、今夜はとりあえず船で寝るか、港で野営することになった。


 港に到着すると、大トカゲ族のロッソが海から上がってきた。


「あれ? ロッソ! 何やってるんだ?」


「ロッソ! 風邪引くよ!」


 そういえば、ロッソは宴会にいなかった。

 海に潜って何をしていたのだろう?


 ロッソはニヤリと笑った。


「おう、ガイア! ジェシカ! これを集めてたんだ!」


 ロッソの手には、鉄剣が握られていた。


「あっ! ロッソ! オマエ……、海に潜って鉄製の装備を集めていたのか!?」


「そうさ! 大儲けだぜ!」


 先ほどの戦では、船が沈むので装備を放り出して海へ飛び込む者が続出した。

 装備品は重いので海底に沈む。


 海底といってもフィヨルドだ。

 大トカゲ族のロッソが潜れる深さなのだろう。


 俺たちが飲み食いしている間に、ロッソはせっせと海中に沈んだ装備品を引き上げていたのだ!


 ロッソのテントを見せてもらったら、鉄剣や鎖かたびら、高そうな装飾品などが山になっていた。

 俺とジェシカは、驚き目を見張る。


「今日の勝者はロッソだな!」


「へへ!」


「ロッソはバカ!」


「何でだよ!」

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― 新着の感想 ―
戦いの後の食事が旨ければヨシ!
ノルン王国から来た親善使節団の面々は、ノルン王国の野趣溢れる歓迎に面食らっているが、俺は嫌いじゃない。 たぶん誤字ですね。親善使節団はアルゲアス王国かと。
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