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第87話 空飛ぶお姫様

 商業都市リヴォニアを目指して船団は進む。


 アルゲアス王国のガレー船が先頭を切り、ソフィア姫の大型ガレー船は船団の中ほどに、俺たちバルバルは船団の最後尾に位置している。


 大河は川下、つまり商業都市リヴォニアへ向けて流れているので、オールを漕がなくて良いので楽だ。

 俺たちは、ノンビリと船に乗っている。


 船首に立つ船長のガウチが、イラッとした声を出した。


「おーい! ガイア! 前へ出て良いか?」


「うん? どうした?」


「アルゲアスの船足が遅すぎる! 合わせるのが大変なんだ!」


「そういえば、斜行を繰り返しているな……」


 アルゲアス王国の船は、船首を川下に向けて真っ直ぐ進んでいる。

 俺たちバルバルのバイキング船は、右斜めに進み、転舵して左斜めに進む。

 ジグザグの航路を取っているのだ。

 どうやらアルゲアス王国船団の船足に合わせていたらしい。


 ガウチはストレスを感じているのだろう。

 眉根を寄せて言葉を続ける。


「ガイア! もう、王都から離れた。アルゲアス王国の連中に花を持たせるのは、これくらいで良いだろう?」


 ガウチとしては、アルゲアス王国の船団を前へ出すことで、アルゲアス王国の顔を立てていたのだ。

 もしも、王都クインペーラで、俺たちバルバルの船がアルゲアス王国の船をぶち抜いたら、アルゲアス王国の面子が丸つぶれだ。


 俺はガウチの気遣いに感謝した。


「気遣いありがとう! もう、周囲に見送りの人はいないから良いだろう。好きに操船してくれ」


「了解だ!」


 ガウチが指示を出すと、俺たちの乗るバイキング船は川下に舳先を向けて真っ直ぐ進み出した。

 俺たちが乗る旗艦の後ろに二隻のバイキング船がつく。

 三隻のバイキング船が、単縦陣でスーッと加速する。


 アルゲアス王国の船は、ずんぐりしたガレー船だ。

 大型のガレー船もいるので、大河の中央を進んでいる。

 アルゲアス王国のガレー船は、川の流れに乗っているので、オールを出していない。

 大河の左右から追い抜きやすい。


 ガウチは大河の右側へ進路をとった。

 みるみるうちにアルゲアス王国の船団が近づき、俺たちは最後尾のガレー船を追い抜いた。


 隣に座るジェシカがコテンと首を傾げる。


「ガイア。抜いて良いの?」


「アルゲアス王国の船は、船足が遅いからな。どうせ今夜の寄港地は決まっているから、先に行っても良いだろ」


「なんで遅いのかな?」


「船の形かな……。特に船底」


「船底?」


「ああ。アルゲアス王国のガレー船は平底なんだよ」


 俺も船に詳しいわけではないが、スキル【スマッホ!】で得た知識があるので、俺たちバルバルの船とアルゲアス王国のガレー船の違いはわかる。


 俺たちバルバルの船は、バイキング船なので竜骨がある。

 竜骨から左右に板を組んであるので、船底がV字だ。

 V字の船底は、水の抵抗が少ないので速度が出る。


 アルゲアス王国のガレー船は平底。

 平底は水との接触面が多いので、水の抵抗が大きく速度が出にくい。


 ジェシカは、俺から船の違いを聞くと、感心した表情でうなずいた。


「なるほどね! 私たちの船の方が性能が良いんだ!」


「総合的に見ると、俺たちバルバルの船の方が優れていると思う。特に外洋に出たら、もっと速度差が出るよ」


「どうして?」


「俺たちバルバルの船は竜骨がある。竜骨が波を切るので、波が高い外洋でも船体が安定するんだ。安定すれば速度が出せるだろう」


「ガレー船は安定しないんだ……」


「平底だからね」


「前に乗った時は安定していたよ?」


 ジェシカは、ヴァッファンクロー帝国のガレー船に乗ったことを言っているのだろう。

 帝国に傭兵として雇われた時に、移動で帝国のガレー船に乗った。


「あの時の海は、穏やかな海だったからね」


 俺たちの住む北大陸の南にある海は、青の海と呼ばれている穏やかな海だ。

 船を使えば南大陸にも行ける。

 青の海は、前世の地中海に近い。


 もっとも、ヴァッファンクロー帝国の連中は、『マーレ・ノストルム』と呼んでいる。

 翻訳すると『我らの海』だ。


「ガレー船も良いところはあるよ。船体を大型化しやすいので積載量が多い。オールの漕ぎ手が多いので、戦闘の時は初速が出る」


「そっか。確かに荷物はもっと載せたいよね」


 ジェシカは、チラッと俺たちの積み荷を見た。

 俺たちのバイキング船は優れているが、積載量ではガレー船にはかなわない。


(竜骨を持った貨物船が必要だな)


 俺はジェシカと話ながら、次の船について考えた。



 さて、俺たちが乗る船は、次々とアルゲアス王国のガレー船を追い抜き、船団の中央に近づいた。

 一際大きなガレー船の甲板で誰かが手を振っている。


「ソフィアちゃんだ!」


 ジェシカが立ち上がって、ブンブンと手を振り返す。

 ソフィア姫が何か叫んでいるが、遠くて聞こえない。

 俺はガウチに指示を出した。


「ガウチ。ソフィア姫が乗る船に寄せてくれ」


「あいよ!」


 ゆっくりと俺たちの船が、ソフィア姫の乗る大型ガレー船に近づく。


 船の大きさが違うので、俺たちはソフィア姫を見上げ、ソフィア姫は舷側から身を乗り出す。

 ソフィア姫の周りにいる偉いさんや護衛の兵士たちも身を乗り出している。


 ソフィア姫が大声を出した。


「バルバルの皆さんはー、どうしたんですかー?」


 俺も大きな声で返す。


「こっちは船足が速いんだ!」


「そうなんですねー!?」


「先に行って待ってる!」


「わたくしも一緒に行きまーす!」


「「「「「えっ?」」」」」


 俺、ジェシカ、ソフィア姫のそばにいるアルゲアス王国の人々は虚を突かれた。


『一緒に行く? どういう意味だろう?』


 俺とジェシカは首を傾げた。


「それー!」


 ソフィア姫は元気な声で叫ぶと、舷側から飛び降りた!


「「「「「うお!」」」」」


 その場にいる全員が驚き声を上げた。

 ソフィア姫が乗っていたのは、大型のガレー船だ。


 それこそ二階建ての家の屋根から飛び降りるようなもので、いくら下が川といっても危険すぎる!


「ロッソ!」


「あいよ!」


 船尾で舵を取っていたロッソが、脱兎のごとく駆け出した。

 狭いバイキング船の中を走り、ソフィア姫の落下地点に入る。


「きゃー!」


「よいせ!」


 無邪気な笑顔で落下するソフィア姫を、ロッソががっちり受け止めた。

 力のある大トカゲ族のロッソじゃなきゃ出来ない芸当だ。


「ロッソありがとう!」


「まったくトンデモねえお転婆になっちまったぜ!」


 ロッソはソフィア姫を下ろすと、頭をかきながら舵に戻った。


「ソフィアちゃん! 危ないことをしてはダメよ!」


「はーい。ジェシカお姉様」


 ジェシカとソフィア姫が、ノンビリ姉妹っぽい会話を交しているが、俺はそれどころではない。


 アルゲアス王国のガレー船を見上げると、大騒ぎになっている。


「姫様! ううううん……」


「キャア! 気をシッカリ!」


「侍女が倒れたぞ!」


「姫様! お戻り下さい!」


「オマエも飛べ!」


「無理です!」


 侍女が失神し、偉いさんがソフィア姫に戻れと叫び、兵士が右往左往している。


 俺は船長のガウチに聞く。


「戻れと言っても……。ガウチ。戻せるか?」


「無理ですよ。もう、追い抜いちまう。速度差があるので並走するのも無理だ」


「並走してロープで引き上げるのも無理か……」


 俺たちバルバルの船は、アルゲアス王国のガレー船を追い抜こうとしている。

 もちろん、自動車で抜くような速度ではない。

 川なので、ゆっくりとだ。


 それでも速度差があるので、徐々に俺たちの船が前へ出ようとしている。

 もう、アルゲアス王国の船を半分以上過ぎてしまった。


「しょうがない。ソフィア姫を次の寄港地まで預かるか――」


「また飛び降りたぞ!」


 俺が船首近くでガウチと話していると、船尾の方で大声が上がった。

 振り向いてみると、追い抜こうとしたガレー船から誰かが飛び降りた。


 飛び降りた人は、腕と足を折り畳み、体を鞠のようにして放物線を描いて落下してくる。

 もう、俺たちの船は、アルゲアス王国の船を追い抜いてしまったが、ギリギリ船尾に届きそうだ。


(ユパ様かよ!)


 俺は大声を出した。


「船尾に落ちるぞ!」


「「「「うわああ!」」」」


 船尾にいるバルバルたちが、一斉にスペースを開ける。

 舵を持つロッソは、グッと腰を落して衝撃に備えて踏ん張った。


 飛び降りた人物は、猫が着地するように折りたたんでいた手脚を伸ばして、バイキング船の船尾に着地した。


「「「「「うおー!」」」」」


 着地の衝撃でバイキング船が揺れる。

 ソフィア姫の時は、上から落ちるだけだったが、今度の人は追い抜こうとするバイキング船に斜めに飛び込んできたのだ。

 距離がある分だけ衝撃が大きい。


 船尾に落ちたので、波にぶつかった時のように船首が持ち上がり、船が前後に揺れる。


「バカ野郎! 無茶するな!」


「船が壊れたどうすんだ!」


 バルバルの船員が殺気立つ。

 俺はバルバルの船員たちをかき分けて、船尾に向かう。


 そこには見慣れた顔があった。


「オマエは……カラノス!」

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