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第81話 お転婆トランスフォーム

 ――十日後。


 俺たちはアルゲアス王国の王都クインペーラに到着した。

 王宮でアレックス王太子が迎えてくれたのだが、なぜかゲッソリしている。


 俺、ジェシカ、ロッソは、王宮の中庭が見える部屋に招かれ、アレックス王太子とテーブルを囲んだ。


 ジェシカは妻として、ロッソは副将として招かれているが、ロッソは言葉が通じないのでテーブルの上のフルーツを爆食している。


「いやあ、アルゲアス王国は果物が美味しい! ごちそうさんな!」


 ロッソが大喜びしている。

 俺はアレックスにロッソの感謝を翻訳した。


「そうか……喜んでもらえて何よりだ……。お代わりを持ってこさせよう……」


 言葉にも力がない。

 あのエネルギーに溢れた男がどうしたことだろうか!


 俺はアレックスのことが心配になった。

 アレックスとは、時に戦場で干戈を交え、時に戦場で馬を並べて戦った仲である。

 俺にとってアレックスは、『戦友と書いてライバルとルビを振る』間柄だ。


 俺は眉をひそめてアレックスに問う。


「アレックス。どうした? 病気か?」


「いや、違う」


「何か悩みがあるのか?」


 俺が水を向けると、アレックスは『ふう~』と深くため息をついた。


「妹のソフィアのことだ」


 悩みの原因はソフィア姫!?

 この前の訪問でソフィア姫は部屋から出た。

 食事メニューも改善し、徐々に健康的な生活を取り戻し、血色が良くなっていた。

 何かあったのだろうか!?


 俺は緊張してアレックスに聞く。


「ソフィア姫がどうした!? まさか具合が悪いのか!? 伏せっているのか!?」


 するとアレックスは、ブンブンと思い切り首を横に振った。


「逆だ! 逆ぅ! 元気になった! 元気になったのだが――」


「おーにーいーさーまー!」


 アレックスが何か話そうとしたが、軽快な馬の足音とソフィア姫の大きな声に遮られた。


 窓の外を見ると、ソフィア姫が月毛の馬にまたがって中庭を走り抜けた。

 ソフィア姫は満面の笑顔で、右手で手綱を持ち、左手を大きくこちらに振った。

 ソフィア姫の乗る馬は、月毛――明るいクリーム色の毛並みをした馬で、日差しを浴びた金色のたてがみがキラキラと光っていた。


「「えっ!?」」


 俺とジェシカは、驚いて目をまん丸にした。

 ソフィア姫と前回会った時は虚弱で暗い部屋のベッドに横たわっていた少女だったのに、今は元気に馬を乗り回しているのだ。


 ギャップが大きすぎる。


 ソフィア姫は見事な手綱さばきで馬を御し、中庭を馬で走りまくる。

 アレックスがガタリと席から立ち上がり窓に身を乗り出す。


「ソフィア! 危ないから馬は止めなさい!」


「いーやーよー!」


 ソフィア姫の馬の後を、侍女と護衛の兵士の一団が汗をかきながら追いかける。


「姫様! お待ち下さい!」


「姫様! 危のうございます!」


「姫様!」


「姫様!」


 俺、ジェシカ、ロッソは、ソフィア姫の様子を見て大笑いした。


「アッハハッ! ソフィア姫は随分元気になったんだな!」


「凄い! ソフィアちゃん! やるじゃない!」


「こりゃたまげたぜ! とんだお転婆になったな!」


 俺たち三人が大笑いしていると、アレックスが血相を変えた。


「おい! ガイア! 笑いごとではないぞ! ソフィアは動き回って、周囲をハラハラさせるのだ! 馬に乗り! 川に飛び込み! 木に登ってオレンジをもいで食べる!」


「元気になって良かったじゃないか。おめでとう。アレックス」


「いや、あれでは嫁に行けぬ! 何とかしてくれ!」


「出来るか!」


 俺とアレックスが言い合いをしていると、ソフィア姫が俺たちに気が付き窓に馬を寄せてきた。


「あー! バルバルだ! 来たのね! ようこそアルゲアス王国へ! ジャムを持ってきてくれたかしら?」


 俺、ジェシカ、ロッソは、元気に挨拶をするソフィア姫にホッコリしてだらしのない笑顔になる。


 俺はアルゲアス王国語で、ソフィアに挨拶を返す。


「やあ! ソフィア姫! ジャムは沢山持ってきたよ。野いちごやブルーベリー、量は少ないけどリンゴジャムもある。どれも美味しいよ!」


「本当!? とても嬉しいわ! ジャムがなくなりそうって、侍女が言っていたのよ! お兄様! ジャムを一杯買って下さいな」


「う、うむ。沢山買おう!」


 アレックスがソフィアにジャムをねだられて嬉しそうである。

 真面目な顔を作ろうとしているが、目元が緩み、鼻の下が伸びているのがバレバレだ。

 妹が可愛くて仕方ないのだ。


 戦場では鬼のようなおっかない顔をしているのに、妹の前だとデレやがって!


 俺はニヤリとアレックスを横目で見る。

 俺の視線を感じて、アレックスが謹厳な顔を作った。


「だが、ソフィア。馬は止めなさい。落馬したら大怪我するぞ」


「あら! 乗馬は健康に良いのですよ! それに乗馬は王族の嗜みですわ。万一、戦場で敵に囲まれたら、わたくしは馬に乗って剣を振ります!」


「とんでもない! 戦場になど出さないぞ!」


 やれやれ、とんでもないお姫様に育ってしまったぞ。

 普通のお姫様は戦場に出ない。

 万一、敵に囲まれたら逃げるのだ。

 ところがソフィアは、剣を取って戦うと言う。

 勇まし過ぎる。


 俺はアレックスの肩に手を置いた。


「アレックス。あきらめろ」


「ガイア! 勝手なことを言うな!」


「オマエの妹だぞ? 大人しい深窓のお姫様になれるわけがない」


「そうよ! そうよ! わたくしは馬に乗って千里を駆けるのよ! 大陸の端から端まで駆け抜けるの! 素敵でしょう?」


「おお! ソフィア姫! それは素敵な夢だね!」


「ダメだ! ダメだ!」


「アレックス! 硬いことを言うな! 馬に乗るのは、元気な証拠だ!」


「ガイア! 勝手なことを言うな!」


「アハハハハ!」


 俺はソフィア姫の気宇壮大さに手を叩き、アレックスは頭を抱えた。

 俺とアレックスがやいのやいのとやり合い、俺たちの様子を見てソフィア姫が大きな口を開けて笑った。


 ジェシカが窓から身を乗り出し、アルゲアス王国語でソフィア姫に話しかける。


「ソフィアちゃん。馬、上手だね!」


「まあ、ジェシカお姉様! アルゲアスの言葉を覚えたのですね!」


「うん。ゆっくりなら、大丈夫よ」


「とてもお上手ですわ!」


「ジャムと、メープルシロップを、持ってきたわ。ソフィアちゃん、沢山、食べてね」


「まあ、ありがとうございます! メープルシロップというのは? 初めてうかがいますわ」


 アルゲアス王国語で長い説明をするのは、ジェシカには難しい。

 ジェシカが俺に話すように促した。


「メープルシロップというのは、甘いソースだよ。ジャムよりもアッサリした甘さで、パンにつけて食べると美味しい。肉料理にもあうんだ」


「まあ、お肉にも!? わたくしお肉は今ひとつ苦手なのですわ。でも、メープルシロップなら美味しく食べられるかもしれません」


「ああ、脂っこい肉料理は、食べててシンドイことがあるよね。メープルシロップを使うと、甘塩っぱい味になるんだ」


「それは美味しそうですわ!」


「俺たちバルバルはテリヤキと呼んでいる」


「テリヤキ……食べてみたいです!」


「ならお昼ごはんに用意するよ」


「楽しみですわ!」


 ソフィア姫は、ニパッと笑った。


「ねえ! ジェシカお姉様! お昼ごはんまで、馬で川に行きましょうよ!」


「いいよ! 行こう!」


 ソフィア姫は、ジェシカに声を掛け馬上から手を伸ばした。

 ジェシカは窓から身を乗り出すと、ソフィア姫の手を取りヒラリと馬に乗った。

 ソフィア姫が手綱を持ち、ジェシカが後ろに乗る。


 さすがのお行儀の悪さに俺もギョッとする。


「あっ! こら! ジェシカ!」


「ごめんねー! ソフィアちゃんと遊びに行ってくる!」


「ジェシカお姉様! 行きますわ!」


「待て! ソフィア!」


「おいおい! ジェシカ!」


 ソフィア姫が手綱をさばくと、月毛の馬はソフィア姫とジェシカを乗せて風のように走り出した。

 ソフィア姫の黒髪が風になびき、笑い声を残して中庭から走り去った。

 侍女と兵士が、必死に追いかけていった。


 静かになった部屋で、アレックスがジトッと俺を見る。


「ガイア……」


「知らんぞ! 俺のせいではない! それに寝込んでいるより余程良いだろう?」


「それは、まあ、そうだな!」


 アレックスはやけっぱちといった体で椅子にドカリと座った。


 一連のドタバタ騒ぎを見ていたロッソが、腕を頭の後ろに組んでバルバルの言葉でアレックスに話しかけた。


「お姫様が元気になって良かったじゃねえか。子供はニコニコ笑って元気に走り回ってるのが一番だ。良かったな! これで兄貴のオマエも安心だな!」


 アレックスに、ロッソの話す言葉はわからなくても、何となく意味は通じたらしい。

 アレックスは苦笑いだ。


「ふう……。昼食はテリヤキという料理を用意してくれ。ソフィアが楽しみにしているからな」


「ああ、任せとけ!」


 俺はロッソの言う通りだと思った。

 ソフィア姫がお転婆と呼ばれても、あんなに楽しそうに馬に乗って走り回っているのだ。


 ソフィア姫とジェシカが走り去って行った方から声が聞こえた。


「お姉様! 飛ばしますわよ!」


「ソフィアちゃん! 行け~!」


 遠くの声だが、はっきりと聞こえた。

 楽しそうな、幸せな声だった。

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