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【コミック発売中】蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服  作者: 武蔵野純平
第五章 七つの海

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第80話 船旅へ出発~メープルシロップ

 ――一ヶ月後。


 俺たちは三隻のバイキング船で海に乗り出した。

 港町オーブを出て、アルゲアス王国の王都クインペーラを目指す。


 バイキング船は、俺の乗る旗艦を先頭に縦一列の隊列を組んで進む。

 俺の乗る旗艦の舳先にはガウチが立ち、波と風を見て指示を送る。


「ちょい取り舵! 帆はそのまま!」


「あいよ!」


 ガウチの指示を聞いて、船尾のロッソが舵を操作する。


 バイキング船は風を捕え帆を一杯に膨らまし、東へ向かう波に乗る。

 バイキング船の速度がグンと上がった。


 俺は船の中央で、妻のジェシカとノンビリと話をしている。


「ガイア! 今回は長旅だね!」


「そうだな。三ヶ月か四ヶ月かかるだろう」


 今回は長い旅程になる。

 アルゲアス王国、交易都市リヴォニア、海を挟んで北にあるノルン王国、西にあるリング王国。

 四つの国を訪問する予定だ。


 季節は夏だ。

 俺たちが進む北の海は、それほど暑くはない。

 過ごしやすい暑さだ。


 だが、冬になれば、海は大荒れで水温も低くなる。

 もしも、落水したら、すぐに救助しないと低体温で助からなくなる危険な海に姿を変えるのだ。

 冬になる前に帰ってきたい。


「さあ、ガイア! アルゲアス王国語の練習よ!」


「はい、はい」


 ジェシカはアルゲアス王国語の勉強をがんばっている。

 アルゲアス王国のお姫様――ソフィア姫と直接話がしたいのだ。

 ジェシカは叔父のエラニエフしか親族がいない。

 ソフィア姫のことを妹のように感じているようだ。


 ジェシカがアルゲアス王国語を話す。


「ソフィアちゃん。元気? 美味しい物を沢山持ってきたわい」


「『わい』じゃなくて『わ』。『持ってきたわ』だよ。もう一度」


「ソフィアちゃん。元気? 美味しい物を沢山持ってきたわ」


「はい! 正解! よく出来ました!」


 俺はジェシカの頭を優しくなでる。

 俺とジェシカがアルゲアス王国語の練習をしていると、若い連中が集まってきた。


 今回の船旅には、通訳候補者を乗せている。


『戦の腕っ節はイマイチでも、外国の言葉が話せれば商売や交渉で成功できるぞ!』


 ――と、アトス叔父上が各部族を説いて回った。


 おかげでアルゲアス王国語習得を希望する若者が五人集まった。

 たった、五人と思うかもしれないが、傭兵が稼業のバルバルで頭を使う通訳希望者は珍しいのだ。


 俺は手を上げてくれた五人を大切に育てるつもりだ。

 彼らが活躍すれば、後に続く者が必ず出てくる。


 帝国語を話せるバルバルは、それなりにいるが、アルゲアス王国語を話せるバルバルは俺しかいない。

 アルゲアス王国語話者の養成は喫緊の課題なのだ。


 ワイワイと若い連中を交えてアルゲアス王国語で会話を続ける。


「みなさん。お返事ですか?」


「お元気ですか」


「私は東から来たバルバルです」


「東と西を間違えているぞ」


「お腹がずりまた」


「……『お腹が空きました』と言いたいのかな?」


 俺は間違いを何度も直す。

 五人は、俺たちと同世代の十代だから吸収が早い。


「これはバルバルで作った野イチゴのジャムです。甘くておしいっでスヨ」


「語尾がちょっと変だね。『甘くて美味しいですよ』だ」


 今回の積み荷で、売れ筋商品は手作りジャムだ。

 アルゲアス王国のソフィア姫が欲しがっているし、以前ノルン王国の商人たちが大絶賛していた。


 俺はバルバルの各部族にジャム作りを奨励した。


 バルバルの支配領域は森が多く、森の恵が豊富なのだ。

 野いちご、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリーなどのベリー類は、春から夏が旬なので沢山獲れた。


 野生のリンゴ、プラム、ローズヒップは、夏から秋が旬。

 少量だが収穫できた。


 子供たちが森で収穫し、女衆がジャムに加工する。


『現金収入!』


 女衆は旦那そっちのけで、目を金貨のように光らせて毎日ジャムを作った。

 旦那たちは、夜の手仕事でジャムを入れる木の器を作らされた。


『かーちゃんと夜の生活がままならない! ガイア! どうしてくれる!』


『知らんがな!』


 わけのわからない苦情が俺に殺到した。


 バルバルお手製のジャムは、果物の味わいと香りが素晴らしく、帝国製の砂糖を使っているので甘味もバッチリだ。

 砂糖が手に入りづらいアルゲアス王国や北のノルン王国の連中は、ヨダレを垂らすだろう。


『ガイア! 銅貨一枚でも高く売ってくるんだよ!』


 女衆からの圧が凄かった……。

 そんなわけで、大量のジャムが三隻のバイキング船に積まれている。


 アルゲアス王国語講座は続く。


「これはメープルシロップです。甘いです。焼いたパンにつけるとおししですよ」


「『おしし』ではなく、『美味しい』だな」


「メープルシロップは、肉料理にちょっと入れると美味しくなります」


「バッチリだ!」


 そして新商品も積んである。

 メープルシロップ――砂糖楓の樹液を煮詰めた甘味料だ。


 ブルムント族の支配領域の横に、何か液体のアイコンが出ているなと思って、兵士を連れて魔物を制圧してみると……。

 何と砂糖楓が群生していたのだ!


 さっそく樹液を採取して煮詰めると……黄金色のメープルシロップが誕生した。

 サラッとしたナチュラルな甘味は、女性陣を中心に好評だった。

 俺が肉料理に使って、テリヤキもどきの焼き肉を作ると男性陣からも大好評。


 メープルシロップは、あっという間にバルバル全域に広まった。


 バルバルはとにかく忙しい。


 男衆は領域拡張で魔物と戦い。

 女衆はジャム作り。

 子供たちは、ジャムの材料である森の恵の収集や薪になる木の枝を集める。


 この辺りの細かい仕事の調整はアトス叔父上の仕事だ。


『人を遊ばせておく余裕などないのだ。孫のためにも、もう一働きがんばってくれ!』


 ついには、年寄りも動員して、器作りなど細かな手仕事をやらせている。


 バルバルの中でも最大勢力の我がブルムント族だが、一番忙しい。


 男衆は領域の拡張とともに、ヴァッファンクロー帝国へ赴いて硝石の原料になる床下の土を集めている。


 女衆はもっと大変だ。


 ジャム作り。

 メープルシロップ作り。

 古土法で硝石の生成。

 加えて子供の面倒を見ながら、家事をこなす。


 現在、ブルムント族で一番発言力があるのは女性である。

 一番働いて、一番稼ぐのだから当然だ。



 今回の旅に、アトス叔父上、エラニエフ、キリタイ族のバルタは同行していない。


 アトス叔父上はバルバル全体の仕事を回し、エラニエフは火薬の製造。

 キリタイ族のバルタは、草原の支配のためにマーダーバッファローと戦っている。


 俺はバルバルの仕事を彼らに任せることで、自由に動く時間を得た。


「これはパンです」


「惜しい! ペンだ!」


 船旅の合間に通訳を育成しつつ、俺たちはアルゲアス王国の王都クインペーラへ向かった。

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― 新着の感想 ―
甘味を制したら勝ちや! 依存性があるからね(笑) もうジャムやメープルシロップを食べる前には戻れませんぞ
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