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【コミック発売中】蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服  作者: 武蔵野純平
第五章 七つの海

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第75話 逃げろや逃げろ!

「ブモー!」

「ブモー!」

「ブモー!」

「ブモー!」


 マーダーバッファローが怒り声を上げ、後方から迫ってくる。

 俺たちは必死で馬を走らせた。


 ジェシカが馬にしがみつきながら悲鳴を上げる。


「うわあああ! ガイア! ガイア! 何あれ!?」


「マーダーバッファローだよ! 舌を噛むなよ!」


 近くで見るとマーダーバッファローは巨大だ。

 地球のバッファローの倍はあるんじゃなかろうか。


 マーダーバッファローの集団に追いかけられるのは、トラックの集団に追いかけられるようなものだ。

 後ろからの圧が凄い!


 さすがのロッソも『食べたい』とか、『旨そう』とか、減らず口を叩く余裕はない。

 目を三角にして、馬にしがみつく。


 馬術に優れたキリタイ族の一団が先行し、続いて俺たち三人、そしてマーダーバッファローの一団約二十頭が追ってくる。


 徐々にキリタイ族との差が開く。


 キリタイ族の一団から、一頭の馬がスーッと下りてきた。

 族長のバルタだ。


「ガイア! 遅いぞ!」


「無茶言うな! これでも必死なんだ!」


「うーむ……。馬の乗り方を教える必要があるな!」


 俺たちは、顔を引きつらせて馬を走らせているのに、バルタは涼しい顔で腕を組み胸を反らしながらのたまう。


 馬は同じキリタイ馬なのに、この差は何だ!?

 やはり腕の差も大きいのだ。


「無事に帰れたら馬術を教えてくれ! 俺は言葉を教えてやる!」


「決まりだな! さあ、走れ! さあ、逃げろ! あの化け物牛に踏み潰されるぞ!」


「わかってるって!」


「俺が手を上げたら頭を下げろ。他の二人にも伝えてくれ」


「?」


 俺はバルタの言うことがわからなかったが、とりあえずジェシカとロッソに翻訳した。


「ジェシカ! ロッソ! バルタが手を上げたら頭を下げろ!」


「え? どうして?」


「何でだ?」


「知るか!」


 バルタがさっと手を上げた。

 俺たちは馬に抱きつくように体ごと頭を下げた。


 するとキリタイ族が一斉に騎乗のまま振り向き背面騎射を行った。

 前へ進む馬の上から、後ろへ向かって矢を放つ。

 地球世界ではパルティアンショットと呼ばれる高等技術だ。


 俺たちの頭の上を無数の矢が飛んでいく。


「うお!」

「キャア!」

「ヒャー!」


 風切り音が、結構ギリギリなんだが……。

 俺、ジェシカ、ロッソが声を上げる。


 矢はマーダーバッファローの集団に着弾したが一頭も倒れない。

 マーダーバッファローの防御力の高さとタフさを再認識させられた。


 だが、多少はダメージが通ったようで、マーダーバッファローの速度が落ちた。


 バルタが両手を大きく動かす。


「ほれ! 足が緩んだ! 今のうちだ! 逃げろ! 逃げろ!」


「「「うおおおおおお!」」」


 俺たちは必死で逃げた。

 尻の皮がめくれるくらいの勢いで逃げた。


 草原を抜け、丘を登ると、マーダーバッファローの一団は追ってこなくなった。

 この丘から向こうは、マーダーバッファローのテリトリー外なのだろう。


「「「ふー、ふー、ふー」」」


 俺たち三人は息も絶え絶え、馬の上に突っ伏した。

 バルタの晴れやかな声が聞こえてきた。


「うむ! 逃げ切ったな!」


「何の……問題解決にも……なってない……けどな……」


 俺はゼーハー言いながら体を起こしてバルタに答える。


「それよ! あの化け物牛を倒さねば、草原は手に入らない。馬を育てられない。これはバルバル全体にとって大きな損失であろう?」


「そう……だな……。つまり……、俺に……何とか……しろと……?」


「うむ! 頼りにしているぞ!」


 バルタはニカッと笑った。

 まったく厚かましい野郎だ。


 俺は息が整ってきたので、バルタに苦情を伝える。


「オマエが勝手に動くから、俺たち三人がこんな目にあったんだぞ!」


「おお! ガイア! なんということだ! 人を率いる者が細かいことを気にしてはいけない。今は、あの化け物牛をどうにかするのが先決だ」


「オマエ……本当にイイ性格してるな……」


 別に細かくはないが。

 確かにマーダーバッファローをどうにかするのが先だ。

 俺は大トカゲ族のロッソに、バルバルの言葉で聞く。


「ロッソ。マーダーバッファローをどう思う?」


「ありゃあ、ちと厄介だぞ。あんだけ体がデカいと、大盾でも突進を防げねえ。かといって罠を仕掛けるにもなぁ……。草原だからロープを引っかける木がない」


「そうだな」


 ロッソは打つ手なしとばかりに肩をすくめた。

 ロッソの言う通りで、これが森の中だったら戦いようがある。


 木にロープを引っかけて罠にする。

 木を楯にして戦う。

 木に登って高所から攻撃する。

 色々考えられる。


 だが、草原となると身を隠す場所はないし、落とし穴を仕掛けるにもあの巨体がはまる穴など簡単に掘れない。


 俺は続いてジェシカに意見を聞いた。


「キリタイ族の矢は通らなかったが、エルフならどうだ?」


「そうねえ……。エルフの矢でも同じじゃないかな?」


「魔法なら?」


「そうだね。爆裂魔法なら攻撃が通ると思う。けど、数が多いから仕留めきれるかどうか……。生き残りに間合いを詰められたら怖いな……」


「なるほど。確かに」


 ジェシカの心配はわかる。

 初撃全滅出来れば良いが、生き残りがスピードを緩めず突進して来たら退避が間に合わないかもしれない。


 となると――。


「火薬を使うか……」


 俺のつぶやきにジェシカが反応した。


「使うの?」


「ああ。実戦で使ってみないと、兵器として使えるかわからないからな。いざとなったらキリタイ族と一緒にこの丘まで逃げれば良い」


「実地試験にうってつけってわけね」


「そういうこと!」


 俺とジェシカはニッと笑い。

 ロッソは首を傾げた。


「何だ? 食いもんの話か?」


「ロッソはバカ!」


「ジェシカ! 何でだよ! しかし、あのマーダーバッファローは食いでがありそうだったなぁ~」


「ロッソ。オマエ懲りてないだろう?」


「腹が減ったんだよ!」


 俺たち三人がワチャワチャしだすと、キリタイ族のバルタが俺を肘で小突いた。


「おい! ガイア! 何か手を思いついたのか?」


「ああ。火薬を使う」


「カヤク……? カヤクとは何だ?」


「新兵器だ」


「ほう! そんな物があるのか!」


 バルタが感心した声を出した。

 強敵に出会ったと思ったら、俺が新兵器を投入すると言うのだ。

 バルタとしては嬉しいだろう。


 俺はバルタに釘を刺す。


「だか、火薬の存在は秘密だぞ! キリタイ族全員に口止めしてくれ!」


「無論だ。新兵器は秘すからこそ、戦場で猛威を振るうのだ。本当は魔物ではなく、人に対して使う兵器なのだろう?」


 バルタが片頬だけ持ち上げて不敵に笑う。

 俺はフンと息をつく。


「まあな。俺たちは火薬を取りにブルムント族の本村落に戻る。バルタたちは待機してくれ」


「承知した!」


 さて、急いで火薬を調合してまとまった量を作らないと。


 俺、ジェシカ、ロッソは、港町オーブで一泊すると、トンボ返りした。

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バルタ「なぜキリタイの男がヴァッファロー相手に逃げねばならぬ 解せぬ」
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