第73話 消えたキリタイ族
――翌日。
俺は妻のジェシカを連れて、バルバルの本村落から出掛けた。
キリタイ族のバルタに会って、硝石の生成を依頼するのだ。
留守居はアトス叔父上だ。
「アトス叔父上。お願いします」
「うむ! 土はたっぷり用意しておく。あと硫黄も帝国の商人から買っておこう」
頼もしい叔父である。
持つべきは優秀な親族だ。
俺とジェシカは、馬に乗って北へ進んだ。
途中で大トカゲ族のロッソを誘って、バルバルの港町オーブを目指す。
「ガイア~! 馬! 楽しい~!」
ジェシカは馬に乗ってご機嫌である。
俺、ジェシカ、ロッソの馬は、戦利品だ。
戦死したキリタイ族の遺品である。
いや、キリタイ族は馬を家族同様に扱うと聞く。遺族と言うべきか。
とにかく良い馬なのだ。
足が速く、持久力がある。
馬体が大きいので、大柄なロッソが乗っても大丈夫。
よくしつけられているので、乗馬が上手くない俺が乗っても大丈夫。
さすがはキリタイの馬。
普通に買ったら高いだろうな~。
アルゲアス王国の商人に売ってくれと頼まれたが、あのアトス叔父上が断っていた。
『キリタイの馬だぞ! 二度と手に入るかわからない! それに繁殖に成功すれば……ムフフ……』
持つべきは、銭勘定逞しい親族である。
繁殖に成功するかどうかは、数年経たないとわからないが、俺たちバルバルはキリタイ族を取り込んだ。
キリタイ族に任せておけば、馬は増えるだろう。
さて、道中にあるバルバルの村々で二泊して、俺たちは先を急いだ。
無事にバルバルの港町オーブに到着した。
まだ、掘っ立て小屋が建ち並び、港の桟橋を工事している最中だが、独特の活気がある。
しかし、キリタイ族の姿が見えない。
俺はキリタイ族の族長バルタに、『しばらくオーブを拠点にしてくれ』と言っておいたのだが……はて?
俺は現場監督のディアスに、キリタイ族がどこにいるのか聞いた。
「キリタイの連中なら出掛けてるぞ」
「出掛けた? どこへ?」
「さあ? 言葉がわからないから……。ただ、馬に乗って狩りに行くような身振り手振りをしていたぞ」
「わかった。ありがとう」
心当たりがある。
キリタイ族のバルタから、バルバルの領域に草原はないかと相談されていたのだ。
キリタイ族としては、草原で生活をしたい。
可能であれば、遊牧が出来る広大な草原が良い。
俺はバルタに、『港町オーブの西に草原が広がっている。ただし、草原には魔物が生息しているので、魔物を退治しながら領域を広げる』と話したのだ。
恐らくバルタはキリタイ族を引き連れて西の草原へ向かったのだろう。
自分たちの手で領地を広げようと考えたのか……、それとも俺の帰りが待てなかったのか……。
キリタイ族は女子供も戦となれば武器を取る習俗がある。
魔物相手に大丈夫だろうか?
俺は心配になってきた。
「キリタイ族を追うぞ!」
俺は港町オーブで食料と水を補給して、ジェシカ、ロッソと共に西へ馬を走らせた。





