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第70話 火薬のヒント

 新たに名付けたバルバルの港町オーブで一泊し、翌朝、俺は交易都市リヴォニアへ向かうことにした。

 キリタイ族を迎えに行くのだ。


「アトス叔父上。頼みます」


「うむ! 任せておけ! ガイアよ。リヴォニアの商人どもにカモられないように気をつけろよ」


「承知しました。気をつけます」


 留守居をアトス叔父上に任せ、俺は妻でエルフ族のジェシカと大トカゲ族のロッソを連れて、交易都市リヴォニアへ向かった。


 率いるヴァイキング船は三隻。

 それぞれに木材が載せてある。


 大トカゲ族のロッソが不思議そうに木材を眺めた。


「なあ、ガイア。なんで木材を積んでるんだ?」


「これは見本だよ」


「見本?」


「ああ。リヴォニアの商人に見せるんだ」


 俺たちは交易都市リヴォニアへ向かっているが、キリタイ族を迎えに行くため港町オーブからトンボ返りしている。

 あまり待たせてはキリタイ族が不安になるだろうし、現地住民とトラブルになっては困る。


 本当はバルバル内で交易品を集めてから交易都市リヴォニアへ向かいたかったが時間がなかったのだ。


 そこで俺は、港町オーブにある物ですぐにヴァイキング船に載せられる物――港町オーブ近くで切り出した木材をヴァイキング船に載せたのだ。


 ヴァイキング船に巨木を載せることは出来ないので、板材や木を輪切りにした物を載せている。

 これらを見てもらえば、木の種類や品質、木の太さがわかるだろう。


 バルバルの領域には様々な資源がある。

 木材も豊富だ。

 売れる物は何でも売りたいから、木材も……という俺の気持ちだ。


 俺が説明するとロッソが首をひねった。


「うーん……。木なんて売れるかぁ? 木はどこにでも生えてるぞ?」


「そうだな……。それはそうだと俺も思うんだが……。まあ、ダメ元だ。空荷よりマシだろう」


 船を運行するには船員が必要だ。

 船員に給金を払わなきゃならないし、船だって徐々に痛む。

 修繕費が必要になるのだ。


 経費――何かすれば金がかかる。世知辛いのは、転生前の現代日本でも、この世界でも同じだ。


 だから、違う町へ行くなら、出来るだけ空荷は避けたい。

 何か交易品を積んで移動したい。


 俺の考えを察して、ジェシカがフォローをする。


「ガイア。商人に見せてみないと、わからないよ。売れるかもしれないし、売れないかもしれないけど、最悪なのは何もしないことよ」


「そうだよな!」


「ロッソはバカ」


「何でだよ!」


 俺、ジェシカ、ロッソは、賑やかにやいのやいのと話ながら航海を続けた。



 ――三日後の昼過ぎ。交易都市リヴォニアが見えた。


「おっ! 船が多いな!」


 交易都市リヴォニアの桟橋に沢山の船が停泊している。

 船はどれもズングリした商船だ。


 ガウチが大声で指示を出しながらましらのように船上を走る。


「帆を畳め! オールを取れ!」


 俺たちは帆を畳み船足を落とし、オールを漕いで慎重に港に近づく。

 これだけ船が多いと死角も多い。

 艀と接触など、事故が起りかねない。


 ガウチが船首に立ち大声で指示を出し、俺たちはゆっくりと桟橋に船を着けた。


 桟橋に立つとすぐに交易都市リヴォニアの役人がやって来た。


「ああ! バルバルの皆さん! 待ってましたよ!」


 役人はホッとした顔をしている。

 俺は何かあったのかと心配になった。


「バルバルの族長のガイアだ。何かあったか? キリタイ族が迷惑をかけてないか?」


「キリタイの皆さんは、お行儀良くしてますよ。問題は船の方です。頼まれていた船の手配は出来たのですが、港が混雑しています。このままでは、停泊する場所がなくなってしまいます」


 役人は港の混雑を気にしていたのか。

 だが、不思議だ。交易都市リヴォニアは、交易都市の名にふさわしく広い港を有している。

 バルバルに臣従したキリタイ族は百十人だ。


 バルタが先行したから、船で移動するのは百九人のはず。

 確かに多いが、港を圧迫するほどの旅客だろうか?


 俺は役人に疑問をぶつけた。


「ガイアさん。馬をお忘れですよ。馬が百頭以上。馬の餌と水も積むのです」


「ああ~! それは――!」


 そうだ! 馬だ!

 キリタイ族は遊牧民で馬は家族であり重要な財産だ。

 捕虜にしたキリタイ族に、それぞれ持ち馬を返した。

 馬が百頭近くいるのだから、運ぶのは大変だ。


 俺は役人に銀貨を握らせながら答える。


「明日の朝、バルバルの港町オーブへ出発する。大変だと思うが、段取りを頼む」


 役人は素早く銀貨を懐にしまい、愛想笑いを浮かべた。


「お任せください!」


 現金なヤツだ。


「ガイアさん。商業長が会いたがっていましたよ」


「商業長? 誰だ?」


「商人の取りまとめをしている者です。会っておいた方が良いですよ」


 これだよ。

 ちょっと前まで、この町の商人たちは俺たちバルバルに冷たい態度だった。

 だが、アルゲアス王国のお墨付きとわかった途端に手のひらを返した。


 本当に功利的というか、何というか……。


(釈然としないが、手のひらを返さないよりはマシか。協力的な態度になってありがたいと思っておこう)


 俺は割り切ることにした。


「商業長のところへ案内してくれ」


 俺は商業長と会うことにした。



 港の近くにある商館で商業長と面会をした。

 商業長は痩せた年輩の人物で、引退した大店の商人だった。

 きれいな部屋に通され椅子を勧められた。


「ふむ……、商業長殿はリヴォニアのことはリヴォニア人に任せろと?」


「左様です。ガイア様」


 商業長は愛想良く微笑む。

 さらに俺に対して『様』付けだ。

 油断ならないぞと俺は気を引き締めた。


「ガイア様は武人。バルバルの皆様は、傭兵を生業なりわいとされているとうかがいました。商いのことは商人にお任せになった方がよろしいでしょう」


「うーむ……」


 商業長は、『交易都市リヴォニアにバルバルが店を出すのは構わないが、店の運営は地元のリヴォニア人に任せろ』と言うのだ。


 俺は悩んだ。

 正直、商業を独占したいが、交易都市リヴォニアは一見さんお断りの閉鎖的慣習がある。

 リヴォニア人の手を借りて、円滑に取り引きを行えるようにした方が良いかもしれない。


 俺は護衛として同行した大トカゲ族のロッソと妻のジェシカに相談した。


「いいんじゃねえか? 俺は戦場で暴れるのは得意だが、商売では力になれねえ。慣れたヤツに任せた方が良いんじゃね?」


 ロッソはリヴォニア人に任せることに賛成だ。


「ジェシカは、どう思う?」


「私もリヴォニア人に任せて良いと思う。そもそもこの辺りの言葉がわかるのは、ガイアだけでしょう? バルバルをこの町に置いても、言葉が通じないから商売にならないよ」


「そうだな。俺がずっとリヴォニアにいるわけにもいかないしな」


 俺はアルゲアス王国語に言葉を変えて商業長に答えた。


「商業長殿の提案を受け入れよう。だが、店を任せられる良い人材がいるか?」


「お任せください! 信用のおける人物をご紹介いたしましょう!」


「信用のおけるというのは、俺にとってか? それとも、商業長殿にとって都合の良い人物という意味か? 」


 俺は釘を刺すつもりで軽く言葉のジャブを放った。

 だが、商業長はまったく動揺せず笑顔で答えた。


「もちろん、双方にとってです。ガイア様に信用され、この町リヴォニアの商人たちからも信用される人物を推薦いたします」


 役者が上というヤツだな。

 俺は開き直って丸投げすることにした。


「わかった。では、人の手配と店舗の手配も頼む」


「かしこまりました。良い立地の店舗を探しましょう」


 話はまとまった。


 俺はついでに木材について、商業長に質問してみた。

 商業長はロッソが抱えてきた木材を見て首を振った。


「木材はあまり売れないでしょう。この辺りも木材が豊富ですので、こちらの木材は珍しい木ではございませんので商うのは厳しいかと」


「そうか。うーん……」


「バルバルの皆さんは、炭焼きはなさいますか? 質の良い炭ならば、そこそこ売れますよ」


「そこそこか」


「そこそこです。この近くでも炭焼きはやっておりますので


「あまり儲からなそうだな」


「まあ、空荷で船を動かすよりはマシという程度ですな」


 どうやら木材を売るのはダメで、炭に加工してもあまり儲からないらしい。

 商業長と話をしていて、何かが引っかかった。


(炭……? 炭焼き……? 木炭……あっ!)


 引っかかっていたのは、前世の記憶だ。

 俺は額に手をあて、うつむき考える。


(確か……火薬を作るのに木炭を使ったよな? 火薬に必要なのは、木炭……、硫黄……、硝石……)


 火薬の製法が知りたいと思った瞬間、情報のダウンロードが始まった。

 頭の中に情報が流れ込んでくる。


 この強制ダウンロードは何度やっても慣れない。

 頭がズキズキする。


 俺が頭痛に耐えていると、商業長が心配そうな声を出した。


「ガイア様? 大丈夫ですか?」


「すまん。疲れが出たようだ。では、人と店の手配を頼む」


 俺は挨拶を済ませると、商館を後にして港に戻った。

 バルバルの連中が船を見張るため港の桟橋にテントを張っている。


 俺は心配するジェシカとロッソを遠ざけて、テントに潜り込んだ。


 ――もし、火薬を生成出来れば、バルバルは各国に対して優位に立てるのでは?


 俺はそんな風に考えて興奮していた。

 とはいえ、製鉄技術の問題があるので、銃や大砲を作るのは無理だろう。


(となると城壁や城門の破壊か? それだけでも有利になるぞ……。鉱山で使う手もあるな……)


 火薬の利用について考えをまとめ、俺は材料を探すことにした。


「スマッホ!」


 俺はスキルを発動する。


(木炭はバルバルで作れる。後は硫黄と硝石だな)


 地図モードで周囲の資源を確認するが、リヴォニア近辺に硫黄と硝石はないようだ。

 続いて、バルバルの支配領域と近辺。


(ないか!)


 俺は残念で膝を叩く。

 アルゲアス王国、ヴァッファンクロー帝国……行ったことのある場所を、スマッホの地図モードで資源を探してみる。


 アルゲアス王国とヴァッファンクロー帝国の一部で硫黄がある。

 だが、硝石は見つからなかった。


(うーん……硝石がないのか……)


 俺は腕を組んで考る。


 火薬を作るなら硝石が産出する場所を探す必要ある。

 ないし、硝石を製造するかだ。


 先ほどの情報ダウンロードで、硝石関連の情報は俺の頭の中にインプットされている。

 その中に、硝石の製造方法もあった。

 ただ、イチから硝石を作ると年単位の時間がかかる。


 となると……。


(手っ取り早く硝石を手に入れよう!)


 俺は硝石を手に入れる作戦を練った。



 翌日、俺たちはキリタイ族を乗せた商船を引き連れて、交易都市リヴォニアからバルバルの港町オーブへ向かった。


 バルバルに着いたら火薬製造に着手だ!

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― 新着の感想 ―
キリタイのみなさんまだバルバルへ到着していませんでしたか それとオーブの港にも役人を配置しないとマズいんですかね
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