第67話 ソフィア姫の食事
ソフィア姫が空腹を訴えた。
俺は内心で手を叩いて喜んだ。
(食欲が出たのか! 良い傾向だ!)
自然な食欲。体が栄養分を欲している。
外に出て太陽や緑を感じたことで、精神的にリフレッシュできて、食べる気力がわいてきたのだ。
隣のアレックス王太子も俺と同じように感じたらしく、グッと拳を握りニッと笑った。
「ソフィア! さっそく食事を用意させるぞ! 前室の食事はもう冷めてしまったからな。やはり肉は焼きたてが旨いからな!」
アレックス王太子の発言に、ソフィア姫がゲンナリした。
(そういえば……料理が置いてあったな……)
俺はソフィア姫の部屋を思い出してみた。
ドアを開いてすぐの部屋にテーブルがあり、骨付き肉の丸焼きなど、かなりコッテリした料理が並んでいた。
アレックスは、張り切って侍女に指示しようとしている。
俺は慌ててアレックスを止めた。
「アレックス! 待て!」
「ん? なんだ? ガイア?」
「あの肉が山盛りの料理を用意させるのか? 体の弱いソフィア姫にとって、コッテリした料理を食べるのは辛いと思うぞ」
「何を言う! 肉を食べると力が出る! 元気になるに決まっているではないか!」
「あー……」
俺は天を仰いだ。
なるほど。アレックス王太子は、体育会系のノリで『肉こそ至高』と考えているようだ。
それは間違いじゃないが、体が弱っている十歳の女の子には当てはまらないと思う。
俺はアレックス王太子の言葉を翻訳して、ジェシカに伝えた。
するとジェシカは、口を大きく開け呆れてしまった。
「ちょっと! お兄さんが何を言ってるの! 体の弱い妹が、肉をガンガン食べるわけないでしょう! 食べられないから体が弱っているのよ! もっと食べやすい物からよ!」
俺がジェシカの言葉を翻訳すると、アレックスは『ぐむむ……』と、うなり、うなずいた。
俺はソフィア姫にも希望を聞いてみる。
「ソフィア姫。何か食べたい物はあるかな? 肉は無理だろう?」
「そうですね……。前室にあった肉料理は、ちょっと……。何か食べたいのですが、思い浮かばなくて……」
「大丈夫! 俺たちに任せて!」
俺は胸をドンと叩いて請け負った。
早速、ジェシカとメニューを相談し、侍女たちの協力を得て食事の準備を整えた。
中庭に小さなテーブルを設え、ソフィア姫とジェシカが座る。
テーブルの上には、食べやすく切り分けたオレンジとブドウ。
さっぱりした味付けの、鶏肉と野菜のスープ。
丸いパンを食べやすくスライスして、軽くトーストしたパン。
パンに塗られているのは、ジェシカ謹製の野イチゴのジャムだ。
ソフィア姫はテーブルの上に並ぶ料理を見て、目を輝かせた。
「わあ! 美味しそう!」
「さあ、召し上がれ!」
ジェシカに促されて、ソフィア姫は食事を始めた。
最初にオレンジを手に取り口に運んだ。
柑橘系の良い匂い。
ソフィア姫が切り分けたオレンジにかぶりつくと、頬が緩んだ。
「ああ~。美味しいです! 香りも良い!」
ソフィア姫は、オレンジに続いてブドウを口に運ぶ。
フルーツの甘さ、香り、ジューシーさを楽しんでいる。
隣に座るジェシカは、ソフィア姫が食べる姿をニコニコと眺めている。
「ソフィアちゃん。フルーツが好きなら、このジャムも美味しいと思うよ」
ジェシカが野イチゴのジャムを塗ったパンを勧めた。
俺が言葉を訳し、『このジャムはジェシカが作った物だ』と伝えると、ソフィア姫は目を輝かせた。
ソフィア姫がジャムのついた薄いパンを手に取り、口へ運ぶ。
「わっ! 美味しい! とても甘いです!」
ソフィア姫は、嬉しそうだ。
まあ、肉ばかり食べさせようとする兄貴じゃ、女の子の好きな甘味には気付かないだろう。
「存分に召し上がれ。ジャムは、まだあるから遠慮はいらないよ」
「ありがとうございます!」
ソフィア姫は、ゆっくりとジャムのついた薄いパンを二枚食べ、鶏肉と野菜のスープも平らげた。
食べ終わると満腹になって眠くなったのか、うつらうつらとし始めた。
「ふふ。お腹いっぱい食べられて良かったね!」
ジェシカが眠そうなソフィア姫の頭をなでた。
俺はアレックス王太子に声を掛ける。
「さあ、お兄さん! 出番だよ! 妹姫を寝室に運ぶ大役をお願いするよ!」
アレックス王太子は、俺に指名されてちょっと驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「ふっ……そうだな……。俺がソフィアを運ぼう」
アレックスはソフィア姫をお姫様抱っこで軽く抱え上げると、ソフィア姫の部屋へ向かおうとした。
立ち止まり、俺とジェシカに告げた。
「ガイア。ジェシカ。エラニエフ殿。ありがとう!」
アレックスは、大事そうにソフィア姫を抱えていった。
後に侍女と護衛の兵士が続く。
俺たちは、ニカッと笑ってアレックスたちを見送った。
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