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第65話 閉じこもっては健康に悪い

 俺が気になったのは、ソフィア姫の生活環境だ。

 昼間から暗い部屋に閉じこもっていては、元気になるわけがない。


 俺は侍女二人に問う。


「ソフィア姫は日光が苦手なのか? 日の光を浴びると、肌がかゆくなるとか、クラクラするとか? 特殊な体質なのか?」


 侍女二人は顔を見合わせ、年上の侍女が答えた。


「いえ。そのようなことはございません」


「なぜ、窓にカーテンを?」


「姫様のお体に触ると思いまして。暗い方がよくお眠りになれるかと……」


 年上の侍女によると、ソフィア姫は生来体が弱く病気がちで、ちょくちょく熱を出したり、倒れたりするらしい。

 周りは心配して、とにかく大人しく寝ていた方が良いと考えた。

 そこで侍女たちは部屋を暗くして、ソフィア姫が熟睡出来るようにしているそうだ。


 俺は侍女の話を聞いて首をひねった。


 侍女の考えはわかった。

 ソフィア姫のことを考えた結果、部屋を暗くしているのだ。


 だが、俺の感覚――つまり現代日本で医療を経験し、健康について色々な情報を得ていた人間の感覚だと、かえって体に悪い気がする。


 日の光を浴びなければ体のリズムが整わない。体内時計が上手く機能しなくなる。

 それから、太陽光を浴びると体内でビタミンDが生成される。

 前世では『日光浴』という言葉があるくらい、日の光を浴びるのは健康にとって大切なことだ。


 だが、体内時計とかビタミンDとか、この世界の人に説明をしてもわからないだろう。

 そもそも蛮族の俺がそんなことを話したところで信じてもらえるか怪しい。


 それでも、俺はソフィア姫――まだ十歳の少女のことを思って意見した。


「侍女殿たちの気持ちと献身は理解した。だが、日の光を浴びれば気持ちがスーッと晴れやかになる。体に良いと思う。一日一回でも二回でも、外に出て日の光を浴びた方が良いのでは?」


「しかし、姫様のご体調が……」


 侍女は渋い表情だ。

 ソフィア姫を外に出して倒れられたら、責められるのは侍女たちだ。

 躊躇する気持ちはわかる。


 だが、この部屋に閉じこもるのは、絶対体に悪い。

 俺は説得を続ける。


「体調を整えるために、外へ出た方が良いですよ。それに、この部屋の空気はよどんでいます」


 この部屋に入った時に、部屋の空気が悪いと思ったのだ。

 閉めきっているので、二酸化炭素とか、一酸化炭素とか……、そういう体によくない成分の濃度が上がっているのだろう。


 フレッシュな空気が必要だ。


 だが、日々過ごしている侍女はわからないようだ。

 ソフィア姫も俺の言葉を聞いて首をひねっている。

 この環境に慣れてしまっているのだ。


「そうでしょうか?」


「窓に布を下ろして、昼から灯明をつければ、そりゃ空気が悪くなりますよ。短い時間で良いから、窓を開けて空気を入れ換えましょう。空気を入れ換える間だけでも、ソフィア姫を中庭にお連れしてみては?」


「そう、おっしゃられても……」


 侍女二人は顔を見合わせて困っている。


 アレックス王太子を見ると、首をひねって困惑顔だ。

 ソフィア姫は、どうしてよいか分からないでいる。


 俺は今までの話をエルフの言葉で、エルフ族族長のエラニエフに聞かせた。

 医術の心得があるエラニエフから話してもらえば説得力があるだろう。


 エラニエフは俺の話を聞き終わると深くうなずいた。


「ガイアの言い分に、私も賛成だ。部屋に閉じこもってばかりでは体力がつかないし、気持ちもふさぎ込んでしまう。外に出た方が良い」


 俺はエラニエフの言葉をアルゲアス王国語に翻訳して、アレックス王太子、ソフィア姫、侍女たちに聞かせる。


 アレックス王太子が、腕を組んで言葉を発した。


「うーむ。確かに、部屋にばかりいては気鬱であろうな……」


「そうだぞ。アレックス。気持ちは体調に影響を及ぼす。晴れやかな気持ちで毎日過ごすことが大事だ。ちょっとの時間で良いから妹姫を外に出せ」


「わかったが……、ソフィアがどう思うか……」


 アレックス王太子は、チラッとソフィア姫を見た。

 ソフィア姫の心情をおもんばかっている。

 妹姫に命令したり強制したりしないのだから、優しい良い兄貴だ。


 部屋の視線がソフィア姫に注がれた。


 ソフィア姫は、『えっ? わたくし?』といった表情で、自分に決定権があることに戸惑っている。


 ソフィア姫は、今まで人のいうことをキチンと聞いてきたのだろう。

 親の言うこと、兄のアレックス王太子の言うこと、医者の言うこと、侍女の言うこと。

 聞き分けよく、良い子にしていたのだと思う。

 自分で物事を決めて良いとは思いもよらなかったのだろう。

 箱入り娘、いや、箱入り姫なのだ。


 俺はジェシカにそっと耳打ちした。


「なあ、ジェシカ。ソフィア姫を誘ってくれよ。一緒に外へ行こうって。中庭で一緒に過ごそうって」


 ソフィア姫は、ジェシカのことを気に入ったようだ。

 ジェシカが誘えば、外に出る気になるのではないだろうか?


 俺の言葉に、ジェシカがうなずく。

 ジェシカは笑顔でソフィア姫に手を伸ばした。


「ねえ、ソフィアちゃん。お姉ちゃんと一緒に、外へ行こう! お外はお日様が出ていて、緑があって、風が吹いて、気持ちが良いよ!」


 俺はジェシカの言葉をニュアンスが崩れないように翻訳した。

 ジェシカは、お姫様というソフィアの立場にではなく、ソフィアという年下の女の子に話しかけたのだ。


 ジェシカの言葉に、ソフィア姫の表情がぱぁっと明るくなった。


「わたくし……外に出てみたい!」


「よし! 行こう!」


 ジェシカとソフィア姫が手をつないで歩き出した。

 仲の良い姉妹のようだ。


 二人が寝室から出ようとすると、侍女が慌てて後を追う。


 アレックス王太子も驚いてる。


「ガイア……。ソフィアは……」


「アレックス。妹さんは、外へ出たいと言っているのだ。良いじゃないか! さあ、俺たちも行こうぜ!」


「あ、ああ」


 俺、エラニエフ、アレックス王太子も、ジェシカとソフィア姫の後に続いた。

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