第58話 生け捕り作戦
俺たちは、狙いをつけたキリタイ騎兵の一団をわざと通過させてから追い込みに入った。
キリタイ騎兵の一団は五人。
俺たちが後を追い出すと、一番体の大きい騎兵が殿についた。
多分、殿についた騎兵が一番強いのだろう。
俺はエルフ族たちバルバル騎兵に指示を出す。
「距離を保て! 無理に戦う必要はない! ロッソたちが待ち伏せる地点に追い込むんだ!」
「「「「「おう!」」」」
俺たちはキリタイ騎兵の右後ろにつき、キリタイ騎兵を左前方――ロッソたちが待ち伏せる丘のふもとに追い込もうとする。
俺はエルフ語でエルフ族に指示を出す。
「弓でキリタイ騎兵の右側を狙えるか?」
弓で右側に圧力をかけて、キリタイ騎兵を左前方に進ませる狙いだ。
エルフ族族長のエラニエフが答える。
「揺れる馬上からは難しい。大きく外しても良いなら……」
エルフ族は森に住む人々。
馬に乗るようになったのは、最近のことだ。
馬上弓は、まだ発展途上。
地面に足を付けて弓を放つようにはいかない。
それでも、やらないよりは良いだろう。
俺はエラニエフに答える。
「構わない! 右側に進めないと思わせれば良い! やってくれ!」
「わかった!」
エラニエフたちエルフ族が、揺れる馬上で一斉に弓を構える。
俺はキリタイ騎兵に当たらないでくれと心の中で祈る。
ヤツらを生け捕りにする、捕虜にするのが目的なのだ。
「放て!」
エラニエフの合図で、エルフ族が一斉に矢を放った。
すると、キリタイ騎兵が矢の音に反応した!
良い耳だ!
殿のキリタイ騎兵が一瞬振り向き、キリタイ騎兵の一団の進路を左前方に変えた。
(あの一瞬で矢の方向を判断したのか!? 目も凄く良いな!)
俺の想像では――エルフ族の放った矢がキリタイ騎兵の右側に突き刺さり、突き刺さった矢を見てキリタイ騎兵が進路を左に取る――と思っていた。
だが、殿のキリタイ騎兵が号令を掛け、矢が届く前に進路を変えたのだ。
俺が驚いていると、エラニエフたちエルフ族の放った矢が、キリタイ騎兵の右側の地面に突き刺さった。
俺は殿を務めるキリタイ騎兵の能力の高さに驚く。
これは接近したら反撃をくらうかもしれない。
俺はキリタイ騎兵に対する警戒度合いを一段階上げる。
キリタイ騎兵の足は速い。
俺たちバルバル騎兵はついていくのがやっとだ。
このまま走れば、キリタイ騎兵に置いてゆかれるだろう。
だが、キリタイ騎兵が進む方向には、ロッソたちバルバル歩兵が待ち伏せている。
あのキリタイ騎兵の一団は、罠に向かって一直線だ。
「成功だ! エルフ族! 良くやった!」
俺はエラニエフたちエルフ族を褒める。
そしてバルバル騎兵を横に広げ、キリタイ騎兵を後ろから包囲するように追い立てる。
前方から雄叫び!
「「「「「うおー!」」」」」
ロッソたちバルバル歩兵だ!
大トカゲ族のロッソとドライ、そして大柄なバルバル歩兵が槍をかざして丘の陰から姿を現した。
全員猛ダッシュでキリタイ騎兵の一団に迫り、行く手を遮った。
キリタイ騎兵の一団は行き場を無くした。
しかし、馬術は上手い。
馬を停止させずにスピードを落とし、円の軌道を描くように馬を走らせる。
(上手い! 馬が竿立たない! 体を倒して馬が方向を変えやすいようにした!)
俺はキリタイ騎兵の馬術に内心舌を巻く。
俺の付け焼き刃の馬術とは大違いだ。
これでは隙を見せれば、脱出されてしまう。
俺は内心焦った。
だが、心配は無用だった。
バルバル歩兵たちは事前の打ち合わせ通りに動いてくれた。
ロッソたちに少し遅れて、網と縄ばしごを持ったバルバル歩兵が現れた。
「ソリャ!」
「これでも食らえ!」
網と縄ばしごがキリタイ騎兵に投げられた。
「うわ!?」
「何だ!? これは!?」
キリタイ騎兵は、網や縄ばしごにからまった。
網や縄ばしごから逃れようともがくが、網や縄ばしごの端をバルバル歩兵がしっかり握っている。
「引くぞ!」
「せーの! そりゃ!」
バルバル歩兵が呼吸を合わせて網と縄ばしごを引くと、キリタイ騎兵五人は馬から落ちた!
これでアレックス王太子からの依頼達成だ!
俺は手を叩いて喜ぶ。
「良くやった! ロープだ! 縛り上げろ!」
バルバル歩兵がワッとキリタイ騎兵に群がり、あっという間に五人を縛り上げてしまった。
「馬を逃すなよ! 弓と矢を集めろ!」
俺は戦利品の確保を手の空いた者に命じる。
キリタイの上質な馬は高く売れる。
キリタイが馬上で使う弓も良い物だ。
戦場で拾える物は拾うのだ。
「ちょっと! ガイア!」
妻のジェシカが驚いて声を上げた。
どうしたのだろう?
ジェシカを見ると馬から下りて、捕虜にした五人のキリタイ人を見ている。
俺は『何だろう?』と下馬してジェシカに近づく。
ロッソやドライも近づいて来た。
ロッソが大きな口を開く。
「何だ? どうした? ん……? こりゃ! 子供じゃねえか!」
他のバルバル歩兵も集まってきた。
「おい! こっちは女だぞ!」
「男はコイツだけだ!」
俺も驚きキリタイ人捕虜をマジマジと見る。
五人のキリタイ人は、若い男、若い女、子供が三人だ。
俺は事情を察した。
「そうか……家族で戦に来たのか……」
俺はため息をついた。
捕虜はとれた。
だが、よりによって家族とは……。





