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第57話 待てば海路の日和あり 陸の上よ?

 俺は馬を飛ばして、船へ引き返した。

 船で留守番していたガウチに声をかける。


 ガウチは長らくバッファンクロー帝国のガレー船に奴隷として乗り込んでいた。

 船と海について、バルバルで一番経験がある。

 さすがのガウチも船で丘を滑り下りる経験は初めてだったので、船を心配しているのだ。

 ガウチは陸戦もこなすが、船に残ってもらった。


 俺は大声でガウチに声を掛けた。


「ガウチ! ロープをくれ! それから網か縄ばしごはないか?」


 捕虜を取るには、拘束するロープが必要だ。


 ガウチは俺の指示を聞くと船からロープの束を取り出し放り投げた。

 エラニエフたちが、さっとロープを拾い上げ馬に積む。


「ガイア! 網はこれで良いか?」


 ガウチは漁で使う大きな投げ網を引っ張り出してきた。


「これこれ! これで良い! 俺の馬の背に積んでくれ!」


「わかった。しかし、網なんて何に使うんだ?」


「敵の偉いさんを捕まえるのに使おうと思ってな。縄ばしごは?」


「あるぞ! じゃあ、エルフに渡しておくぞ」


「おう!」


 網や縄ばしごは、騎馬の動きを封じて、敵将を捕まえるのに使う。

 俺の思惑通りに運ぶかはわからないが……。

 格闘戦で捕虜を捕まえるなんて労力が高すぎる。

 何もないよりはマシだろう。


 俺たちはロープ、網、縄ばしごを馬に積み、バルバル傭兵軍歩兵との合流地点へ急いだ。



「おっ! ガイア! 来たか! 遅えぞ!」


 合流地点へ着くと大トカゲ族のロッソがおかんむりだ。

 大トカゲ族のサポート役であるドライが、じろっと細い目を俺に向ける。


「ドライ。案内をありがとう」


「そりゃ良いけどよ。丘の向こうでは、もう、敵の騎兵が逃げているぜ。随分、通り過ぎたぞ」


「じゃあ、早速取りかかろう。みんな、網と縄ばしごを持ってきた。ロープもある。これを使って生け捕りにしよう」


「網? 縄ばしご?」


 ロッソもドライも首をひねっている。

 バルバル歩兵も、どう使うのかイメージがわかないようだ。


 俺は網や縄ばしごを持って、使い方を説明する。


「なーるほどな! 普通に戦うより楽そうじゃねえか!」


「ああ。敵将を生け捕れば金になる。やろうぜ」


 ロッソとドライが機嫌を直し、やる気を見せた。


 俺は配置を決めていく。


 敵将を追い立てる役は、騎馬に乗ったメンバー、俺やエルフ族たちだ。


 敵将の動きを止めるのは、ロッソたち大柄なバルバル歩兵。

 槍を持って敵の騎兵を牽制してもらう。


 そして、残りのバルバル歩兵が網を投げたり、縄ばしごをからませたりして、敵将を捕まえる算段だ。


「よし! やるぞ! 配置に付け!」


「「「「了解!」」」」


 ロッソたち歩兵は、キリタイ軍が撤退するルートの横にある丘の裏側に待機させた。


 俺たちバルバル騎兵は、キリタイ軍が撤退する姿が見えるところまで丘をグルッと回り込む。

 するとキリタイ軍が見えた。


「おお! いるいる!」


 キリタイ軍が一目散に逃げていく。

 もう、軍として統一した行動はしていない。

 キリタイ軍はてんでバラバラで、負傷した足の遅いキリタイ騎兵を無事だったキリタイ騎兵が追い越し、五人から十人程度の集団で馬を駆けさせている。


「ひどいな……。先ほどまでは、一糸乱れぬ見事な動きをしていたのに……」


 エルフ族族長のエラニエフがつぶやく。

 俺は逃げるキリタイ騎兵を見ながら、エラニエフに答える。


「負け戦になったからな。それぞれバラバラに、各個の判断で逃げているのだろう。その方が、案外生き残れるかもしれないぞ」


「うむ。キリタイの馬は足が速い。アルゲアス王国軍の騎馬では追いつけまい」


「アルゲアス王国軍の騎兵は、装備が重いからな。長時間走らせると騎馬が保たないのだろう」


「そう考えると、キリタイの逃げっぷりも理にかなっているということか……」


「そうだな」


 騎馬民族は、俺たちとはまた違う戦い方、撤退の仕方があるのだろう。

 俺とエラニエフは、勉強になるとウンウンうなずく。


 エルフ族のジェシカ――俺の妻――が、辺りを見回しながらつぶやく。


「うーん、偉そうなのは通らないね。もう、偉いのは逃げちゃったかな?」


 ジェシカは、弓の名手だけあって目が良い。


 ジェシカの言う通りで、俺たちの前を通り過ぎるのは、ごく普通のキリタイ騎兵だ。

 キリタイ族の服――前世のモンゴルっぽい感じの服の上から、革製の胸当てをしているだけで、特に金を持ってそうな雰囲気はない。


 俺たちの前を通り過ぎるキリタイ騎兵は、俺たちをチラッと見るが、馬の足を緩めず通り過ぎていく。

 清々しいほどの逃げっぷりだ。


「まあ、待ってみるさ。待てば海路の日和ありだ」


「何? その言葉? それにここは陸の上よ」


 俺は前世日本のことわざを思い出して口にしたが、妻のジェシカにバッサリと切り捨てられてしまった。


 俺たちは身なりの良いキリタイ騎兵、キリタイ軍の将官を思われる人物が通るのを待った。


「あっ! ガイア! いたよ! こっちに来る!」


「どこだ?」


 ジェシカが指をさす。

 俺たちの視線が一斉にジェシカの指さした先に注がれる。


「あの五頭!」


 ジェシカが見つけたキリタイ騎兵の一団は、なるほど身なりが良い。


 五人とも毛皮の帽子をかぶっているのだが、色が白く毛並みが良い。

 多分、珍しい毛皮を使っている帽子なのだろう。

 珍しい毛皮、つまり地位が高いか、金持ちかだ。


 服装も良い。

 形は他のキリタイ騎兵と同じ服だが、所々に金糸が使われている。

 金糸が日の光を反射してキラキラ輝いているのだ。


 この一団ならアレックス王太子が欲しがった情報を持っていそうだ。


 俺は決断を下す。


「よし! あの服装なら有力者だろう! 捕まえるぞ!」


「「「「「おう!」」」」」

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