第55話 決着! キリタイ戦!
わずか六十人のバルバル傭兵軍が放った咆哮が戦場に響く。
俺はバルバル傭兵軍の先頭に立ちキリタイ軍に切り込んだ。
キリタイ軍は動揺し浮き足立っている。
ここは力押しする!
「下りろ! コラ!」
俺は飛び上がり、左手で騎兵の腰ベルトをつかんだ。
着地すると同時に騎兵を馬から引きずり下ろす。
「グッ!」
落馬した騎兵が苦悶する。
俺は騎兵に馬乗りになり、容赦なく喉に剣を突き立てた。
俺の周りでは乱戦が始まった。
大トカゲ族のロッソとドライが槍でキリタイ騎兵を地面にたたき落とし、落馬した騎兵をバルバル歩兵が袋だたきにする。
馬上で弓を構えるキリタイ騎兵もいたが、バルバル歩兵にあっという間に間合いを詰められ馬から引きずり下ろされる。
中にはバルバルの船に突撃するキリタイ騎兵もいたが、船に残ったジェシカたちエルフ族の矢がキリタイ騎兵の接近を許さなかった。
キリタイ騎兵は船に近づく前に、矢を浴びて地面に倒れた。
混乱に乗じたワンサイドゲームになった。
とはいえ、キリタイ軍は軽騎兵五千の大軍。
俺たちバルバル傭兵軍は六十人だ。
俺たちバルバル傭兵軍が暴れ回っているのは戦場の端だ。
バルバル傭兵軍だけで、キリタイ全軍を打ち倒せるはずがない。
俺はアレックス王太子率いるアルゲアス王国軍の歩兵が動くの期待していた。
「ラララララ! ラー!」
「ウー! アッ!」
独特の掛け声とともに、アルゲアス王国軍の歩兵が前進を始めた。
まだ、キリタイ軍は混乱から立ち直っていない。
アルゲアス王国軍は、大盾を掲げ、長槍を構え、足音を響かせる。
五千の歩兵が前進する姿は圧巻だ!
馬に乗ったアレックス王太子の姿が見えた。
「突撃!」
「「「「「うおおおお!」」」」」
アルゲアス王国軍の歩兵が一斉に突撃した。
キリタイ軍の軽騎兵は、俺たちバルバルの出現に浮き足立っていた。
そこに歩兵の突撃を喰らったのだからたまらない。
足の止まった騎兵は、非常にもろい。
盾で押され、槍で叩かれ、キリタイ騎兵は、次々と地に伏せた。
騎兵と歩兵の混戦から脱出しようとするキリタイ騎兵もいたが、アルゲアス王国軍の弓兵に矢の雨を降らされ哀れハリネズミと化した。
「ガイア!」
大トカゲ族のロッソが近づいて来た。
ロッソの槍と大盾は、ぬらりと赤く光っている。
俺は剣を肩に担ぎ、戦場を見回しながらロッソに告げた。
「ロッソ。勝負あったな」
もう、戦場を離脱するキリタイ騎兵の一団が見える。
キリタイは氏族単位で活動すると、事前に聞いていた。
もう、負けだと、見切りを付けた氏族から、逃げているのだろう。
キリタイ軍は、総崩れだ。
アルゲアス王国軍に一方的に叩きのめされている。
ロッソは、大きな口を開いて笑った。
「ああ! こっからは追い首だな!」
追い首。負けて逃げる敵を追いかけて倒し、手柄を増やすことだ。
今回の戦は、アルゲアス王国軍の戦だ。
大将のアレックス王太子から、たっぷり報償をふんだくるためにも手柄は増やしておきたい。
俺はバルバル傭兵軍に命じた。
「よーし! 追撃戦に移るぞ! 稼ぎ時だ!」
「ヒャッホー!」
「うおおお! 勝ち戦はこれだからよ! 止めらんねえな!」
「金を持ってそうなヤツを狙えよ!」
倒した敵の装備や持ち物は、バルバル傭兵軍の物になる。
戦場での略奪――野蛮な行為ではあるが、俺たちバルバルは気にしない。
何せ金のために戦っているのだ。
ちょっとでも稼いで家族に旨い物を食わせる。
女房にきれいな布を買ってやる。
みんな勝ち戦で凱旋することを、家族に良い暮らしをさせることを夢見ている。
収入は銅貨一枚でも多い方が良いのだ。
「ガイア!」
俺を呼ぶ声。俺の妻、エルフ族のジェシカだ。
ジェシカは馬に乗り、もう一頭空馬を引いてきた。
ジェシカの乗る馬は、赤みの強い栗毛で利発そうな顔つきだ。
ジェシカの引く空馬は、毛並みが黒々と光り馬力のありそうな青毛だ。
「ジェシカ! 良い馬を見つけたな!」
「騎手だけ狙ったからね! さあ、乗って! 追撃しよう!」
「おう!」
俺は青毛の馬に乗り、バルバル傭兵軍に叫んだ。
「行くぞ! 追撃だ!」





