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第39話 バージョンアップ

 悪夢なんて見たことがない。

 夢は夢でしかなくて、痛みも、苦しみも、恐怖も、夢の中の出来事だ。

 そんなモノは悪夢といえない。


 ――現実の方が、遥かに悪夢だ。


 俺は異世界に転生してバルバルなんて蛮族の親玉になり、沢山の戦争を駆け抜けた。

 最前線で敵軍を蹴散らし、敵将の首を取り、時には自分の体を切り裂く痛みに耐えながら、自軍を勝利へと導いた。


 俺は、まだ、十五才のガキだ。

 日本なら中学校を卒業して、高校へ進学する年齢だろう。

 ワオワオ大騒ぎして楽しい青春時代のはずが、ワーワー叫びながら血と汗にまみれて戦っている。


 ――それも傭兵として、金のために。


 多分、日本人の価値観からすると悪夢だろう。


「今の君の人生は、そんなに悪いの? 悪夢なの?」


 誰かが俺に話しかけている。

 混濁していた意識がクリアになって、体が急速に浮上していく。


「誰だ?」


 目を開くと、一面真っ白な世界に俺は立っていた。

 フワフワして、上下の感覚がない。


 俺の目の前には、見覚えのある男が立っている。

 こいつは……。


「天使か!」


「そうだよ! 久しぶりだね! どう? 転生した二度目の人生をエンジョイしているかな?」


 目の前にいるのは、転生する時に世話になった天使だ。


「ここは、どこだ? 何しに来た?」


「君たち人間の言葉で表現するなら、ここは夢の中ですね。現実世界のあなたは眠っています。私が意識だけ呼び寄せたのです。情報のアップロードとアプリのバージョンアップをしますよ!」


「アップロード? バージョンアップ?」


 俺は天使の言うことが理解不能だった。

 詳しい説明を天使に求める。


「神様もあなたのことは気にかけているのです。我々のミスで日本の人生を終わらせてしまいましたから。ですので、転生してからの様子を知りたいのです。あなたの持っている情報、つまり記憶をアップロードしてもらいます」


「そうか……。わかった……」


 拒否する理由もないので、俺は天使の要求を承認した。

 すると頭が猛烈に痛くなった。


「イタタタ!」


「情報アップロードの間は、脳に負荷がかかるから、ちょっと痛みを感じるよ」


「先に言えよ!」


「アプリのバージョンアップもやっておくから、さらに痛いよ」


「あばばばば!」


 俺は激痛に身もだえしているが、天使は楽しそうにしている。


「へえ! 傭兵! うわ! 派手に戦ったね! こんな殺し合いが続くなら、悪夢と感じるかもね!」


 俺の記憶を見ているのだろう。

 他人事だと思って、気楽だな。

 こっちは毎回必死で戦っている。

 人の人生をエンタメ化しないで欲しい。


「わあ! 結婚したんだね! おめでとう!」


「あり……が……とう……。いつ……終わるんだ?」


「もうすぐだよ。はい、終わった!」


 ヒドイ頭痛がしていたが、ピタリと収まった。


「それでどう? 転生した二度目の人生は、ひどい悪夢なのかな?」


 天使は心配そうに聞いてくる。

 それなりに責任を感じているのがわかった。


 悪夢か……。

 そうだな、俺が日本人なら……。


「いや……、充実しているよ。ありがとう。神様にもお礼を伝えてくれ」


 俺はこの異世界で生きる場所を得た。

 この世界の家族もいるし、仲間もいるし、頼られている。


 人を殺すのにも、殺し合いにも慣れてしまった。

 家族と仲間と自分のために戦う。

 迷いはない。


「そっか! 充実した人生で何よりだ! じゃあ、そろそろ行くね! また、様子を見に来るよ! じゃあね!」


「ああ、またな!」



 *



「ガイア! ガイア! 大丈夫?」


「うおっ!」


 目が覚めると、ジェシカが心配そうに俺の顔をのぞき込んでいた。


 俺とジェシカは、十五才になった。

 結婚して一緒に住んで、子作りに励んでいる。


 月月火水木金金!

 夜夜昼夜夜朝朝!

 くらいの勢いで頑張っている。


 だが、種族が違うと子供が出来にくいらしい。

 まだ、俺とジェシカに子供はいない。


「熱が出ていたし、うなされていたのよ……。二日も!」


 俺の額には、濡れタオルがのせてあった。

 ジェシカは濡れタオルを俺の額から外すと、額と額をくっつけた。


「うん! 熱が下がった!」


 十五才になったジェシカは、出会った時より成長して色気が出てきた。

 まな板だった胸は、推測Cカップにまで育った。

 そして日々すくすくと成長は続いている。


「ガイア、どう? 動けそう?」


 俺はゆっくりと起き上がると、手を握ったり開いたりして、体の調子を確かめた。

 手に力は入るし、意識もはっきりしている。

 ダルさもない。


「ああ、大丈夫そうだ。動けるよ」


「じゃあ、ロッソを呼んでくる」


 ジェシカは、テントから出て行った。

 俺たちバルバルの攻略部隊は、海を目指してテリトリーを北へ広げている。

 ここは攻略部隊が張ったテントの中だ。


 ジェシカは熱が出たと言っていたが、天使が出てきた夢の影響だろうか?

 夢にしては、やけに現実感のある夢だった。


 天使はアプリをバージョンアップしたと言っていた。

 アプリはスキルのことだろう。

 天使の出てきた夢が現実なら、俺のスキルに変化が加えられているはずだ。


「スマッホ!」


 俺はスキル『スマッホ!』で情報画面を呼び出した。

 だが、特に変化はない。

 ボタンや表示されている情報は同じだ。


 続いて、色々な言葉で話してみる。

 バルバル語、エルフ語、ヴァッファンクロー帝国語、アルゲアス王国語、リング王国語……。

 どの言葉も問題なく話せる。


 最後に指先を鉄のナイフで、ちょっと傷つけた。

 血がジンワリにじんだ後に、シュウシュウと音を立てて傷が修復しだした。

 傷の治るスピードや治り方も同じだ。


 特に違いは感じられない。


(天使は、『バージョンアップした』と言っていたが……。本当に夢だったのか?)


 俺は、『バージョンアップ』について考えるのを止めて、テントから外に出た。

 ちょうど朝食の時間で、あちこちで鍋から湯気が立っている。


「おう! ガイア! 良くなったのか!」


 ジェシカが大トカゲ族のロッソを連れて戻ってきた。

 相変わらず声も体もデカイ。


「ああ。心配かけたな」


 俺はロッソの背中をポンと叩く。

 この世界に転生したての十三才の頃は、ロッソを見上げていたが、俺も成長して背が伸びた。俺の背丈は、約百七十cm。

 頭がロッソの胸まで届くようになった。


「じゃあ、メシ食ったらヤルか!」


「ああ、やろう!」


 海まで、あと少しだ!

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