表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/110

第38話 野望(二章最終話)

 ノルマン子爵領で傭兵料金の代わりに本を得た。

 仕事は終ったし、料金回収も済んだ。

 もう、ノルマン子爵家に用はない。

 俺たちバルバル傭兵軍は、帰途につくことにした。


 リング王国の街道を、バルバル傭兵軍の百人が列になって進む。

 左右に畑が続き、農家を見つけると農作物を買い付ける。

 バルバルの農地でも増やせそうな野菜の種も譲ってもらう。


 リング王国の農家では、冬野菜が収穫出来て、穀物の蓄えも十分にあるそうだ。

 どこの農家も快く取引に応じてくれた。


 いつかは、俺たちバルバルの住む場所も、こんな風に豊かにしたい。

 そんなことを考えながら街道を進む。


 リング王国は平地が多いので、歩くのは楽で移動速度は速い。

 ロバのドンキーたちが牽く荷車には、鹵獲した武器や防具と歩けない怪我人が乗せられた。


 怪我人は数人出たが、死亡者はゼロ。

 敵将バートレットを討ち取り、雇い主を勝利させた。

 軍事行動としては、百点満点の出来だ。


 しかし、費用回収の面では微妙な結果となった。

 現金ではなく、現物!

 それも価値が非常にわかりづらい物――本なのだ。


 出発前に、バルバルの族長たちは、不満を口にした。


「本は、売れるのか?」

「ウチはいらないな……」

「本なんて食べられないぞ!」

「ケツでもふくか? ガハハハ!」


 まあ、族長たちの言うこともわかる。

 バルバルの識字率は極めて低い。

 本に価値を感じられないのは、仕方のないことだ。


 そこで不満のある族長には、俺が金を払うことにした。

 族長たちは、ニッコニコだが……。


 俺が金を払う=ブルムント族が金を払う、ということなのだ。

 ブルムント族の金は、アトス叔父上が管理してくれている。


 俺の判断でブルムント族のお金が減る。

 俺は申し訳ない気持ちで、胸が一杯にになった。


「アトス叔父上……。出費が増えて、すいません……」


 俺が詫びるとアトス叔父上は、ニヤリと不敵に笑った。

 口ヒゲを人差し指でチョイチョイと触りながら得意げだ。


「ガイアよ。そうしょげるな。これは悪くないぞ!」


「えっ!? ブルムント族の出費が増えるのですが!?」


「うむ。だがな……」


 アトス叔父上は、声を潜める。

 さては、他の部族や族長たちに聞かせたくない話だな。


「これでガイアの発言力が上がる!」


「アトス叔父上のおっしゃりたいことが、分からないのですが?」


「今回傭兵としてバルバルを雇ったのは、ノルマン子爵家のリオン殿だが、金を出したのはガイアになるだろう?」


「あっ! そうか! 俺が金主だから、当然発言力も強い……と?」


 アトス叔父上が悪そうな顔で笑い、楽しそうに肩を組んでくる。


「そうだ! 我が甥ガイア! 我が兄の子ガイア! 我らが族長ガイアよ! これで他の族長たちは、オマエの顔色をうかがわざるを得なくなる」


「俺の影響力があがりますね……。そしてブルムント族は、バルバル諸部族の中でも支配的な立場に……」


「そうだ! オマエがバルバルの王になる日も近いぞ!」


 アトス叔父上が、周囲に聞こえないようささやく。

 だが、俺の肩に回した手には、力が入っている。


 以前からアトス叔父上は、ブルムント族族長である俺の立場を強化し、ブルムント族を優位に立たせようとしていた。


 それには……、そうか……!

 将来はブルムント族から王を出そうと!

 バルバルを統一して王国にしようと野望があったのか!


 バルバルは、ヴァッファンクロー帝国の北に住む諸部族の寄り合い所帯だ。

 だが、王が誕生すれば……。

 俺が王になれば……。


 ヴァッファンクロー帝国の打倒が、また、一歩近づいた。

 俺は決意を新たにし、グッと表情を引き締めた。


「ガイア! 話は終ったか?」


 エルフ族のジェシカが、俺に近づいてきた。

 アトス叔父上が、俺に耳打ちする。


「ガイアよ。エルフ族の手綱は、しっかり握るのだぞ!」


「アトス叔父上。承知しました」


 ジェシカと俺は恋人同士で、バルバルのテリトリーに帰れば結婚する。


 ジェシカはエルフ族族長エラニエフの姪で、俺はブルムント族の族長だ。

 エルフ族とブルムント族は、姻戚関係でガッツリ結びつく。


 俺は意識していなかったが、俺とジェシカの結婚には、バルバル内の政治的な側面があるのか……。


 アトス叔父上は、ニヤリと笑って俺から離れていった。

 入れ替わりでジェシカが俺の腕を組み甘えた声を出す。


「どうした? 何を話していたの?」


 俺は言葉をエルフ語に切り替える。

 バルバル語が上手くなったジェシカだが、やはり母語のエルフ語の方が話すのが楽らしい。


「俺たちの結婚のことさ!」


「ふふふ!」


 ジェシカは組んだ腕にグッと力を入れた。


「母が残したドレスがあるの。結婚式では、母の残したドレスを着たい」


「ああ、きっとジェシカに似合うよ」


「父さんと母さんに、花嫁姿を見せたかったな」


 ジェシカの両親は、ヴァッファンクロー帝国と戦い死んだ。

 俺の両親も同じだ。


 俺とジェシカは、似た境遇にある。

 二人とも不幸かもしれない……。

 だが、未来まで不幸とは限らない。


 俺はジェシカと幸せになろうと、賑やかで幸せな家庭を作ろうと決意した。


「ジェシカ! 沢山子供を作ろう! 家族を増やして賑やかな家にしよう!」


「いいわよ! 沢山産んであげる! 目指すは、大家族ね!」


 ジェシカと楽しく、おしゃべりをしながら、夕日が照らす街道を進んだ。


 背の高い木が街道に影を落とす。

 俺とジェシカは影を踏まないように、腕を組んだまま飛び越した。

 

 ――二人の影は一つだ。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

■お知らせ■

m3xp8tkadjxaklfuf50kcny8up9_qa2_dw_jq_94mv.jpg

【蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服】がコミカライズされました!
マンガ一巻発売開始です!
全国の書店、Amazon、電子書籍サイトにて、ぜひお買い求め下さい!

蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服1(Amazon)


■クリックで応援!■

★★★小説家になろう 勝手にランキング★★★

― 新着の感想 ―
発言力あがるか、、、?? 儲けるぞって焚きつけて戦争連れ出して、勝手に本で決着着けてきたんだから 働き分の当然の対価を払っただけだろうに、、、?? それともその辺も含めてバルバルのバカさ(単純さ)なの…
直接リング王国と移動できるといいんだけどね・・・ 森林を切り開いて道を作れると帝国と戦争するときの秘密の背後の連絡路になりそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ