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【コミック発売中】蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服  作者: 武蔵野純平
第七章 帝国再び

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115/115

第115話 戦の準備

 帝国軍が攻めてくる!


 といっても今日明日に来る訳ではない。

 ナルボの町で噂が流れているだけで、まだ帝国軍がナルボの町に入ったわけではない。

 俺たちバルバルには準備する時間があるのだ。


 俺は情報収集、補給、軍編成に分けて指示を出した。


 まず、情報収集。

 情報収集はアルゲアス王国から借りた商人カラノスがやってくれる。


「お任せください。帝国軍の全容を調べて参りましょう」


 カラノスは飄々と一人でナルボの町へ向かった。

 情報収集はカラノスに任せておけば間違いないだろう。

 何せあのアレックス王太子を支えている軍人の一人なのだ。


 次に食料・火薬・薬などの補給、いわゆるロジだ。

 輸送は騎馬民族のスキタイが買って出てくれた。

 森の中は馬車を走らせることが出来ないが、馬の背に荷物を載せて運ぶ。

 人が背負うより遥かに大量の荷物を運べる。


 バルバルの領域各地から、大量の食料がブルムント族の本村落に運ばれてくる。

 運ばれた食料は、ブルムント族の年寄り衆が中心になって管理している。


 火薬と薬はエルフ族のエラニエフだ。

 とにかく少しでも火薬と薬を増やそうと、エルフ族の薬師がフル回転で生産している。


 バルバルは兵士の数が少ない。怪我をした兵士が、薬で即回復出来るのは戦力維持の観点から大きい。

 火薬については、言わずもがな。

 隠し球であり、切り札だ。


 軍の編成は、各部族に顔が利くアトス叔父上にお願いした。


 何せバルバルは部族ごとに装備も人数もバラバラなのだ。

 おまけに仲の悪い部族や部族長同士の相性が悪いケースもある。

 その微妙な調整をするのは一苦労だ。

 俺はアトス叔父上に丸投げした。


「アトス叔父上。頼みます」


「うむ。ガイアよ。任せておけ!」


 非常に頼もしい!

 面倒な仕事だけど、アトス叔父上はこういうウエットな仕事が結構好きなのだ。


 あっちこっちに顔を出して――。


『どうした?』


『それはイカンな』


『まあ、任せろ!』


『大丈夫だ! 上手く行く!』


 ――という具合に調整していくのが楽しいらしい。


 帝国軍は装備も人数も均一化されている。

 均一化は軍として統一した行動を取るのに有効なのだ。


 アトス叔父上に任せておけば、少しでも良い軍編成をしてくれるだろう。


 そして俺は迎撃作戦を立案する。

 迎撃作戦を立てるために、ブルムント族の本村落から森の中を歩いて平原に来ている。


 妻のジェシカと大トカゲ族のロッソも一緒だ。

 つまりいつもの三人組。


「ロッソ。大トカゲ族の戦支度をほっぽり出して良いのか?」


「大丈夫だよ。ドライに任せてある」


 ドライはロッソの補佐役だ。

 大トカゲ族の中でも頭が良い。


「ドライが準備してくれるなら安心だな」


「ロッソはバカ」


「なんでだよ!」


 いつもの調子に俺は顔が緩む。

 良い意味でリラックス出来た。


 戦が起こるのは間違いなさそうだが、今から緊張していては心身がもたない。

 三人組で来て良かった。


 さて、俺たちがいるのは広い平原だ。

 ここは魔の森を南下して来たところにある平原で、平原の先はナルボの町――帝国の領土だ。


 ナルボの住人たちは、この平原には来ない。

 魔の森には魔物が出没し人を襲うからだ。


 ここは帝国とバルバルの国境になるのだ。


 帝国人に嫌われている平原だが、帝国軍が大軍を展開するならここしかない。

 この平原の先はバルバルの領域で魔の森が広がっている。

 大軍を展開出来ないのだ。


 俺は森から出たところでジックリと平原を見渡す。

 多少の起伏はあるが、身を隠す場所はない。


 平原を歩いてみる。

 平原の草は丈が低く、高さはくるぶしほどだ。

 地面はシッカリとしていて、足を取られることはない。

 騎馬兵を走らせるにもよい。


 俺がふむふむとうなずきながら平原を視察していると、ジェシカが質問してきた。


「ねえ、ガイア。どう戦う?」


 ジェシカの質問にロッソがのっかる。


「そりゃ正面からドーンだろ!」


「ロッソはバカ!」


「なんでだよ!」


「ハハハ! 作戦はいろいろ考えているよ。大きく三つだね」


 俺たちは平原の中央で足を止めた。

 俺はジェシカとロッソに頭の中にある考えを話していく。


「戦い方は、大まかに三つ考えているよ。一つ目、野戦で雌雄を決する。二つ目。森に引き込んで撃滅する。三つ目、撤退戦」


「「撤退!?」」


 ジェシカとロッソが驚いて目を大きく広げる。

 二人が騒ぎ出すと面倒なので、俺は撤退について先に説明を始めた。


「撤退戦は、帝国軍の侵攻を時間をかけて防ぐ。その間に、バルバルをアルゲアス王国へ逃がすんだ。船の数は多くないけど、港町オーブと交易都市リヴォニアの間を何度も往復すればかなりの人数を逃がせるだろう」


「それはそうだけど……」


「なんだよ! ガイアは逃げるのかよ!」


 ロッソが不満そうに口を尖らせる。

 単純で男気のあるロッソらしい。


「そうじゃないよ。最悪の場合に備えて撤退戦も考えておくってことさ。生きていればこそ復讐戦の機会はある。俺はバルバルの血を後世に残すのも族長の務めだと思っている。だから、帝国と戦って負けた場合の話さ」


「最初から逃げるわけじゃないのか?」


「ああ。もちろんだ!」


「それならイイぜ」


 ロッソが納得してうなずく。


 ジェシカが真剣な表情で平原を見渡してつぶやく。


「じゃあ、野戦か森へ引きずり込んで削るかだね」


 俺は腕を組み真面目にジェシカに答える。


「そうだな。野戦で正面から戦うと数の多い帝国軍に有利だと思う。この平原は先の戦でバルバルが大敗した地だ。多くのバルバルが亡くなり、俺の父と母も戦死した。正面から戦えば、あの戦の再現になるだろう」


「じゃあ、森? ムノー皇太子と森へ逃げ込んだ時に思ったけど、帝国って森が苦手みたい」


「ああ。苦手だろう。森へ引き込むのは有効だと思う。けれど森へ引き込んでバルバルが勝利すると、『情勢不利』と考えて帝国軍は撤退する。そして、また大軍で攻めてくると思う」


 帝国は領土が広く兵士の数も多い。

 一戦に全てを賭ける必要はない。

 戦って負けても傷口が大きくなる前に撤退して仕切り直すことが可能なのだ。

 それだけの国力がある。


「そんな! ズルイ!」


「けど、帝国は大国だから再戦出来るんだ。それに森へ引き込んで勝つと『卑怯なバルバルのヤツらは正々堂々と野戦で戦わない! 帝国軍は負けてない!』と言うヤツがいそうだからね」


「「あー! いそう!」」


 ジェシカとロッソが声をそろえ苦笑いする。

 多分、ムノー皇太子とムノー皇太子の取り巻きあたりが声高に叫ぶだろうな。

 あいつら無能な癖にプライドだけは高い。


 今回の戦い。

 帝国軍を退けるだけなら簡単だ。

 ジェシカの言う通り森へ引き込めば良い。


 俺たちが森でゲリラ作戦を展開すれば、帝国軍は森の中で軍を左右に広く展開し俺たちを補足しようとするだろう。


 ゲリラ戦の『点の攻撃』に対して、『面』で圧しようとする。

 だが森の中は見通しが悪いので、数の利は出づらい。

 さらに森の中の魔物が帝国軍を襲う。


 帝国軍は俺たちバルバルと森の魔物の両方を相手取ることになる。

 一気に消耗戦になるだろう。


 やがて疲れ果てた帝国軍は、『バルバルを懲らしめた』とか何とか理由をつけて撤退をするはず……。


 だが、この展開では帝国軍はバルバルに負けたと考えない。


 卑怯なバルバルの戦術に負けた。

 魔の森――地形に負けた。


 ――と考えるだろう。


 それでは、再度侵攻は時間の問題になる。

 だから、帝国人に『バルバルに負けた』と思わせたい。

 可能であれば、『完膚無きまでに負けた』、『バルバルとは二度と戦いたくない』と思わせたい。


 そこまですれば、帝国人のバルバルを見下す態度は改まるのではないか?


 俺は決定的な勝利を望んでいた。

 決定的な勝利を得るべく、頭の中は激しく動いていた。


 帝国軍を屠るため。

 父母の仇を討つため。

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― 新着の感想 ―
主人公の一番のチートはアトス叔父上ですよね。 蛮族だと年若い甥が族長って事になると実力で権限をもぎ取っていく事が多いはず。
お待ちしておりました。更新ありがとうございます。
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