第113話 本村落へ
とにかくもめごとは不味いなと俺は考え、アルゲアス王国の一行を連れて移動することにした。
目的地は、俺たちバルバルの首都にあたるブルムント族の本村落だ。
最近はバルバルも金回りが良くなって、家を建て替え、住民の身なりも良くなった。
それでもアルゲアス王国と比べれば貧しく見えるだろう。
だが、ソフィア姫もポポン将軍もそんな気持ちはおくびにも出さない。
ソフィア姫は森の中に住むバルバルが珍しく感じるようで、道中好奇心を発揮しまくった。
「わあ! ロッソさんと同じトカゲ人間が沢山います!」
「わあ! 木が大きい! 太い!」
「わあ! あれが魔物ですか!」
ソフィア姫にすると目に入る物が全て新鮮なのだろう。
遠足に出た子供みたいなものかと俺は理解した。
「ガイア様。あの青い花は何でしょう?」
「あの花はブルーベルという花だ。バルバルの森によく咲いているよ」
「かわいい花ですね!」
「ありがとう。ブルーベルは食べられないし、薬草にもならない。けれど、俺たちバルバルには身近な花で愛着があるんだ」
俺はブルーベルの花を摘んで、ソフィア姫の髪に挿してあげた。
女の子らしくソフィア姫は喜んでいた。
ソフィア姫とジェシカは仲良しで道中花や野いちごを摘んでいた。
王宮から外に出て本当に楽しいのだろう。
ロッソが常にソフィア姫の近くで護衛をしていたのだが、ソフィア姫がロッソの頭にかわいらしい花輪をのせた時は吹き出してしまった。
また、ロッソが満更でもなさそうな顔をしていたのが、さらにおかしかった。
ソフィア姫は、大好きなジャムのついたパンを食べ放題なので食事にも満足していた様子だった。
ブルムント族の本村落で、アルゲアス王国の一行は歓迎を受けた。
馬を飛ばし先発していたアトス叔父上の仕込みだ。
本村落の村人が摘んできた花を空にまく。
アルゲアス王国の一行は花吹雪に感激しながら本村落に入った。
さすがアトス叔父上だ。
村の集会所が急ごしらえで改造され、アルゲアス王国一行の宿泊所になった。
アルゲアス王国一行を宿泊所に案内しようとしていると、村の外から声が聞こえた。
「おーい! 大変だー!」
三人の男たちが、こちらへ走ってくる。
血相を変えて尋常じゃない。
「ちょっと失礼します」
俺はソフィア姫とポポン将軍に断りを入れて、アトス叔父上と一緒に三人の男たちへ向かった。
「いったいどうした?」
「あ! ガイア! アトスさんも! 帰ってきたのか!」
「ああ、ついさっきな。それでどうした?」
「帝国が攻めてくる!」
「何!?」
男の言葉に、俺とアトス叔父上は顔色を変えた。
三人の男たちは、何があったかを物凄い勢いで話し出した。
三人はブルムント族の本村落から一番近い帝国の町ナルボで床下掃除を請け負っていた。
床下掃除は、古土法を使った硝石採取の隠れ蓑だ。
いつものようにナルボの町で『床下の掃除はいかがですか?』と声を掛けて回っていると、ナルボの町の住人が『早く逃げろ! 帝国軍がバルバル退治にやって来るぞ!』と教えてくれたそうだ。
それで慌ててナルボの町から、ブルムント族の本村落に駆けてきた。
俺は眉間に眉を寄せる。
「間違いないのか?」
「ああ。念のため、他の住人にも聞いたんだ。そしたら早く逃げろと言われたんだ」
複数の住人が言うなら間違いないだろう。
帝国軍再来か……。
「事情はわかった。よく報せてくれた。ありがとう。ひとまず休んでくれ」
俺は三人を労った。
俺たちの会話を他の者も聞いていたのだろう。
ブルムント族の本村落は大騒ぎになった。





