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第109話 黒火薬、強火薬、バル

 俺たち三人は問題の場所に到着した。

 キリタイ族が肥料を作っている小屋だ。

 小屋といっても、コンモリと肥料の山に屋根があるだけの素っ気ない物だ。


 肥料ということになっているが、この肥料の山は硝石を得るための山である。

 硝石――火薬の材料だ。


「ガイアこれを見てくれ」


 エルフ族のエラニエフが山の上から、何かを拾い上げた。

 エラニエフの手をのぞき込む。


 エラニエフの手の中には、紫色の結晶があった。

 俺は首をひねる。


「何だこれは? 硝石の結晶……? いや……色が違うし……そもそも生成が早すぎる……」


「この硝石らしき物で火薬を作ってみた」


「どうだった?」


「非常に爆発力の高い火薬が出来た」


「!」


 エラニエフの説明によれば……。


 エラニエフたちは、マーダーバッファローの角に薬効を増幅させる効果があることをつかんだ。

 そこで火薬にマーダーバッファローの角を粉末にして混ぜてみた。

 すると爆発力が増加した。


 次にエラニエフが手にしている紫色の結晶を使って火薬を作ってみた。

 すると、衝撃によって爆発する火薬が誕生した。

 爆発力も非常に強い。


 つまり、通常の火薬、マーダーバッファローの角を混ぜた強力な火薬、紫色の結晶を使った火薬の三種類が存在すると言うのだ。


 俺は理解が追い付かず首をひねる。


「衝撃によって爆発するというのはどういうことだ?」


「矢の先に火薬をくくりつけて放てば、着弾と同時に爆発する」


「着火する必要がないのか!」


 火薬は単体では爆発しない。

 信管と組み合わせることで爆弾になる。


 この世界には信管がないので、火矢や火魔法で火薬を爆発させているのだ。

 だが、この新たな火薬であれば、爆弾やミサイルと同じ兵器になる。


「凄いぞ! エラニエフ! 矢を使って遠距離から打ちまくれば、圧倒的じゃないか!」


 俺は興奮して前のめりになるが、エラニエフは眉根を寄せた。


「難しい部分もあるのだ。一つは、この紫色の結晶が少ない」


「ふむ……まだ作り始めて間もないからな……」


 生産量が少ないのは致し方ない。

 そもそも、硝石丘法は硝石を得られるようになるまで時間が掛かるのだ。


「もう一つは、取り扱いだ。何せ衝撃を加えれば爆発する。少量を藁に包んで運ばねばならぬ」


「なるほど。取り扱いが難しいのか……」


 衝撃を与えたらドン!

 運搬、保管を慎重に行わなければならない。

 うっかりロッソが火薬を叩いたら大惨事だ。


「しかし、なぜこんな色の硝石が出来たのだろう?」


「うーむ、火薬の材料になったので、硝石は硝石だと思うが……」


「それに硝石の生成が早すぎる。もっと時間の掛かる方法なのだが……」


「そうなのか? ううん……」


 俺とエラニエフは考え込んだ。

 すると成り行きを見ていたアトス叔父上が話に入って来た。


「ガイアよ。今は細かいことは気にしないで良いのではないか? とにかく硝石があり、火薬が作れることが大切なのだ。原因の究明は後回しで良い」


「そうですね」


「とにかくマーダーバッファローの角を確保することが大切なのだ。キリタイ族がマーダーバッファローを狩り尽くさないように警告をしなければならんぞ」


 実務家のアトス叔父上らしい。

 エラニエフは研究者肌だから原因を究明したくなる。

 理を知ることは大切だが、おいおい研究すれば良い。

 俺はアトス叔父上のアドバイスに従うことにした。


「わかりました。とにかくキリタイ族と合流するようにしましょう」


「うむ。それから、火薬が三種類あるのだな? 呼び方を決めてくれ」


 確かに数種類火薬があるなら、名前を決めなければ呼びづらい。

 エラニエフもうなずいている。


 俺は少し考えてから、火薬の名前を告げた。


「普通の火薬は黒火薬と呼びましょう」


 エラニエフとアトス叔父上がうなずく。


「そうだな、黒い火薬だから黒火薬でわかりやすい」


「うむ。良いだろう。」


 次はマーダーバッファローの角を混ぜた火薬だ。

 マーダーバッファローの角は白い。


「マーダーバッファローの角を混ぜた火薬は白火薬にしましょう」


「そうだな。黒火薬に白い粉が混ざる」


「見た目に近いなら間違わなくて良いだろう」


 白火薬もOKが出た。

 白火薬は爆発力が強いが着火が必要な火薬だ。


 そして、最後はこの謎の紫色の硝石を使った火薬だ。


「この紫色の硝石を使った火薬は、紫火薬でどうでしょう?」


「うーん」


「安直ではないか?」


 あれれ?

 あまり反応が良くないぞ。

 分かりやすいと思ったのだが……。


 アトス叔父上が、アゴに手をやる。


「エラニエフの説明では、紫火薬は強力な火薬なのだろう? 我らの切り札……」


「そうですね。アトス叔父上の言う通りです」


「ならば正体が分かりづらい方が良い。紫火薬では、この紫色の結晶が材料とバレてしまうかもしれない」


「なるほど! 材料を秘密にするためですか!」


「うむ」


 機密保持の側面は考えてなかった。

 紫火薬は秘密兵器……。アトス叔父上の言う通り、名前は変えた方が良いな……。


「では、普通の火薬は黒火薬。白火薬は強火薬。紫火薬はバルと呼びましょう」


「バルバルのバルか! 良いのではないか? ワシは賛成だ」


 アトス叔父上にOKをもらえた。

 エラニエフはどうだろう?


「了解した。黒火薬、強火薬、バルだな。エルフの間でも周知しておこう」


 火薬の名前が決まった。


「エラニエフ。三種類の火薬を出来る限り生産してストックして欲しい。金は払う」


「了解した。人を増やすか……」


「必要な物があれば、俺かアトス叔父上に言ってくれ」


 火薬製造のような細やかな仕事は、バルバルの諸部族には向かない。

 良くも悪くも単純な連中が多いのだ。


 アトス叔父上が何かに気が付き地平線を指さす。


「あっ! あれはキリタイ族ではないか?」

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― 新着の感想 ―
帝国は適当な理由でまともな出兵ができるのか怪しい中で討伐を決めたのに対してバルバル側は大きな技術革新。面白くなってきた
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