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第102話 ベッヘンハイムと一騎打ち(前編)

 ベッヘンハイムが一騎打ちを申し出てた。

 ベッヘンハイムはアルゲアス王国側を挑発し、ソフィア姫が一騎打ちを受けてしまった。


 ガレー船の甲板は戦闘が収まり、海賊と兵士たちはキョロキョロと周囲を見ている。


『どうする?』

『誰がやるんだ?』


 探るような視線が交錯している中、俺は一歩進み出てノルン王国語で一騎打ちに名乗りを上げた。


「俺が受ける! 俺はバルバル! ブルムント族族長のガイアだ!」


「「「「「オオ!」」」」」


 俺の名乗りに甲板の上がドッと盛り上がる。


 巨体のベッヘンハイムが、面白そうに俺を見る。


「ほう! 勇気を見せる者がいたか! だが、小僧! 良いのか? 寝小便が治ってないのではないか? 今なら母のスカートの中に逃げられるぞ!」


「「「「「ギャハハハ!」」」」」


 ベッヘンハイムのからかいに甲板上の海賊たちが大笑いする。

 俺はフッと笑ってベッヘンハイムのからかいを軽く流す。


「そういうの要らないから。オマエこそ、母ちゃんに別れを告げておけよ」


「「「「「おお~!」」」」」


 甲板の海賊たちが俺の返事を聞いてうなる。

 ベッヘンハイムは満足そうにうなずいた。


「なかなか肝の据わった小僧だな! 良かろう! 支度しろ!」


 ベッヘンハイムの言葉で、海賊たちが甲板上に輪を作り始めた。

 一騎打ちの舞台というわけだ。

 アルゲアス王国の兵士たちはノルン王国語が分からないが、状況を察して輪を作る。


 俺の妻ジェシカと大トカゲ族のロッソが寄って来た。

 ジェシカは眉根を寄せて難しそうな顔をしている。


「ガイア。気をつけてね」


「ああ。大丈夫だ」


 これから生死を掛けた一騎打ちをするのに、ジェシカは落ち着いている。

 肝の据わった頼もしい女房殿だ。


 俺は身軽に動けるように、ベルトや短剣など余計な装備を外してロッソに預ける。


「ソフィアちゃん、珍しいよね。あんな挑発に乗るなんて」


 ジェシカはソフィア姫の対応に不満らしい。

 勝ち戦だったのに、ソフィア姫が激高したことで一騎打ちを受けざるを得ない状況になったのだ。

 ジェシカが不満を持つのは仕方ない。


 まあ、しかし……。


「アルゲアス王国の王族は家族愛が強いのかもしれないよ。家族を侮辱されたから、ソフィア姫はあれだけ怒ったのだろう。まだ、子供だからしょうがないよ」


 俺の言葉を聞いてジェシカの表情が柔らかくなった。


「そうね……。そうよね! ソフィアちゃんがシッカリしているから忘れがちだけど、まだ十歳だもんね」


 俺もジェシカも両親を早くに亡くしている。

 家族を大切に思う気持ちは痛いほどわかるし、バルバル自体血縁者や同族を大切にする傾向が強い。

 家族を侮辱されて怒るソフィア姫の気持ちは、よくわかる。


 それにソフィア姫の兄アレックスは、本当に妹思いだ。

 自分を思ってくれるお兄ちゃんをバカにされれば、カッとなるのも仕方ない。


 俺が余計な装備を外して剣を握ると、ソフィア姫がポポン将軍と護衛の兵士を引き連れてやって来た。


「ガイア様……。申し訳ございません……。わたくしが挑発に乗ってしまったばかりに……」


 俺は苦笑を返す。

 ポポン将軍を見ると、何とも情けない顔で頭を下げられた。

 ソフィア姫が言葉を続ける。


「ポポン将軍に叱られました。勝ち戦だったのに、わたくしがダメにしてしまったと……」


 ソフィア姫が目をウルウルさせる。


 まいったな!

 俺の今の気持ちは、妹に泣かれそうな兄貴の気持ちだろうか?

 アレックスがソフィア姫を甘やかす気持ちが分かるよ。


「大丈夫! 任せとけ!」


 俺はドンと力強く胸を叩いた。


 ベッヘンハイムは強敵だと思うが、生憎俺の体は再生する。

 頭部への一撃であるとか、体を両断されるとか、クリティカルな一撃に気をつければ、そうそう死ぬことはない。

 もちろん痛いのは嫌だが死への恐怖が軽減されるだけで、リラックス出来る。

 力を発揮することが出来るだろう。


「それにデカイヤツの相手は得意だから! 安心して見てな!」


 戦闘訓練では大トカゲ族のロッソやバルバルの戦士が相手になってくれる。

 訓練相手は、みんな俺より大きいのだ。

 大きいヤツの隙をつく戦い方は大得意!

 ベッヘンハイムにも勝つ自信がある。


 俺が自信満々の言葉を口にすると、ソフィア姫の表情が笑顔に変わった。

 キラキラとした目で俺を見る。


「凄いです! ガイア様! ご武運を!」


「おう!」


 ポポン将軍に黙礼し、ジェシカを抱き寄せて軽く口づけをする。


「帰ってきたら続きだ」


「もう!」


 俺の下世話な冗談に、ジェシカが顔を赤らめる。


 大トカゲ族のロッソが、ポンと俺の肩を叩く。


「ガイア。いつも通りにな」


「ああ。大丈夫だ」


 俺はバルバルとアルゲアス王国の仲間に見送られて、甲板中央にぽっかり空いた人の輪に歩みを進める。


 ザワついた空気。

 男たちの汗の臭いを潮風が吹き飛ばす。


 俺が人の輪の中央に立つとベッヘンハイムが、巨大なウォーハンマーを担いで進み出てきた。


「よう、色男! 女と別れは済んだか?」


 俺はベッヘンハイムに淡々と応じる。


「いや、夜の約束をした。さっさと終らせようぜ。女と続きをやりたいんだ」


「ガッハハッ! イイぞ! オマエ凄くイイな! 殺すのが惜しい!」


「じゃあ、やろうぜ」


「おうさ!」


 いきなりベッヘンハイムは、ウォーハンマーを思い切り振り下ろしてきた。

 合図も何もない。

 先手必勝のケンカ殺法だ。


 轟音を上げるウォーハンマー。


(振り下ろし速度は速い! だが、振り終わりに隙が出来るはず!)


 俺は落ち着いてウォーハンマーの軌道を読み左に避ける。

 ウォーハンマーが振り下ろされたら、俺は剣を喉元に入れるつもりでいた。


 だが、俺の思うとおりに進まない。

 ベッヘンハイムは、振り下ろしたウォーハンマーが甲板を叩く前に、俺の逃げた方向へウォーハンマーを動かした。


 ウォーハンマーの軌道が急角度で変化し、横薙ぎの一撃が俺を襲う。


「うおっ!」


 回避は間に合わない!

 俺は驚きつつ剣で横腹をカバーしながら、つま先で甲板を蹴る。


 ベッヘンハイムのウォーハンマーが、俺の横腹を捕えた。

 俺は派手に吹っ飛ばされ、人の輪に突っ込む。


「うわっ!」


「はじき飛ばされたぞ!」


「死んだか!」


 ギャラリーが興奮して声を上げる。

 俺はムクリと立ち上がった。


「イテテ! 死んでねえよ!」


 脇腹に痛みはあるが、とっさに剣でカバーし、横っ飛びしたのでダメージは軽い。

 肋骨にヒビ程度だろう。


 シュウシュウと微かな音が横腹から聞こえる。

 早くも肉体が再生しているのだ。

 十分やれる。


 俺が立ち上がるとベッヘンハイムが悔しがった。


「ちっ! 浅かったか!」


「残念だったな。続きをやろうぜ」


 俺が剣を構えると、ベッヘンハイムが首を傾げた。


「おい! その剣で良いのか?」


「ん? あれっ!?」


 俺の剣は曲がってしまい、剣先はあさっての方角を向いている。

 ベッヘンハイムのウォーハンマーを防いだ時に、曲がってしまったのだ。


「あー! 俺の鉄剣が!」


「がははは! 安物をぶら下げているからだ!」


「バカ野郎! 鉄剣は高価なんだぞ! 良い物だったんだ!」


「なんの! なまくらよ!」


 ベッヘンハイムが楽しそうに笑う。

 くっそう!


 ノルン王国は鉄器が名産品だ。

 俺の鉄剣はなまくら扱いかよ!


 初戦で拾ってからずっと使っていた剣を曲げられて、俺は涙目である。


 ポポン将軍が俺に近づいて、腰の剣を差し出した。


「ガイア殿。これをお使いなされ」


「よろしいので?」


「ノルン鉄の名剣には劣りますが、これもそれなりの物です。ぜひ、お使い下さい!」


「ありがとうございます! お借りします!」


 ポポン将軍が差し出した剣を握ると、ズシリと重く、しっかりとした印象を受けた。

 剣を握っていて安心感がある。


 柄の革巻きも握りやすく。

 手のひらに吸い付くようだ。


(良い剣だな)


 アルゲアス王国の老将軍が腰に下げている剣だ。

 ポポン将軍は謙遜していたが、かなりの名剣だと思う。


 俺はポポン将軍の剣を握ると、目をギラギラさせたベッヘンハイムに再び対峙した。


「待たせたな!」


「行くぞ! 小僧!」

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