私、駅前で吸血鬼、拾っちゃいました。
現在連載している吸血鬼作品とは全く別世界のお話としてお読みください♪
「あ、おかえりなさい、お姉さん!」
ああ、癒される!
残業を終えて帰ってきた私—時田 春乃—を笑顔で出迎えてくれたのは、見た目がうーん……男子小学生……ではなく、何でも由緒ある吸血鬼の末裔で名前は『ルーベリック』。
でも長いから私はルーくんと呼んでる。
本人も嫌がってなさそうだし、この呼び方で問題ないだろう。
そう、それは半年近く前の事。
今日と同じように激務を終え、私は帰宅の途に就いていた。
新卒で入ったその企業はとある有名企業。。
誰もが羨むような、そんな企業なのだが、ふたを開けたらそれは優良企業の皮を被ったブラック企業。
仕事に心と体力を削られているうちに身体は疲れ果て、そして心は疲れを通り越して、麻痺をしていた。
そんな私の前に現れたのがルーくん。
なんとかかんとか終電で辿り着いた最寄り駅。
私はそこで、まるで捨てられた子犬のような彼を見た。
いや、実際に捨てられていた。
だって泣きべそをかきながらダンボール箱に入ってたんだから。
「お、お姉さん、僕に血を分けてください」
涙目の上目遣いで私を見上げるルーくん。
いやいやいやいや、確かにショタっこは大好物……いやいや、小学生ぐらいの男の子は嫌いじゃないけど、いきなりダンボールに入った男の子に血をくれって言われたって、そんな簡単にあげられる訳ないでしょ!?
ここは大人の女として、毅然とした態度を示さなければ……!
「えっと……君、いくつ?」
「え……?この6月で3500歳になります!」
よっしゃ!法律的には略取しても問題ない年齢!
これは合法ショタだ!
そんなこんなで私はルーくんの手を引き、我が家までお持ち帰りしたのだった。
「で、何で血が欲しいだなんて言ってたの?ルーくん」
私は床にちょこんと座る彼にお茶を出しつつ、先ほどの事を尋ねる。
ま、それ以外になんであんな時間にあんなとこにいたのか?何故ダンボールに入っていたのか?など、聞きたい事は山ほどあったんだけど……。
「あ、僕、実は吸血鬼でして、それで血を飲まないと、あと少しで灰になって死んじゃうんです」
「え……?」
そ、そんな。
い、いや、そんな荒唐無稽な話を「はいそうですか」と簡単に信じる訳にはいかない。
だって吸血鬼だよ?
そんなのすぐに信じられる訳ないじゃん。
あ、でもすごくキラキラした目をしてる。
まるで餌を目の前にした子犬……って言うか、実家にいるトイプードルのペコちゃんを思い出すっ!
ああ、実家に半年近く帰ってないけど、ペコちゃん、私の事、ちゃんと覚えててくれてるかな?
いやいや、思考が脱線してしまった。
「ち、ちなみに、あとどのぐらい血を飲まないと死んじゃうの?」
「え、えっと、あの、最後に飲んだのが一昨年なので、あと半年ぐらい飲まないと死んじゃいます」
あ、思ってたよりずっと長い。
ルーくんの様子からして、今日とか明日とか、もっと短いものだと思ってたし。
「あーそれならさ、これから半年間、君が本当に吸血鬼なのかどうか?見極めさせてよ。ね?」
はっきり言ってこの日はとても眠かった。
今日だって夕食を食べたら、シャワー浴びて寝てしまおうって思ってたし。
だから夕食は職場の近くのコンビニで買ってきている。
これをルーくんと半分こして食べようかな?
「ルーくん、夕食だけど……」
「あ、僕、吸血鬼なので食事はとらなくて良いんです」
あ、そうなんだ。
うーん、もしかして、ルーくんのお話もあながち噓ではないんじゃないだろうか?
私の中でそう思えるようになってきたのだった。
「あ、でもお姉さん、コンビニ弁当ばっかりじゃ栄養偏りますよ?」
自称吸血鬼に食事について注意されちゃったよ……。
いや、あの頃はルーくんの事、全然信じてなかったけど、最近は本当に吸血鬼なんじゃないかって、思うようになってきた。
って言うのも、ルーくん、本当に一度も食事をとらないんだもん。
いや、それどころか朝食にお弁当、それに夕食、それ以外の家事も全部してくれる。
ま、何気に毎食鉄分が多めのメニューばっかりだったけどね。
それに毎日部屋で待っててくれる人がいるだけで、私のモノクロだった生活にも色がついてきたような、そんな気がするのだ。
そして今日も夕食を食べ終え、ルーくんと一緒にお風呂を浴びている時だった。
何だか急に元気がなくなり、へたり込むルーくん。
「ちょっ!大丈夫っ!?」
ちょうどルーくんの体を洗っていた私は彼を抱え上げ、声を掛ける。
「えっと……そろそろ血を吸わないと……灰になってしまいそうなんです……」
ああ、そう言えば、ルーくんを拾ってそろそろ半年。
その間、私はずっとルーくんの吸血を拒否し続けてたんだった。
「あの……僕は灰になっちゃいますけど、お姉さんとの生活はとても楽しかったです……」
ルーくんの体からどんどんと力が抜けていくのを感じる。
だ、ダメだ!このままルーくんを死なせる訳にはいかない!
「ルーくん!私の血を飲んで!」
「え……でも、お姉さん、僕の事……」
「ルーくんが吸血鬼かどうかなんて関係ないっ!でも、私はルーくんを失いたくないのっ!」
そして私はルーくんの、その小さな体をぎゅっと抱く。
ルーくんが私に嚙みつきやすいように、首筋に頭を持っていくようにして……。
「ごめんなさい、お姉さん。いただきます」
それは、本当に優しい優しい、ペコちゃんが私に甘嚙みをしてきた時よりももっと優しい嚙みつかれ方。
そして……。
「……んっ!」
軽く痛みを感じたと思ったら、その嚙みつかれた部分から快感が広がっていく。
得も言われぬ幸福感に私の視界が真っ白に染まる……。
そしてその快感の波が過ぎ去り、私が目を開けると……。
「え!?」
目の前には……一人の、素っ裸の男性が!?
って、私も何だかんだで素っ裸なんですけど!
しかもすっごくイケメンなんですけど!
「ふぅ、やっと元の姿に戻れた……春乃、感謝するぞ」
え?この人、なんで私の名前を!?
って言うか、ルーくんは!?
「あ、あの、る、ルーくんは……?」
「ああ、俺がそのルーくんだ!」
え、ええっ!?
こんな事って……?
「ずっと、ずっと会いたかった!」
訳も分からず抱きしめられ、キスをされる。
あれ……?この感覚……頭の中に映像が……。
これは私だけど、私じゃない。
思い出したのはこの男性との恋愛の記憶……。
「やっと前世の記憶を思い出したようだな」
全て思い出した。
私は前世でこの人と恋に落ち、だけど人間だった私の方が先に死んで……。
ああ、嬉しい、やっと再会できた!
私はお風呂の中であるにも関わらず、ルーくんに体を委ね、そしてそのまま夜が明けたのだった……。
「もうっ、信じらんない前世は知らないけど、今回は初恋だったんだよっ!?」
「ご、ごめんなさい、お姉さん」
文句をぶつぶつ言う私に、少年の姿に戻ったルーくんは謝罪する。
ルーくんはあの後めちゃくちゃ痛がる私に対してお構いなしにぶっぱなし、それで満足しちゃったのか元の姿に戻ってしまったのだ。
「それに……できちゃってたらどうすんのよ!?この世界にはコンドームっていう、便利な物があるの!知らなかった?」
「そ、それは……まさかお姉さん、初めてだと思わなくて……それに前世じゃ子供もたくさんいたし……」
どうやらあのイケメンのルーくんの状態だと理性が働かなくなるらしい。
ちなみに元の姿に戻るにはまた私の血が必要だって事だ。
「もうっ、反省としてあと3年、そのままの姿でいなさいっ!」
「え、そ、そんなぁ……」
おしまい!
ここまで読んでくれてありがとうございます!
3000文字に六題詰め込んだので、かなり展開の早い話で説明不足感は否めないのですが、楽しんでいただけましたでしょうか?
私自身、メインで小説投稿を書いているサイトはノベルアッププラスなんですが、たまにはこちらに顔を出すこともありますので、その際はよろしくお願いいたします。
それではまた♪