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集え!あやかし研究部  作者: 三田るな
第一章 「俺のなんてことない日常」
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第九話 「解答」




「そうそう、あともう一つ大事なことがある」




 荻野は自ら話し出した。




「あの妖を助けたいなら時間がないって言ったのには理由があるの」




「妖には位がある。下級から上級まで。明確に決まりはないし、浄土のような通過儀礼があるわけでもない。それは何で決まるかというと、魂の重さで決まるの」




 俺と良平は首を傾げた。



「魂って測れるの?」




「ううん。物理的な重さじゃなく、どれだけ生前の記憶や生への執着を持っているかで決まるの。それが多いほど重い。そして魂が重い上級の妖は、それだけ出来ることも増える。さっき言ったように、他の妖に触れたり、人間に存在をちらつかせたり。人間に何か危害を与えることだってある」



「あの血まみれの妖は、あなたたちに会って、どんどん生への執着を増していたの。妖は孤独だから、助けてくれる人に出会えただけでも、欲が生まれ、執着が増す。だから…」






「だから、むやみに関わるなって言いたのかな」




 良平は立ち上がった。そして膝や腰についた土を払いながら、目も合わせずに軽く笑った。




「それは多分無理だな、荻野さん」





 荻野はなぜ?という顔をした。





「光希はさ、君が思うより五兆倍くらいお人好しなの。しかも小さい頃からずっと、そういう類の奴らと意思疎通が取れてきた。こいつにとって、妖も霊も、人間と変わらないんだよ」








 俺は良平を見つめた。そうかもしれない、と思った。







「光希、覚えてるかな?」







「何を」





「お前のお母さんと妹がさ、体をのっとられたことあったじゃん。荻野さんの説明を聞いて、ようやく少しわかった気がして、俺は嬉しいんだけど」





 覚えている。昨日のことのように鮮明に。




 でもあまり人に言いたくなくて、封じ込めていた記憶だ。





 良平はそんな俺を気遣うように少しだけ俺を見て、話を続けた。







「あの時俺たちはほんの13歳だった。お前の家にいつも通り遊びに行ったら、お前のお母さんも理亜も、訳わかんないことを言いながら、俺たちを殺そうとしたね」





 怖かった、とても。






 母親と、まだほんの赤ちゃんだった理亜が、俺に憎悪の目を向け、包丁を手に取り、「お前なんか死んでしまえばいい」と言ってきた。気配が違った。家の中なのに、どこか見知らぬ場所であるかのような疎外感があった。いつでも思い出せるが、忘れたフリをしている。





 俺が初めて、自分のこの霊感を呪った事件でもある。





 俺と一緒にいるから、こんなことになったのかもしれないと自分を責めたりもした。






「そうそう。実の親と妹にさ、死ねだの、お前の存在が憎いだっけな?そんなこと言われて、包丁振りかざしてきてさ。まあ、もうその時は別に…」





俺は必死に取り繕っていた。笑顔を作った。自分でもみっともないと思ったが、取り繕うのはやめられなかった。




 あれは母さんと理亜じゃない。もう頭ではわかってるじゃないか。今ならぶん殴ればいいってわかってるし。怖がる必要なんてない。

 




 荻野はそんな俺をじっと見つめている。






「カッコつけんな、光希。さすがにそれくらいわかる」






良平は冷静に言い放った。








「お前はあの時もそうだった。俺に部屋の中で待ってろって言ったね。俺は心配だからお前について行ったんだ。何かあったら助けようと思って。お前はホウキを引っ掴んで、思い切り実のお母さんとまだ幼い妹をぶん殴った」



「見てたのか。とにかく動きを止めなきゃ、気絶させなきゃって必死だったんだ」



「家族に死ねって言われたら、包丁を突きつけられたら、怖いはずだ。お前はそんなそぶり見せないようにしてたつもりだろうけど、さすがに俺は気づいてた。家族が霊にのっとられてるってお前はすぐ気づいた。信頼してる家族をぶん殴って、お前は何事もなかったかのように部屋に入ってきて、笑ってた。体質のせいにしてな。俺のせいだしなって言ったんだ」





「何が言いたいかと言うと、お前はそんな時でさえ、霊のせいにはしないんだよ。霊があるのは仕方なくて、そんな世界を変えることはできないんだから、そういう存在を引きつけてしまう自分が全部背負えばいいと思ってる」









 良平を見つめた。目の奥がメラメラ燃えていた。消える寸前の血まみれ野郎にやっぱり似ていた。








「俺はあの時、お前に本気で怒って欲しかったんだよ、光希。残酷なことをする霊に対して悔しがってほしかった。あと…」






 荻野は優しく微笑んだ。










「俺はあの時、お前に助けてくれって言って欲しかったんだ」






 良平は真っ直ぐに俺を見つめている。コイツは小さい頃から、言わなきゃいけないことは相手の目を見て言う。







 つーっとこそばゆい感覚が頬を伝った。思わず涙が出た。初めてだ、そんな事を言われたのは。









 日が落ちている。肌寒さを吹き飛ばすように、どこからか突風が吹き抜けていった。












-つづく-









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