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集え!あやかし研究部  作者: 三田るな
第一章 「俺のなんてことない日常」
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第三話 「講義室Ⅱ」


「あ…マジかよ…」



 俺と良平は放課後、講義室Ⅱに直行した。


 ガラガラと扉を開けると、朝そこに置き去りにしてきた血まみれの霊と、初見の本を読んでいる陰気な女が席を離して座っていた。



「え、みつきの知り合いじゃないのか」



 良平は困ったように俺をみた。



「お前に見えてるってことは、あの女は人間なのか?」


「俺に聞くなよ。俺も知らねえんだから」



 陰気な女はこちらを振り返り、読んでいた本をパタリと閉じた。視力が低いんだか睨んでいるんだか、とにかく目つきが悪い。


 

 そんな女のことが気にならないのか、血まみれ野郎は女を無視して近づいてきて、俺らの前でまた膝をつき、丁寧に出迎えてきた。



「ご主人!待ちくたびれて再び死んでしまうかと思いましたよ」


 相変わらず血はべっとりと全身についていて、特に顔がひどい。血まみれの顔で、嬉しそうに笑っている。


「笑えない冗談やめろ。お前、なんか人間にちょっかい出した?あいつなに?」


 血まみれ野郎は首を傾げた。すると、女が急に立ち上がり、近づいてきた。良平も俺もどうしたらいいかわからず、そこで立ち尽くすしかなかった。


 「それが、存じ上げないのです。わたくしの声が聞こえているのか否か、全く読めないのでございます。でもあのおなごが入ってこられた時に、確かに目が合ったのでございます」


 

 どうせ俺にしか聞こえないのに口元に手を添えて小声で話している。

 



聞こえてるわけない。見えてもいないはずだ。


俺はこの16年間生きてきて、1度も自分と同じような人間に会ったことがないのだから。




 気味の悪い血まみれ野郎に気味悪がられているという事実が気味悪い。



 なんだ、この女。なんだかとてつもなく最悪なボスキャラのような気がしてきた。



 良平が俺のシャツの裾を掴んでくる。



「こっちくるぞ。みつき、なんとかしてくれ。」



 こんな女子みたいな仕草をして、良平は冷静に困っている。いやいや、俺だって困る。大体あんな陰気な女、同学年にいた気がしない。1年か、3年か。



そもそもなんでこの教室にいる?



いやまて、本当に人間か?






「あんたたちが連れ込んだの、この人」







 その女はイメージ通りの棒読み加減で、俺たちを見据えている。良平の目はしっかりとその女を捉えており、つまりそれはこの女が人間であることを意味している。




 そしてこの女も、見えている。





 良平に目配せを送ると、良平はうなづいた。




「きみは…?まずなんでここにいる?いや、何年生だ?話したことあったかな。あいつなんか言ってたか?」



 俺は息継ぎをしなかった。喋った後に息がきれるほど、焦っていた。ここが、この学校で唯一の、俺と良平が秘密を共有してきた場所だったから。


 良平の心臓の音が聞こえる気がした。きっと良平も、焦っているはずだ。





 誰も入らない教室。そもそもこんなところがあるのかどうかすら知らない人の方が多い。旧校舎の廊下は真っ直ぐに見えて少し歪んでいて、手前の出っ張った柱によってこの教室がきれいに隠れている。電気も手前の方しか付いておらず、奥は暗く、埃っぽい。かろうじてあることは知っていたとしても、入ろうとは思わない。




 もしこの女が血まみれ野郎を見つけて、ここに入ってきたとするなら、本を読んで座っていられるほど落ち着いていられるはずがない。




でももし、見えていたら。







人生で初めてだ。俺以外の、「見える」人間。









「萩野椿、1年生。私が誰だとか今はそんなこと、どうでもいい。このあやかしに協力したんでしょう。それならもう時間がないの」





1年生?てことは14か15歳?ずいぶん大人びている。





「ありがとう。あと、そっちの人。彼女さんへの連絡が気になっているなら今したほうがいい」





んん?





「あらやだ。やはりお見えになっていたのですね。あらやだ、お恥ずかしい。ずっと1人問答していたじゃありませんか。わたくしったら…」



 血まみれ野郎がまたやかましく喋りだす。




 良平を見つめると、同じ顔をしていた。




 俺、今思ってること口に出したっけ?




荻野椿は深いため息をつくと、うんざりした様子で側の机に再び腰かけた。



「私はね、考えていることがわかるの。でも超能力とかじゃない。人に見えないものが見えるだけ。わかる?」




いや、全然わかりません。




「私もできますよ、椿様。同志ということじゃありませんか。それにしても、綺麗なお名前ですね」



 血まみれ野郎は無視されていることを気にせず荻野に話しかけ続けている。こいつはいいのか悪いのか、絶妙な塩梅で空気が読めないのだろうか。



「そんなこと本当にあるんだな…」


 良平は驚きすぎていつもの冷徹なイメージがまるで崩れている。



 そろそろ俺のシャツを離せ。女子じゃないんだから。





「ほら、はやく。今日は彼女さんと一緒には帰れないから。映画もキャンセルね。かわいそうだけど」





 良平は我に返り、携帯を取り出してふと、動きが止まった。





「…なんで?どういうこと?」




素朴だがいい質問だ、良平。




「お前…えっと、荻野。お前が変な能力があるのはわかった。俺も同類だ。こいつが見える」



 こいつと呼ばれ、血まみれ野郎は待ってましたと言わんばかりに身を乗り出す。



 荻野はふん、と鼻を鳴らした。



「自己紹介してる場合じゃないの。もう一度言うけど、このあやかしには時間がない。見えて聞こえるなら話が早いってことでいいのね。早くして!」


 荻野はそうまくしたてると、俺らの腕を掴んで教室を出た。



「おい!荻野!まずワケを話せよ!なんだよ時間ないって!」


 

 どうやら俺の話も無視するようだ。そんなに切羽詰まっているのだろうか。良平は眉間にシワを寄せ、深刻な表情で静かに荻野に着いて歩いている。付き合いが長いからわかる。こいつはもうこれから起こることに覚悟を決めているのだ。



 荻野は小走りで学校の脇の道路の脇を進み、途中でたまたま来たターミナル駅に向かう市営バスに乗り込んだ。そして俺らを1番後ろの端の席に座らせると、自分はその前の席に座り、その隣に血まみれ野郎を座らせた。




「今のうちに説明する。いい、この人は自分が死んだ瞬間を覚えてない。死ぬ前のことすら忘れちゃってるの。それには理由がある」



 荻野はとても焦っていた。こんなに霊のために一生懸命になるなんて、実はかなりのお人好しなんだろうか。





「この人はね、もう霊じゃないの」





-つづく-

 







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