4.好奇心
最近のわたしのブームは、おじいちゃんからもらったルーペで魔石を見ること。ルーペを目の近くで固定して、魔石を近づけたり、離したりして、ピントを合わせる。そして光の当たり方を変えるようにして、魔石を持つ手を動かせば、そこは、色鮮やかな輝きの世界に包まれるのだ。
見とれてしまい、しばらく口が開きっぱなしになるのはご愛嬌。
売られてくる魔石は、ごろっとした岩のような塊で、ところどころキラキラが飛びでている。はじめはあまり輝いていない。それもおじいちゃんの手にかかれば、岩の部分が取り除かれて、全面がキラキラに仕上がる。わたしはその岩を取り除いた後のキラキラをこうして、覗かせてもらえるようになった。
魔石はひとつひとつ色も違えば、輝き方も違う。さらに、おじいちゃんのようなプロになると、その魔石のもつ魔力が多いとか、少ないとかがわかるらしい。わたしにはまだ「魔力」が何なのか良くわかっていない。今はキラキラを楽しめればそれで良い。
ルーペを使って魔石を見るようになって、はや数か月。わたしは店に置かれた緑色の魔石に釘付けになっていた。
緑色の魔石のなかに水のような、液体のような、動かすたびに、光の当たり加減とはまた違ったなにかが魔石の中を漂っている……ように見える。
いま、お客さんが来ているが、おじいちゃんと店の奥に行ってしまって、この場には一人。店の奥の部屋に入ったときは「商談中」だから話し掛けてはいけない。
しかし、この魔石が気になって仕方がない。魔石の表面を削れば、中の漂っているものの正体がわかりそうだ。でも、研磨機は危ないからと、いまだに触らせてもらえていない。こうなったらもう、方法はひとつだ。
がきんっ
困ったときのじつりょくこうし。研磨機が危なくて使えないのだから、研磨機を使わずに魔石を割ってしまえばいいのだ。
砕けた魔石の大きい欠片を丁寧に寄せ集めて、さきほどの漂っていたものを含む欠片を探す。真剣になって魔石と睨めっこしていると、奥からおじいちゃんが戻ってきた。
「おーい、ツィエン。さっき、すごい音がしたんだが……って」
ハンマーを片手に持つわたしと、床に散らばった緑の魔石の欠片たち。
おじいちゃんと唖然とした表情に、この状況は誤解されかねないと慌てて言葉を紡ごうとするも、なかなか言葉が出てこない。このままでは、わたしがいたずらをしたように見えてしまうではないか。ワケを話さなくては。
「……あ。えっとね、魔石のなかに何か入ってたから、それで……」
おじいちゃんは全部を聞き終わる前に、頭を抱えて大きなため息をついた。
いやいや、違うんですって、わたしはいたずらをしようと思ったわけではなくて、魔石を調べようとしただけなんですよ?と思いつつも、喉がキュウとしまって言葉が出てこない。
「今日はもういい。店は閉めるから、部屋に戻ってなさい。割れた魔石には触れるんじゃないぞ」
「おじいちゃん、ちがう」
「何も違うことはない。ツィエンは商品を売れないガラクタにしたんだ。売り物を大事にできない奴は俺の店に立たなくて結構だ」
そう言って、おじいちゃんは私の方に目もくれないで、お店の扉に鍵をかけてカーテンを閉める。そしてそのまま、お客さんが待つ部屋に戻っていった。
取り残されたわたしは、たぶん泣いたのだと思う。おじいちゃんに怒られたことで、じゃない。わたしは魔石商として、魔石のことを知りたかっただけなのだ。それなのに、理由も聞かずに、店に立たなくていいなんて、未来の魔石商にむかって、あんまりじゃないか。たしかに割ったかもしれない。けれどそれは、私にとって必要なことだったのだ。
悔しいような悲しいような、そのうち、ごめんなさいという気持ちも出てきて、自分の感情についていけなくなったわたしは、その場で泣きつかれて寝てしまった。